第5話 その後


学年中を騒がせた美少女転入事件は

数ヶ月たった今となっては、ほぼなかったかのようになっていた

転入してきて数日は

新しもの好きな一軍の女子

椎名と財前のような不良気質な男子

親切を装った下心みえみえの男子と

ろくでもない奴らにつけ回される日々を、ユリコはしばらくの間送っていた


しかし、ユリコはこの学校になど馴染もうとはしなかった

それどころか邪念はあれど親しみを込めて話しかけてくれる学友を疎ましく思っている様子だった

それに気づいた奴らは次第にユリコを腫れ物に触るような扱いをするようになっていった


話し上手な奴らでさえユリコの心を溶かすことはできないのに

僕みたいな陰気なやつがユリコと話せるはずもなく

いつの間にか平凡な日常に戻っていた


一日の授業が全て終わり皆がそそくさと帰っていく

どうせ予定もない

学校にいたって何も良いことはない

いつもの僕ならさっさと家に帰って自分の部屋に閉じこもる

しかし、その日はひどい眠気に襲われ

机に突っ伏して眠ってしまった


起きると僕の通常の下校時刻よりもかなり遅い時間になっていた

数ヶ月前ならレオが一緒に帰ろうと起こしてくれたはずだが

僕が話しかけるなと言った以来

レオは僕を見るとうつむき足早に去っていくようになった

今日もレオは先に帰っていた

僕も急いで帰る準備をした



教室から下駄箱に向かう途中に美術室がある

電気は消え使用する時以外は締め切りになっている美術室が

今日は珍しく扉が少し開いていた


通るついでに扉の隙間から中を覗く

暗くてよく見えなかったが、目を凝らしていると

窓台に細身の少女がもたれかかっているのが見えた

ユリコだった

自分だけの世界に没頭し、僕の存在には気づいていない

美しい横顔は悲しげな目で自分の右腕を見ている

僕もユリコが見つめる先を見た

息を潜めて覗いていた僕は目を見開き、思わず大きな声をあげた

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る