第10話 小さくなる後ろ姿

その日の放課後、僕はしばらくユリコの後をつけた

本当はすぐにでも声をかけたいが

学校の前で話しているのを、あの二人組に見られでもしたら

次の日何を言われるかわからない


学校が見えなくなった辺りで

とぼとぼ足取り重く帰るユリコを呼び止める

「ユリコさん 待って! 久しぶりだね、体調良くなった?」

僕はユリコに駆け寄り、こう言った


ユリコはうつむいたまま

「ユリコでいいよ……」と小さい声で呟いた

「あっえっと ユ、ユリコは体調良くなった?」

「うん」

気の抜けた返事を一言

この前の明るいユリコとは一転

今まで以上に人を引き付けない雰囲気を醸し出していた


仲良くなれたと思ったのは、どうやら僕の方だけだったらしい


「何か用?用がないなら、私帰るね」

ユリコは足早に僕の元を去ろうと歩き出す

僕は慌てて、再度呼び止める

「ごめん!待って!」

すると、僕の声に足を止めてくれた


ユリコは僕の少し前を行ったところで立ち止まり

背を向けたまま、横顔だけを向けている

「この間はごめんね、気持ち悪かったよね?」

僕は彼女に謝罪した

「別に」彼女は暗い声で言った

怪訝な顔を見ると学校を休んでいたのはやはり僕のせいだろう

「本当にごめん、僕クラスメイトともあまり上手くいってないし

人との接し方わかんなくて、僕の目の事も周りに言ってなくて、それで……」

僕が本題を切り出せずにいると

ユリコは皆まで言うなとばかりにこう言った

「大丈夫 美術室であった事、誰にも言ってないから、心配しないで」

ユリコの横顔は少しだけ微笑みを浮かべている

その言葉だけを残しユリコは去っていった


僕の心の中の願いは確信に変わった

察しが良いだけ、勘が良いだけなんかじゃない

ユリコは僕の事を理解してくれている

僕の暗い日常に光を灯す、ユリコこそが僕の運命の相手だ


小さくなっていくユリコの後ろ姿は、そうだよと僕に笑いかけているようだった

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