ドライアドへの贈り物
(さて、何をどう交渉したものかな……)
ドライアドたちは、無邪気さと残酷さを併せ持っている。
言うことは次の瞬間に
まずはドライアドたちと信頼を築かないといけない。ぱっと思いつくのは、贈り物だが……。
<そうだわ、なぞなぞをしましょう!>
<そうね! なぞなぞ勝負が良いわ!>
<3日3晩、寝ずになぞなぞ勝負をして、わたしたちに勝てたらなんでもいうことを聞いてあげる!>
(んなことしたら、フツーに死ぬわ!!!)
「そんな時間はない。蜂蜜かミルクで手を打たないか? 君たちに贈り物をくれてやったら、そのお礼に『庭師』に会えるか?」
<あらあら!>
<彼にあったら、あなた死んじゃうわよ!>
<お礼に死にたいなんて、ツルハシ男は面白いヒトだわ!>
<そうね、このヒトは面白いわ!>
(そんな面白い? 照れるわ)
俺は二拍手をして表示枠を出すと、Gomazonで蜂蜜とミルクを買い、それをドライアドたちに差し出した。
ドライアドたちは、蜂蜜と牛乳が入った容器を
<これじゃあ、つまらないわ!>
<そうね、これじゃあ、面白くないわ!>
<わたしたちは甘いものが好きだけど、これじゃダメ!>
<そうね、ただもらっても嬉しくないの!>
『ツルハシさん……』
「いや、大丈夫だ。新しい情報が手に入ったぞ」
『新しい情報、ですか?』
「あぁ。ドライアドは贈り物を受け取るだけでは満足しない」
『そのまんまじゃん?』
「そんで、退屈してるってことだね。ツルハシが裸で踊ってみるかい?」
『あーなるほどね?』
さすが師匠。ドライアドへ贈り物をするだけの、単純な交渉ではダメだ。
師匠の言う通り、彼女たちは退屈している。
ドライアドの関心を引く、何か挑戦的なものが必要なのだ。
(きっと、ジンさんからもらったアイデアが活きるな。試してみるか――)
「俺はツルハシ男、ツルハシを使うのが得意だが、ハンマーを使って、新しい家を立てるのも得意なんだ」
<ヒトは私たちを使って家を作るのよね?>
<あら、ツルハシ男は私たちを殺す気なの?>
<じゃあ、殺さなきゃ!!>
ドライアドは物騒なことを言っているが、その顔は笑っている。
これは俺に対する揺さぶりだな。
「いやいや、君たちを使ってそんなことはしない。俺は君たちの家族のために家を作れる。どうして家の住人を使って家を作るんだ? それじゃ、あべこべだ」
<そうね! あべこべだわ!>
「君たちの庭に、俺は新しい家を見せてやろう。その屋根は日が通って、柱や壁には風が通る、そうして家に……いや、空に花や草をまとわせるんだ」
<ツルハシの作る家をお花畑にするのね!>
<それはキレイだし楽しいわ!>
<お空に花を咲かせるなんてステキだわ!>
「君たちは俺が作った家に、花の種を植えて育てることが出来る。家々は珍しい花で色とりどりに飾られ、君たちの美しさに相応しく香り高くそびえ立つだろう」
<それはいいわ! 花のお城を作りましょう!>
<クレマチスとバラの兄弟で塔をつくりましょう!>
<フフフ! 何を植えるか考えるのは楽しいわ!>
<そうね、とっても楽しいわ!>
『……さすがツルハシ。口先の魔術師ってかんじー?』
『議員たちが出来なかったことを、こんな簡単に……』
ドライアドたちは口々に感嘆の声を上げて陶然としている。自分たちの想像の中にある、花の城に見とれているのだろうか。
きっと彼女たちは、自分たちが見る夢に触れたがっている。
(なら、すこし見せてやるか)
俺は『建築』スキルから、いくつか目星をつけていた壁と柱を設計図として第一花壇の上に展開した。
家の屋根には板がなく、あばら骨のようにスカスカだ。壁は格子状で向こうが透けて見え、柱もX字になっていて、何も隠さない。
そう、この家は骨組みにすぎない。
屋根は藤棚が葉を重ねることで完成し、壁は植物のつるが絡まりながら登っていくことで建つ。
これがジンさんからもらったアイデア。
『草花と共存する家』だ。
「これはまだ幻だが、俺たちが手に持ったハンマーを振るえば完成する」
<スゴイわ! どうやって飾り付けましょう!>
<こんな家があるなんてステキね!>
<ねぇツルハシ男、これが私たちのものになるの!?>
「そうだ。これが君たちのものになる。ただし、それには約束がある」
<あらあら、何かしら!>
「約束は、『家』を独り占めしないこと。そして、俺たちを『庭師』に会わせることだ。彼はこの日比谷公園の主なんだろう?」
<そうね!>
<そうだわ!>
<そうにちがいないわ!>
「なら、いくら君たちのためでも、俺がこの『家』を庭に勝手に建てるわけにはいかない。『庭師』の許しが必要じゃないか」
ドライアドたちは、俺の言葉に戸惑った様子を見せる。
彼女たちは『庭師』に対して、愛情以外にも恐れを抱いているようだ。
しかし、ドライアドたちは自分たち家族の新しい家に心を奪われている。
それを手に入れるためなら、よそ者の俺の言うことでも聞く気になっていた。
<そうね、わかったわ!>
<私たちはあなたの言うことを聞くわ!>
<でも、気をつけなさいツルハシ男!>
(うん?)
<優しい『庭師』は怖いヒトよ>
<怖くて悲しいヒトよ。彼の涙がこの庭を満たしてるわ>
意外にも、ドライアドたちは俺に忠告の言葉を投げかけた。
どういうことだ?
「待て待て、彼はこの庭を守っているが、君たちを愛してもいるんだろう?」
<そうね、でも愛は憎しみより残酷よ>
『何やら「庭師」には複雑な背景がありそうですね』
「だな。人里はなれて精霊に囲まれて暮らしているぐらいだ。普通じゃないだろうとは思ったが、かなりクセの強いやつみたいだな」
『でも、行くんでしょー?』
「まぁな」
俺たちはドライアドに『庭師』の
俺たちを見送るドライアドは俺たちの行く方向から目をそらし、さっきまでの大騒ぎが嘘のように声を殺して、木のうろの中でじっとしていた。きっと『庭師』に対する不安からだろう。
果たして、庭師はオレたちの話を聞いてくれるだろうか。
「行こう、ラレース」
『はい』
俺たちは庭の奥、折り重なる梢が作る暗闇の中に入っていった。行く手は暗く、何も見えないが、この先に何かが待っているのは確かだ。
★★★
「ふぅーむ、こぉれが日比谷公園であるかぁ!!」
両腕にオーガーを構えたアースホルトン・マインバッハ3世は、日比谷公園の入り口に
「完全に封鎖されとんな、こんなもん前はなかったぞ?」
「ツルハシ男のしわざじゃね?」
しかし、マインバッハ3世は気にしない。
王の前に立ちはだかる壁とは、砕かれるために存在するのだ。
「朕の『キングオーガー』なら草の壁なぞ……。いざ、穿たん!!」
『それで開けた穴にその空っぽの頭を突っ込むか? やめとけ』
マインバッハのアバターである『ハデス』が主を
<ズゴゴゴドガバキィ!!!!!>
『おぅおぅおぅ……もーしらね』
「いざ征かん! 栄光の道を!!!」
「「おー!」」
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・
※作者コメント※
今回はさすがにツルハシがちょっと不憫に思えてきた(
お前はベストを尽くしてるよ……w
割と本気でとばっちり回である
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