ひさしぶりの再会


「いかん、行ってはならねぇ!!!」

「あそこには悪魔が、漆黒の悪魔が居るんじゃぁぁぁ!!!」


「……はぁ?」


 第七層についた俺たちは、ボロボロになった探索者に呼び止められた。

 なんだこれは。妖怪「行ってはならねぇジジイ」か?


 俺たちを呼び止めている目の前の探索者は、決して年寄りという訳では無い。


 だが、未知の存在に対する恐怖に染まり、ガクガクと引きつって深いシワを作っているその顔は、どうみても老人のそれに見えた。


「行ってはならねぇ……行ってはならねぇ!」


「……だそうだけど?」


『この反応はちょっと異常ですね……』


「うーん「茫々たる追憶の都市」に、そんなビビるようなモンスターいたかなぁ」


「ツルハシとラレースは行ったんだろ? アンタらにも心当たりがないのかい?」


『実は、探索というほどのことはしてないんですよね……』


「第七層では『黄泉歩き』――ファウストと戦っただけなんで、どんなモンスターがいるのかって、実は知らないんですよね……」


 前回、といっても数えて2日前ちょっとだが、その時はファウストとその下僕となった偽竜、そして黒騎士と化したユウキと戦ってそれで終わりだった。


 俺たちはこの階層に元々いるモンスターとは、一度も戦っていない。

 だから実質初見なのだ。


「ふーん、漆黒の悪魔ねぇ。面白そうだ。グレーターデーモンかね」


『蒼白の肌に黒い翼を持ってる上級悪魔がいるねー。もしかしたらそれかも?』


「……そんなの居たかなぁ?」


『ツルハシさん、確かにあの時はもぬけの殻でしたが、あれから数日経っています。再配置されていてもおかしくはありませんよ』


「そうなんだよなぁ……警戒して進むより他は無いか」


『はい!』


「行ってはならねぇ!」


「はいはい、おじいちゃんは退いててね」

「きゃー」


「ようやく歯ごたえのあるやつと戦えそうだね。さて、バールかディアブロか、それともメフィストかな?」


「師匠がイキイキしてるって事は……嫌な予感しかいないなぁ」


『ま、まぁ……師匠がいれば大丈夫ですよ。離れていれば』


「やっぱり、大怪獣バトルに巻き込まれるのか……」


『んじゃ、今回は私が索敵さくてきしながら進むねー』


「あ、よろしくです」


 そういやバーバラさんは、探索系の能力もあるんだったな。


 遠隔攻撃の威力が頭おかしいから忘れがちだけど、彼女のジョブは遠隔攻撃、探索、そして回復といった3つの能力を複合して持つ『ハンター』というジョブだ。


 今の俺たちのパーティでは、先頭を任せるなら彼女がベストだ。


『んじゃ、行こうかー』


 そう言うと、バーバラさんは帽子を深く被って藍色の長銃を背中に回すと、白いマントを翼のように広げて跳び上がった。


 彼女は模倣された雑居ビルの壁を「重力? 何それ美味しいの?」っていう勢いで駆け上がっていき、手頃な看板に捕まると、そこから俺たちの前方を偵察した。


『なんか街の一部が派手にぶっ壊されてるねー。漆黒の悪魔の仕業かな?』


 表示枠が自動的に開き、バーバラさんの報告が飛び込んで来る。

 彼女が目にしたという光景には、俺にちょっとした心当たりがあった。


「あ、それは……」


『シスターバーバラ、多分それはツルハシさんがやったものだと思います。ツルハシさんはここにあるビルや建物を破壊して、建築用の資源にしたんです』


『うひゃ、スゴイことするね―。じゃあアレは?』


「アレ……?」


 ビルの壁を蹴るようなポーズで看板に寄りかかったバーバラさんが空中を指差す。


「ん~……?」


 じーっと見ると、大地を砂煙を上げて爆走する「何か」がこちらに向かって来ているのが俺の目に入った。


「ゲッ、まさかあれは!!!」


『…………あっ!!!』


「どうやらおいでなすったみたいだね……! 漆黒の悪魔!!」


「違います師匠、あれは――」


<ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!! ガゴンベキバキボリズガァ!!!!>


 進路上のものを片っ端から破壊しながら爆進している存在。

 それは確かに、漆黒の悪魔と呼ぶのに相応しい風格だった。


 銀色の円盤がアスファルトを斬りつけながら進み、その背後には漆黒の戦斧が暴れ回っていた。戦斧は円盤に鎖でつながっていて、刃先が地面にぶつかるたびに勢いよく弾かれ、天地の間で分け隔てない死を見舞おうとしている。


 爆走する丸ノコと狂乱する戦斧――彼らは鋼の兄弟だ。


 お互いを支え合い、全てをなぎ倒す漆黒の旋風となって周囲の存在を切り刻み、ブッ飛ばしているのだ。


「やっべぇ……丸ノコだ!! あいつの存在をすっかり忘れてた!!」


『ど、どうするんですかアレ! なんか以前より勢いが凄くないですか!?』


「なんだろう……罠もレベルアップとかするのかな?」


『そんな呑気のんきな事言ってる場合ですか! 防具の効果を無効化するマン・スプリッターの直撃は、私のスキルでも防げませんよ!!』


「げげっ!! マジで?!」


「なんだ、あれもツルハシの仕業かい」


「は、はい、やむにやまれず、緊急避難というか、なんというか……」


『で、どーすんの? なんか真っ直ぐこっちに来てるよー?』


「……ええぃ!! ともかく止めるしか無いか!!」


 迫りくる黒い悪魔。

 かつての友は変わり果て、完全に俺の敵になってしまった。


 ――仕方ない……迎え討つぞ!!






※作者コメント※

「行ってはならねぇジジイ」をどかすくだり、ちょっと好き。

かつての相棒との暴力的な再会。

ツルハシは野生化した丸ノコ君と再び絆を結べるのか……?

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