桜の木の伝説と春

田川りく

第1話

 私はひとりぼっちだ。

 学校に友達はいない。家に帰っても誰もいない。たまに私の生活費を置きに来た母親に遭遇する程度だ。


 そんな私のお気に入りの場所は河原の桜の木の下。去年の夏休み、散歩をしている途中に日陰を探している時に見つけた。この大きな桜の木の下にいると桜に守られているような、そんな気がする。


 私の住むこの街には「桜の木の伝説」というものがある。

『桜の木の主に気に入られしその時、おのれが最も欲したる人のさまになりてうちいづ』


 この桜の木を見つけ、主が現れてくれたらと思い始めて早半年。私はもう、主に出会うことは諦めかけていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る