ハーレム勇者

 彼は、自分を好いてくれた女を集めた村を作っていた。人口は100人にも及ぶ。彼は住んでいる女全員を一番に好きであり、女たちもまた彼を一途に好きであったため問題はなかった。



 そんなある日、勇者に新たな戦いの命が与えられた。場所は、これまでとは違い空を超えた別の星のようだ。



 この星に住む魔物や悪魔たちの常識が通用しない、知らぬ場所へ旅立って戦わなければならない勇者には、自分の力が足りているのかが分からなかった。



 旅立ちの前日。



「これを」



 生きて帰れるのか分からない戦いに身を投じる際、『大切な人の陰毛を貰うと帰れる』的なおまじないを聞いた女の一人が顔を赤らめながら一本を渡した。



 それを噂好きの女に見られた結果、女たちは旅立つ道すがら勇者にこっそりと陰毛を渡していった。一本ずつ増えていくたびに、勇者の中にモヤモヤとした思いが募っていく。



「……いや、どれが誰のだか分からない」



 ポーチにもじゃもじゃと入れられた陰毛を見て溜息をつくと、勇者は旅立ちを一時中断。大切な事を告げるために、彼は村の中央に女たちを集めて一つの宣言をした。



「正妻を一人に絞ります」



 どうやら、『みんなが好き』というスタンスは決心を鈍らせる代物であると気が付いたらしい。そもそも、100人の妻など一人一人の好みの食べ物や趣味を覚えるのにも大変だ。



 だから、整理。



 この土壇場に来て、彼はようやく自分のやり方の間違いに気が付いた。心が痛むし、もったいない気もするが帰ってきた自分を迎えてくれるのは一人でいいと考えた末の事だったのだろう。



 ……しかし、勇者がその旅に出る事はなかった。



 何故なら、怒り狂った女たちに囲われ殴られ魔法を打ち込まれ、リンチの末に市中引き回しと張り付けにされ、一本一本銀の杭を突き刺されこの世のありとあらゆる苦しみを得てから絶命したからだった。



 当然だ。



 男が彼女たちに与えていたのは1/100に薄められた愛。だからこそ、キッパリ断ち切る決意に至ったが、彼女たちからすればたった一人に注いでいた愛の行き場を突然奪われるようなモノだったのだ。



 更に失敗だったのは、女は勇者が思う以上に社会的な生き物だったということだ。今の平和な生活が壊れるくらいならば、それを壊そうとする一番の外敵を排除しようとするのは女の本能的な行動だったのだ。



「……あひゃひゃ」



 彼女たちは、張り付けにした勇者の体に火を焚べると踊った。もう二度と、こんな不幸が起こらないように女同士で悦楽を貪った。

 幾度も日が暮れ昇っても、無敵の勇者の体はよく燃える。囲んで踊って笑いは絶えず、永久に燃え続ける赤い炎は彼女たちの神様となった。



 やがて、村に勇者の子供が生まれた。男の子だった。



 6歳になった子は村中の女たちと新しい子を作った。その子は別の女と子を作り、更に子と子同士でも新しい子供を作った。作って、成して、また作って。



 そして、15年後。



 勇者に旅立ちの命を下した王の兵が村を訪れた。勇者が詠唱した、村を囲む結界魔法に現代魔法の技術が追いついたから、中へ入る事が出来たのだ。



 ……そこには、チート能力を持つ最強の戦士だけが生まれる不思議な村があった。



 村中に嘗ての勇者よりも力を持つ男女で溢れた、しかし世間を知らない力を持っただけの子供が集まった辺境の村。常識を知らず村のルールのみで育った、この星の何者よりも強い無知な人の形が群れを成していた。



 いずれ、来るだろう。ここから、都市へ旅立つ者が現れる瞬間。



 しかし、その戦士の結末を、何故か私たちは存分に知っているのだった。

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