私たちは、これからも。

山法師

私たちは、これからも。

 私の名前は仲里なかざとアイリ。この春、新社会人になったばかり。そんな私には、お付き合いしてる女性がいる。彼女の名前は麻木あさぎレイカ。私の性別も女だから、私たちは同性カップルだ。

 初めは、ただの友達だった。大学の同学年、ダンスサークルの仲間で友達。私とレイカは馬が合って、よく色んな所に遊びに行った。最初は、友達として。だんだん、意識し始めて。恋愛感情を持ち始めて。

 私、レイカが好きなのか。そうか、どうしようか。告白しようか。

 そんなことを思っていたら。

 秋に、レイカから告白された。レイカは、


「ごめん、私、あなたの彼女になりたい……」


 って、言ってきた。言われて、泣かれた。まだ私、何も言ってなかったのに。


「私も、レイカの彼女になりたいよ」


 そう言って、抱きしめて。私より背の高いレイカの肩に、顎を乗せた。


「……ほんと……?」

「本当。好き」

「私も好き……大好き……!」


 私たちは抱きしめあって、レイカが泣き止むまで、そうしていた。

 付き合いだしてから、何か変わるのかと思ったけど、そんなに変化はなかった。

 ただ、時々。


「手、繋いでいい?」


 とか、


「……き、キス……したい、です……」


 って、レイカに言われて、手を繋いだり、キスしたりした。

 私には人生初の恋人だったから、ファーストキスもレイカだ。そう言ったら、レイカは顔を真っ赤にして、


「わ、私だって初めてだもん……アイリが初めての恋人……」


 驚いた。

 だってレイカは美人で、モデル体型で、モテるから。過去に恋人の一人や二人や三人四人、居てもおかしくないと思ってた。

 私のほうは、顔も体型も普通で、悪くはないけど良いとも言えない。運動神経がいいことくらいが自慢だった。


「なんで私のこと、好きになったの?」


 クリスマスイヴ、レイカに聞いてみた。その時私たちは、レイカが住むアパートでクリスマスイヴのお家デートをしていた。


「えっ?! ……え、と」


 レイカはまた、顔を赤くして、目をうろうろさせて、


「……ひ、一目惚れ……」

「え、一目惚れ?」


 この世に一目惚れという現象が本当に存在するんだ、と私は大いに驚いた。


「サークルの、自己紹介で、アイリを……見て。……か、可愛いなって。カッコイイなって。……そ、れが、最初……」

「え、私って可愛いの? カッコイイの?」

「か、可愛いしカッコイイよ……! いつも堂々としてて、明るく笑って…………〜~~~っ! わ、私ばっかり話してる! ずるい!」

「あはは。ごめん」


 恥ずかしかったんだろう。レイカは私に抱きついて、


「アイリは?! アイリは私のどこが好き……?!」


 挑むように言ってきた。


「好きなとこ? んー……絞れないなぁ……」

「しぼる……?」

「性格も好きだし、見た目も好きだし。照れるとすぐ赤くなるとことか、甘えてくれるとことか。あと、キスしたい時申告してくるとこ。真面目で可愛い。好き」


 そう言ったら、レイカが呻いた。


「なに、どした」

「ずるい……アイリ、サラッと、す、好きって言うから、ずるい……」

「ずるいかなぁ」


 言いながら、レイカの頭を撫でる。レイカの顔が、一層赤くなった。


「……アイリに勝てる気がしない……」

「これ、勝ち負け?」


 そんな、幸せなクリスマスイヴだった。

 大晦日も一緒に過ごした。当たり前のように、初詣も一緒に。

 お花見も一緒に行った。

 レイカの誕生日は五月二十日だったから、友達と盛大にお祝いしたあと、その時のプレゼントとは別に、彼女としてプレゼントを渡した。みんなが帰ってから、そっと。


「──!」


 財布事情からそんなすごいものは選べなかったけど、どうしても渡したくて、ペアリングにした。緊張した。引かれるかもしれないと思ったから。

 けど、それを、指輪を見たレイカは、泣きながら私に抱きついてきてくれた。ありがとう、大好きって、何度も言って。


「指輪、嵌めて欲しい……」


 レイカに言われて。


「うん」


 私たちは二人で、相手の左手の薬指に指輪を嵌めた。

 レイカは指に嵌ったリングを眺めて、触って、それから怖ず怖ずと、私に言ってきた。


「……失くすの、怖いから、チェーン通して首にかけてても良い……?」

「いいよ」

「……アイリ」

「うん」

「大好き」

「私もレイカのこと大好き」


 抱きしめて、抱きしめ返されて。

 夏休みはサークル活動の合間を縫って、二人で旅行に行った。旅行の記念に、二人でガラス工芸をして、贈りあった。私はコップを作って、レイカに。レイカはお皿を作って、私に。

 そして、秋の初め。九月三日。私の誕生日。

 レイカは私に、「お誕生日おめでとう」と、コスモスの花がメインの、プリザーブドフラワーの花束をくれた。コスモスは、私の誕生花だ。


「ありがとう。レイカ」

「……そ、それと、ね……」


 レイカは居住まいを正し、私をまっすぐ見つめて、


「て、提案というか……」

「うん」

「お、お願いというか……」

「うん、なに?」

「……っ、…………い、一緒に、暮らし、ま、せんか……」

「……それって、同棲?」


 レイカの顔が、瞬く間に赤くなる。そして次に、不安そうなものに変わる。


「い、嫌なら……やめる……」


 私はレイカを抱きしめた。


「嫌じゃない。嬉しい。ずっとレイカと一緒に居られる」


 そしたらまた、レイカは泣き出して。ありがとう、大好きって。


「私も大好きだよ。ありがとう、レイカ」


 そして、私たちはルームシェアを始めた。まだどっちも、友達にも親にもカミングアウトしてなかったし、そうなると正式な同棲は難しいから。

 そして、就活が始まる。私は親の知り合いが経営してる会社に、奇跡のようにほとんど顔パスで入社することが決まったけど、レイカは苦戦していた。苦労して、やつれていくレイカを見ていられなくなった私は、ある提案をしてみた。


「……アイリが働いて、私が家のことをする……?」

「うん。どうかなって。そりゃ、私だって家のことするけどさ。……レイカが働きたいなら、就活応援する。けど、レイカ、すごく苦しそうじゃん。一旦お休みしてもいいんじゃないかな、て。……どうかな」

「……迷惑、かけちゃう……」

「全然迷惑じゃないよ。それより、このまま続けてもしレイカが倒れたらって思うと、気が気じゃない」

「……」


 レイカは、私に抱きついてきて、


「……考えさせて……」


 やっちゃったかな、と思った。レイカの頑張りを、無下にするようなことを言ったかもしれないな、て。

 そして、次の日。

 レイカは決心したような顔をして、


「……一旦、就活、お休みする」


 と言ってきた。


「うん、分かった」


 レイカの目の前で、腕を広げる。


「っ……!」


 抱きついてきたレイカを、私はしっかりと抱きしめ返した。

 それが、大学三年の終わり。そして私たちは、四年になった。最終学年だ。卒業論文に明け暮れて、けどなんとか時間を作って、二人でまた旅行なんか行ったりして。

 そして私は、あることを考えていた。

 季節は巡り、クリスマスイヴ。恒例になった、クリスマスイヴのお家デート。ケーキを食べ終わって、二人でテレビを観てた時。


「……あのさ、レイカ」

「なに……?」

「見てほしいのがあるんだよね」


 私は立ち上がり、それらを持ってきて、レイカの横に座る。


「これ、レイカが良ければ、名前だけでも書けないかなって」


 見せたのは、パートナーシップ証明書と、婚姻届。それを見たレイカの目が丸くなった。


「……アイリ」

「うん」

「本気……?」

「うん」

「私、今、……プロポーズされてる……?」

「うん」


 レイカの顔がクシャ、てなって。震える手で、その二枚に、触れた。


「……書く……」

「ありがとう」

「いつ、貰ってきたの……これ……」

「……半年前」

「半年前?!」


 驚いた顔で私を見るレイカに、少し、言い訳気味に。


「……ぼんやり考え始めたのは、三年の終わりの頃。……ここまで、勇気を溜めてました」

「勇気……?」

「これを、見せる、勇気……ぅわっ?!」


 レイカが私に抱きついてきて、私たちは倒れ込んだ。


「アイリ、好き。大好き。……愛してる」


 そのままぎゅう、と抱きしめられる。


「……私も、愛してる。レイカ」


 私はレイカを抱きしめ返した。

 そして、二人で名前を書いて、判子を捺して。


「……そのうち、ちゃんと出しに行こう」


 言ったら、レイカは頷いてくれた。

 そして、大学を卒業して。社会人になって。


「ねえ、レイカ」

「うん」

「これからもよろしく」

「……うん。これからも、……ずっと、よろしく……」

「うん、ずっと」


 二人で、歩んでいこう。

 これからの、人生を。

 未来を。


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私たちは、これからも。 山法師 @yama_bou_shi

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