転生者が現代に転生する世界で、地獄の剣たる転生者を宿す主人公は己の精神で転生者を征す。転生者のヒロインもまた、その精神性に魅了されている。現代バトル、ヤンデレ、ハーレム、現代ファンタジー
三流木青二斎無一門
脱衣と配達と拉致
その光景は…決して羨ましくなどない。
むしろ憎み恨むべき惨状であった。
銀色の髪を揺らして、衣服を脱ぎ下着姿になる妹。
「家族とかどうでも良いだろ?男は、気持ち良くなれればそれでさ」
いや、それは妹ではない。
妹の体、妹の顔をした、別の存在だ。
ブラジャーを外して、胸を露出させる妹は俺に近づいて来る。
「あんたになら抱かれても良いんだ、なら楽しもうぜ…お兄ちゃん?」
そう言い放つ性に溺れた獣に、俺は冷たく言い放つ。
「黙れ能力者、…いや、転生者が、俺の妹を汚すな、殺すぞ」
俺がこの世界の秘密を知り、そして裏の世界へと巻き込まれた。
それは別に良い、肝心なのは。
転生者に精神を乗っ取られた妹を、元に戻せるのかどうか、だけだ。
父親と母親が力に目覚めた時、俺と妹は共に隔離州へとやって来た。
極めて犯罪率が低い地区に住居当選をした両親は喜んだ。
その二日後に、俺の両親たちは異能者たちの犯罪に巻き込まれて死んだ。
一瞬にして輪切りにされたから、痛みを感じる暇も無かっただろう。
だとすれば、父親と母親は、果たして幸せなままに死んだのかも知れないが、考えた所で仕方が無い。
だって、死んだ先の事なんて、死んだ後じゃないと分からないからだ。
「ふぅ…今日も疲れたな」
夜の19時ごろ、俺は家に到着した。
マンションの一室であり、両親が住居当選した場所でもある。
両親が死んだ今も、俺たちはこの家で過ごしていた。
「ただいま…はぁ…」
何度も溜息が出る。
俺は疲れ切った顔をしながら手を洗う為に台所へと向かう。
「あ?」
そして俺は台所に置いておいた石鹸を見るが、さいころの様に小さくなっているのを確認する。
「(あぁ、新しく用意しないとな)」
俺は台所から風呂場へと向かう。
洗面台の下の棚に、予備の石鹸が置いてあった筈だと思い、脱衣所の扉を開けた。
「あ…」
か細い声と共に、真っ白な体が俺の視界に入る。
洗面台で衣服を脱いでいた妹の
どうやら風呂に入るつもりだったらしく、ブラジャーを外して、パンツも脱ごうとしていた。
「妃紗愛か…丁度良いや、石鹸、無くなってたから取ってくれよ」
妹の裸を見た所で何も思わない。
確かに美人であるし血も繋がっているが、異性として見るのは人間としておかしい事だ。
妃紗愛はパンツを脱ぎ掛けの状態で洗面台へと向かうと、棚から石鹸の箱を取り出した。
両親や俺とは違う、銀色の髪をしている妃紗愛は、ゆっくりと石鹸を持ったまま俺の方に近づくと、衣服に足が縺れてしまう。
「おい」
俺は前に寄って妹の体を支える。
髪が動いて、匂いが鼻の奥に通っていく。
「気を付けろよ、それと、石鹸ありがとうな」
俺がそう言うと、妹はじっと俺の方を見ている。
何を言おうとしているのか、俺が妃紗愛の方に顔を向けていると。
「おかえりなさい、お兄ちゃん」
それは今言う事なのだろうかと、俺は思ったが。
「あぁ、ただいま」
妃紗愛にそう返事をして、俺は石鹸を持ったまま洗面台から出て行った。
妹の
俺が二十三歳で、五つ年下だから、十八歳である。
この隔離州では珍しい、非能力者が通う
俺は詳しくはないが、かなり頭の良い学校であるらしく、妃紗愛は特待生だった。
特待生になれば、寮生活の費用が免除なのだが、妃紗愛は自宅から登校する事に決めたらしく、その寮生活用の費用が車の送迎費として認可された。
毎日決まった時間に車が送迎しに来ると言う好待遇であった。
その為、路上で起こる犯罪も、この三年間は滅多に出会っていない、いや、元々、この倭宗地区はそんな危険な街ではないのだ。
能力者はごく限られていて、犯罪者が出没しても即座に警察や能力対策組織が動いてくれる。
この街は、十本の指に入る程に、安全な地区なのだ。
尤も、例え能力者や犯罪者に出会ったとしても、妃紗愛は勝手についていく事も無いだろう。
幼い頃から内向的な性格で人見知りが激しく、よく俺の後ろを付いて回っていた。
他の人間と会話する事が怖いのか、寡黙な人間だ。
しかし、誰よりも優しい人間である事は知っている。
これは、身内びいきである事もあるが、其処まで評判が悪くないのも事実だ。
それも容姿が整っている事が起因しているのかも知れない。
銀色の髪、程なく伸びていて、絹よりもきめ細かい。
線の細い体にしては、肉体は大人びている、女性らしい魅力が臀部や胸部によく現れている。
頭も良く運動神経も悪くない、顔は美人であれば、完璧に等しい。
これで男性との付き合いの噂が無いのが可笑しいくらいだ。
まあ、女子校に通っているのだから、そういった男性との付き合いが少ないのも無理が無いが。
杞憂であるのは、その男性経験の少なさゆえに、悪い虫に騙されてしまうのでは無いのか、と言った所だろう。
ただでさえ、隣の地区に行けば治安の悪い輩が大勢いるのだ。
そんな人間が、妃紗愛に付き纏う可能性もあるし、妃紗愛は妃紗愛で満更でも無く付き合ってしまうかも知れない。
俺の身内である以上は、健全な付き合い、表に出しても恥ずかしくない交遊関係をしてほしいものだ。
ここまで口煩いのは、やはり両親が居ない影響だろうか、幼い頃から、親代わりとして働いていた俺は、高校までは国から補償されていたので通えていたが、流石に大学には行かずに働く事にした。
「今日も、配達か」
俺の仕事は簡単だ。
宅配所から荷物を受け取り、それを別の場所へと運ぶだけの仕事。
言ってみれば運び屋であり、身分証明書があれば誰でもなれる。
受け渡し用の荷物は、移動用に用意されたバッグの中に入る程であり、それ以上になると輸送車で直接自宅へと送られる。
運び屋としての仕事は最初は高価なものは持ち運びが出来ず、複数の受け渡しを繰り返し一定の経験と信用度が稼ぐ事が出来れば、より高価で報酬の高い運びが出来る。
現在、俺はその中ではゴールドデリバリークラスに分類されている、ブロンズ、シルバー、ゴールド、プラチナの順番であり、ゴールドクラスになると一回の配達で約5000~10000の配達金が得られる。
プラチナになれば、一回の配達で10000円以上の配達金が取得出来るのだが、プラチナになるには五年以上の配達実績が必要だ。
俺がこの仕事に就いて三年、プラチナクラスになるには後二年の辛抱である。
携帯端末を確認する。
今日の犯罪事件や、アプリで送られてくる配達依頼品を確認する。
殆どが食材などを運ぶブロンズの内容が多いが、今回はゴールドクラスの配達依頼品が書かれていた。
「…蛮原地区への配達かよ、…どうする?」
この隣の地区である蛮原。
能力者が多く、暴行事件が多い、配達員が襲撃に遭ったと言う話は聞いた事が無いが、依頼を受けるかどうかは少し不安だった。
「…しかし、配達金が10000円か、追加報酬もありって書いてあるし…どうするか」
俺は迷う、しかし、追加報酬と言う文字に目が眩む。
高い費用を払い、検査を受ければ能力者の有無が分かる。
そして無能力者である事が認められれば、隔離州から景府州へと戻る事が出来る。
そうすれば、能力者に怯える人生も送らずに済むし、何よりも普通の人間として過ごす事が出来る。
来年には妃紗愛の受験もある、だから今年中には検査を行い、妃紗愛が景府州へと移動して普通の人間として過ごして欲しいと思っていた。
だから、なるべく多い報酬が必要だった。
「…腹を括るか」
最悪俺が死んでも保険金が入る。
そうすれば、その金で検査が受けれて景府州へと妃紗愛が普通の人間として生きる事が出来るだろう。
その為に、目標金額まで貯める必要があった。
俺は携帯端末のボタンを押す。
決定を押した事で、俺は荷物を受け取りに宅配所へと向かうのだった。
「
宅配所から荷物を受け取って15分後。
狙っていたかの様に、俺を襲ってきた襲撃犯たちが顔を見合わせながら叫んでいる。
蛮原地区へと自転車を濃いで移動していたかと思った矢先、突如として人間が俺の走行中にタイヤに向けて物干し竿を突っ込んできた。
タイヤが絡まり俺は自転車諸共転倒すると、そのまま俺の身柄を捕まえたまま移動。
手をプラスチック製の結束バンドで固定された後に、人気の無い廃墟へと移動させられた。
バッグは電子制御されている、携帯端末による解除をしなければ開く事はない。
だから、俺を拉致して来て、人気の無い場所で解除を試みたのだろう。
後ろに回された親指を使い、指紋認証でバッグのロックを解除させたのだ。
「あぁ、荷物の中身は確認した、まず、ブツに間違いはねぇな」
襲撃犯の中心人物である人間が、俺が持っていこうとした荷物を回収して中身を確認していた。
「財布の中身を拝見しましょうねぇ、札は無いけど…おぉ、クレカあるじゃないですかぁ!」
金髪にした男が俺の財布からクレジットカードを取り出してポケットにしまう。
「幾ら入ってんのこれ?暗証番号言いなよ、痛い目みたくないでしょ?」
ふざけるな。
そのクレジットカードには、検査と引っ越し用、合わせて三百万は入ってるんだぞ。
こんな所で、失うわけにはいかない、大事な金なのに。
「ざ、けんなッ、返せ、おれの…がぁッ!」
熱い金棒を押し付けられたような激痛が腹部から発生する。
金髪の男が俺の腹部を強く蹴り上げた、痛みのあまり、俺は口から吐瀉してしまう。
「もうキミのじゃないの、お分かり?俺もさぁ、暗証番号聞くまでは、キミを殺したくないんだけど、…頭が悪いからさぁ、カっとなって、殺しちゃうかもよ?」
「ぐッ」
酷い脅しだ。
だが、そんな脅しに屈するわけにはいかない。
暴力を受ける恐怖よりも、暴力に屈する事が俺は嫌だった。
口を閉ざして何も言わない様にする、確固たる決意を固めて、何者にも屈しない精神性を抱く。
「ほら、ほらッ!言えよ、言いなさいての!」
腹を蹴られようが頭を踏み付けられようが、俺は口を割ることは無かった。
だが、携帯端末を操作していた一人の男が発情した猿の様に声を荒げる。
「うひょぅ!おいおい!見てみろよこれ、エロい女じゃねえかよ!!」
俺の携帯端末を持っている事を確認すると、男が気が付いて俺の方にやってくる。
そして、その携帯端末の画面を俺の前に見せた。
「東儀、妃紗愛ちゃんっていうんだよな?お前の名前も確か東儀宗十郎、もしかして兄妹か何かか?随分と可愛いじゃんかよ」
そう言って、俺はつい頭に血が上ってしまった。
奴らに向けて俺は牙を剥いて叫ぶ。
「テメェら!、俺の妹に手を出してみろ、殺すぞッ!」
精一杯の強がりにも見えたのだろう。
金髪の男が笑いながら俺の顔面を強く蹴った。
その一撃で、脳が揺さぶられて、俺は意識が遠ざかる。
「え、なに?殺したの?」
「いいや、失神しただけだ、それよりも、この女の所に行こうぜ?」
「携帯端末で呼び寄せるか…あれ?猩々さんは?」
「荷物置いてどっかに行ったな…お、見てみろよ、中身、まだクスリが残ってるぜ?」
「ヤクかなこりゃ、キメながらヤろうぜ、女を廃人にさせてよぉ!!」
「ひゃはは、そりゃあいいや!!」
そのような、卑下た声と共に、俺は意識を失う。
次に目を覚ました時、俺は体中から感じる痛みと共に覚醒する。
「う、…クソ、今、どうなってやがんだ…ッ」
俺は体を起こして周囲を見回す。
廃墟の中、其処で俺は殴られた事を思い出す。
「そうだ、俺は、確か蹴られて…」
順々に思い出していく。
確か、携帯端末で、妹の事を見つけた不良どもが何かをしていた。
クスリとか、言っていたな。
それを持って、何処かへ行こうとしていた。
俺の携帯端末を使って…、
そこまで思い出して、俺は焦りが浮かび上がる。
地面に手首を擦り付けて、結束バンドを削っていく。
それと同じように、手首も削れて、皮が剥がれて血が流れだすが、自分の事などどうでもいい。
とにかく、急がなければならない、奴らは、俺の妹に何かをすると言っていた。
手首がぬめる。血が流れだして、鋭い針で何度も突き刺されるような痛みが体中を襲う。
ようやく、結束バンドが削れきって外れると、俺は立ち上がって走り出す。
体中が暴力によって激痛を訴えているが、それを無視して外へ出る。
「クソッ!」
俺は時計を確認した、既に午後の四時ごろである。
もしも奴らが妹を呼んだとしても、学院が終わるまでは外には出ないだろう。
無論、奴らがもしかすれば俺が交通事故が起こったなど言って、学校を早退させて招き呼ぶ可能性も否定出来ない。
だからそんなことがない事を祈る他無かった。
自転車が壊れていて、財布の中身は奪われたので走る事しか出来ない。
走って走って、とにかく、妃紗愛の為に俺は走り続けた。
不思議な事に、この俺の行動と移動は、普通の人間じゃ考えられない程に早かった。
それは、全力で走り続けても息が続き、体力が衰える事も無かった為だ。
常人では考えられない、今の状況、この俺も妃紗愛の事で必死になっていて、不思議に思う事すら無かった。
一時間が経過した。
既に授業が終わった時間帯、ようやく俺は蛮原地区から倭宗地区へとやってくる。
そして俺は、その足で倭宗女子学院へと向かいだして、校門前へとやってきた。
「はぁ…はぁ…ッ」
丁度下校時間だ。
俺は校門前に待機している警備員に話しかける。
「す、すいまッ、すいませんッ!俺、東儀宗十郎と言います、東儀妃紗愛の兄ですッ!」
そう叫んで警備員に近づく。
警備員は最初、俺が不審者だと思ったのか無線で応援を呼んでいた。
しかし、俺の名前を聞いた所で、その名前を無線で聞くと、数十秒程の沈黙。
「東儀宗十郎さん、身分を証明出来るものは?」
俺は、廃墟で拾った財布から住民証を取り出して警備員に見せる。
それを受け取った警備員は俺の顔写真と顔を見比べて、ようやくその住民証が俺のものであると間違いないと認識し、入学前に家宅情報を提供した為にそれと照合したのだろう。
「申し訳ありません、東儀さん、疑うのも仕事のうちで、しかし、こんなに傷だらけで…一体、何があったのですか?」
話を始める警備員の話を無視して、俺は自分の言葉をはっきりと伝える。
「妃紗愛の送迎は!?もう終わったんですか!早く、教えてください!!」
俺の剣幕に、警備員は面食らいながらも、再び無線を使った後に今度は携帯端末を取り出して連絡を取る。
一体誰に連絡をしているのだろうか。
「はい…はい、えぇと、東儀さん、既に送迎が終わったらしく、運転手がこちらへ向かっている、との事です」
絶句する。
既に、妃紗愛が帰っていたとは。
「…目的、目的地は!?どこですか!!」
俺がそう叫ぶと、警備員は再度携帯端末で連絡をする。
そして二度、三度頷いた後に。
「本日は珍しく、自宅ではなく、潰れたクラブの前で兄と待ち合わせをしていると聞いている、との事です」
クラブの前?
潰れているということは、人が来ない場所、と言う事か。
だとしたら、妃紗愛は、そのクラブに居ると見ても良いだろう。
俺は挨拶も感謝の言葉も口にすることなく走り出す。
一刻も早く、俺は妃紗愛を助ける為に、走り出した。
…後になっての事だが、この時点で警察に連絡をしていれば、妃紗愛を安全に救えたかもしれない。
しかし、そう思っても、俺はやはり、ここで警察を呼ばなくてよかったと思っていた。
走って二十分。
首筋を擦ると、何か、蜂にでも刺されたかの様な痛みが走っている。
しかし、そんなことを気にしている暇など無く、俺は休みも無く走り続けている事に驚きを隠せないでいた。
妹を思っての気持ちが、まさかここまで肉体に反映されているのかと、そう思ってしまったが、しかし、そんな事はどうでも良い事だった。
潰れたクラブ前へと立つ。
この近くで、人が騒げる場所があるとすれば限られている。
更に、最近潰れたクラブと言うのであれば、ほぼ特定したも同然だった。
俺は、階段を下りる。
クラブは地下にあり、扉は鍵が掛けられていなかった。
俺は、部屋の中で、水気のあるものが弾ける音が響いていたのを確かに聞いた。
もしかすれば、既に妃紗愛は…そのような悪い予感を抱きながら、扉を蹴ると共に中に入る。
そして、俺がそこで見たものは…。
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