第6話 最強のダンジョン主!

「ぬははははは! 突撃だぁ~~~~!」


 カヌカリが、特殊警棒を掲げて魔物の群れに突っ込んでいく。


「レッスンスリィィィィ! モンスターの種別を見極め、最善の攻略法を選択すべしっ! このモンスターどもは『へなちょこスライム』と『へなちょこゴブリン』だな! どうやら、このダンジョンの主もへなちょこなようだ! ぬははははっ!」


 こんな時でも、しっかりとオレへのディスを忘れないカヌカリ。


「ちょっと! ヨルは、へなちょこなんかじゃありませんよ!」


 臨時カメラマンを担当してる幼馴染のミカがムッとした感じでクレームを入れる。

 うん、かばってくれるのはありがたいけど、出来ればあんまり噛みつかないでほしい。

 相手は日本一の配信者。

 信者に標的にされてアンチ活動でも面倒だ。

 ってか、ナチュラルにオレの名前出すなよ、ミカ。


 ”ダンジョン主、JKからかばわれてて草”

 ”クソが! これは嫉妬やない”

 ”オレもJKにかばわれる人生を送りたかったよ!”


「ぬははは! それは悪かった! よし! では、まず『へなちょこスライム』の方から攻略していくとしよう! これは……」


 ボガァ!


「クソ弱いのでシンプルに殴り殺す!」


 ボガァ! ボガァ! ボガァ!


「ぬははははは! 楽勝、楽勝、楽勝ぅ~! 常勝カリスマ、カヌハラカリンに歯向かったのが運の尽きだったなぁ~! ぬははは!」


 緑色の動きのスローなスライムを、徹底的に叩き潰していく。


 ”弱いものには容赦ないカヌカリ”

 ”へなちょこスライムかわいそす”

 ”カヌカリが楽しそうでなにより”


「へなちょこスライムは動きが鈍い分、静かで、接近されても気が付きにくい! 私のようなソロプレイヤーは、休憩中や就寝中にこっそり溶かされてる可能性があるのが怖いとこだな! ま、BANにならない程度になら服を溶かしてくれるのは大歓迎なんだが! リスナーも増えて金が……ゴホン、みんなが喜んでくれるからな!」


 ”金がw”

 ”金って言おうとしてただろw”

 ”お金大好きカヌハラカリン”

 ”BANにならない程度の露出w”

 ”なにその深夜番組みたいなのw”


「ハァ……ハァ……さて、次はへなちょこゴブリンだ!」


 ”ちょw もう息上がってるw”

 ”カヌカリ威勢◎ 体力△”

 ”へなちょこスライム一匹で体力を使い果たす女……”


「へなちょこゴブリンはクソ弱いが、爪と牙だけは気をつけなければならない! なぜなら破傷風になるからだ! だから探索の際には肌の露出のない鎖帷子やプレートを装備するのが鉄則だ! ま、私はBANにならない程度を攻める最強の配信者だから、そんなものは着ないのだがなっ!」


 ”だからさっき死にかけてたんじゃねぇか!w”

 ”エロ>>>命”

 ”命より再生数が大事な女”


「そして、へなちょこゴブリンも動きが鈍い! だからこうして、一発攻撃をしのいでやれば──」


 ガッ!


 へなちょこゴブリンの爪を、左腕の防弾盾で弾き飛ばす。


「うぅ……」


 フラフラとよろけるへなちょこゴブリン。


「この隙に、頭をぶっ叩いて終わりぃ!」


 ガコォ!


 ”パリィですね、わかります”

 ”ゲームの序盤みたい”

 ”うおおおお! カヌカリ最強! カヌカリ最強!”


「ハァ……ハァ……というわけだ……どうだ……参考に……なっただろう…………!」


 ”すでに息上がってるぅぅぅぅう!”

 ”うおお……カヌカリ虚弱……カヌカリ虚弱……”

 ”金はあるから装備は整ってるけど、中身はただの配信者だからね……w”


「ハァ……他のモンスターは……」



 バシュッ! バシュッ! バシュシューン! シババババッ!



「わんっ! わんわんっ!」


 シバコが謎エフェクトを発しながらスライム六体、ゴブリン四体を倒していた。


「フッ……どうやら私が手を下すまでもなかったようだ……ゼィゼィ……」


 ”えっ!? 犬の手柄を横取りした!? うそでしょ!?”

 ”うおおおお! 犬最強! 犬最強!”

 ”犬、多分全てのダンジョン探索者の中で一番強いまである”

 ”エフェクトかっこよ”

 ”エフェクトかっこE”

 ”ちょっとまってw みんな普通に受け入れてるけど、あのエフェクトなに?w”


「よし、来いっ、犬っ!」


「ハッハッ!」


 カヌカリに撫で回され、すっかりうちの飼い犬としての矜持きょうじを忘れ去ってしまっているシバコ。


 ”イッヌ✕美女、いいですなぁ”

 ”イッヌかわよ”

 ”カヌカリ、カメラをチラチラ気にしてて草”

 ”これは好感度バク上げ”


 まったく、初めて会った見ず知らずの人に飼いならされやがってぇ~……。

 と思いながら配信画面を見ていると、緑色の塊……? っぽい、なにかがカメラを横切った。



「キャッ!」



 ミカの声。

 ゴブリンだ!

 しかも、へなちょこじゃない、ちゃんとしたやつ!

 カヌカリとシバコは……まだ状況を把握しきれてない!


「ミカ! 敵を映せ!」


 通話の繋がっているスマホに向かって叫ぶ。


「え!? うつ……?」


「いいから! 早く!」


「う、うん!」


 配信画面に映し出される凶悪な顔をしたゴブリン。

 オレは足先に神経を集中し、画面の中と自分の体をリンクさせようとする。


 いそげいそげいそげそげそげそげそげっ!


 パッ、と頭の中で回路が繋がったような気がした。


「ここだっ!」



 ズボボボボボ……!


 ガッ──!


 地面が隆起し、ミカに飛びかかろうといたゴブリンの足を引っ掛ける。


 ズザッ──!


 見事に足を取られて転ぶゴブリン。


「おお、ぬしくん! やるではないか!」


 ”うお、危機一髪!”

 ”JKあぶねえええええ!”

 ”これ、へなちょこゴブリンじゃなくて普通ゴブリン!? 足はやっ!”


「グギャッ!」


 ゴブリンは素早く立ち上がると、再びミカに向かって素早く駆け出した。


 ”もしかして……一番弱い相手を見抜いてりに来てる?”

 ”汚い、さすがゴブリン汚い”

 ”JK逃げてぇ~~~!”


「ミカ! そのままカメラを離すなよ!」


「え!? う、うんっ!」


 よ~し、ばっちり映ってる。

 狙いを定めてぇ~!


「ここだぁ!」



 ズドッガァァァァァァァン!



 壁からヌオオオオっと生えてきた巨大な肉の拳。

 それが、ゴブリンの体をモロに捉えて、なんというか、びっちゃびちゃのぐっちゃぐちゃ(柔らかい表現)にしてた。


 うお……? うおぉぉ………………?

 え……? なにこれ? なにこれ?

 なんか……とてつもないもんが出ちゃったんですけど……?


 ”草”

 ”草”

 ”強すぎて草”

 ”圧殺で草”

 ”うおおおおお! ダンジョン主最強! ダンジョン主最強!”

 ”ヨルすげええええええええ!”


「ぬはははは! みんな! レッスンフォーだ! 『主の意志で動くダンジョンもある!』 この動画、世界に拡散されること間違いなしだから、いいコメント頼むぞ、みんな!」


 は!? え!? 世界に拡散……? いやいやいや……。

 まぁ、でも……ひとまずは、ミカが無事でよかった、かな……あはは……。

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