第6話 深紅


僕は大きな声を出し美術室のドアを勢いよく開けた

ユリコは目を丸くし、この場にいないはずの僕に驚いていた

「これは何?血?これが赤っていう色?ねぇ何て言う色?なにこれ?」

近づきながら、ユリコの右腕を見て言った

ユリコの右腕からは美しい色の液体が流れていた

初めて見る色に僕は興奮を抑えられなかった


血の色は大抵赤色 そんなことなど知っていたが

こんなにも鮮やかで美しい色だなんて想像もしていなかった

「何言ってるの?血に決まってるじゃない」

ユリコは困惑した表情を浮かべる


「ごっごめん、僕生まれつきものが白と黒にしか見えないんだ

でもこの血?は色がついてる、初めて見たからつい興奮しちゃって、、、」

僕が慌てて弁解すると

「そうなんだ、初めて見た色が私の血の色って、なんかごめんね」

そういうとユリコはバツが悪そうな顔をした

「いや……こっちこそごめん!ていうか大丈夫?」

僕は我に返り鞄に入っていたハンカチを差し出した


「それよりなんでこんなところにいるの?もうみんな帰ったよ」

そういえば何故こんな所にいるんだろう、僕は疑問に思った

「彫刻刀忘れてたから取りに来ただけ、そしたら箱から彫刻刀落としちゃって

拾おうとしたら……」

ユリコは僕の渡したハンカチで血の跡を拭きながらうつむく

二人の間には重い空気が流れた


僕は淀んだ空気を払拭すべく急いで言葉を探した

「あー!たしかに!彫刻刀って落とすことよくあるよね!」

自分でも何故このセリフが出たかはわからない

「よくある……の?」

ユリコは先ほどより困惑した表情で言った


「あっ!ないか?ないよな!ごめん!」

ユリコの表情に焦りうわずり声で言ってしまった

慌てふためく僕はきっと間抜けな面をしているに違いない

でもそんな僕を見てユリコはようやく笑ってくれた


「ふふ、ユニークな人ね、えっと……」

ユリコが何を言いたいかはすぐにわかった

「僕大山っていうんだけど、そういえば今日初めてだよね?話すの」

この機会を僕がどれほど待ち望んだか彼女にわかるまい


「初めてだね、私はユリコ、って私の名前は自己紹介の時言ったから知ってるよね?」

ユリコは眉を八の字にして覚えているか確認する

「あっ!えっと、うん確かユリコさんだったね」

本当は脳裏に焼き付いている名前をたった今思い出したかのように言った


「ユリコでいいよ、大山さん下の名前は?」

僕への警戒心が解けたのかユリコは穏やかな表情になっている

「えっ?あトオルだけど」

僕がそういうと

「トオルくんって呼んでいい?」ユリコは言った

僕は呆気にとられながらもなんとか頷いてみせた


「じゃあこれからよろしくね!トオルくん!」

家族とレオ以外に僕を下の名前で呼ぶ者はいない

ましてやほぼ初対面の一目惚れした相手に下の名前を呼ばれるなんて

こんな夢みたいなことがあっていいのだろうか

何も言えず顔が熱くなるだけの僕を見てユリコはまた笑った




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