おニューの相棒


<<ツルハシを不可能素材アンオブタニウムで修理、ですか?>>


『ツルハシさん、まさかとは思いますが……』


「いやいや、流石にそのためだけにアルマの肩を持ったりしませんって。ちょっと思いついたこともありまして」


『一体どういうことですか?』


<<なるほど、カバーストーリーと実利を兼ねるわけですか>>


「察しが良いね。オレの心まで読んでたりする?」


<<いえ、私は語りかけたり、見つめるだけにしています>>


「できるけど、やらない?」


<<そうですね。可能か不可能かでいえば、可能です。>>


 なかなか不穏なことを言うな。

 異世界の存在だけあって、なかなか規格外だ。


 アルマは俺たちとちがって、ファンタジー世界の住人だからな。

 こっちの世界の常識がまるで通じない。


『カバーストーリー……なるほど、配信が止まっている間、ここで一体何が起きていたのか? ツルハシをその証拠とするわけですね』


「そそ、アルマの話を、そのまま配信で説明することは出来ないからな」


<<秘密を守っていただき、ありがとうございます>>


「ま、そうすると思って俺たちを呼び寄せたんだろうけどな」


『……そうですね、ツルハシさんがダンジョンハートを壊さないと言うなら、私も無理強いはしません。完全に納得したわけではないですが』


「すまないラレース。俺のわがままを通してくれて」


『いえ、先にわがままを言ったのは私ですから。それに、他の場所にも存在するとなれば、これは簡単に壊せるものでは無さそうですから』


<<ところでツルハシ男さん。カバーストーリーとしては、望みを叶える石があった。そのように語るおつもりですか?>>


「ま、そんな感じかな?」


『ダンジョンの奥底に、人間の欲望、願望を叶える器がある。ありがちですが、ありがちなだけに信用は得やすいですね』


「実際間違ってないだろ? アルマはスキルを望む人間に与えてきた。そういった意味じゃ、願望器といってもいいかもな」


『願望器、ですか』


「ま、アルマなら大丈夫だろ。」


「よくある物語だと、人間の心を持たない願望器があいまいな願望を受け取って、望みを言った人間を破滅させる。そんなストーリーだろうけど……」


『人の心がわかっているなら、その心配もないと?』


「そういうこと。それに望むのは、シンプルに壊れたツルハシの修理だからな」


<<では、早速やりましょう。私の前にツルハシを掲げてください>>


「おっけー。間違えて俺を不可能素材でサンドイッチにしないでくれよ?」

『もしそうなったら、その場で砕きますので』


<<ひっ! 間違えたりしませんから!>>


 俺はこほんと咳払いをすると、取り出したツルハシをアルマの前に掲げた。


 ポーズとしては、まさに勇者が聖剣を掲げるように立っている感じだが、肝心の獲物がみすぼらしすぎる。


 ツルハシの先端は中途半端に折れているし、柄の木の部分は手垢で黒ずんで、木目に沿うように割れている。


 こんなものを「直してくれ」と言って、良いのだろうか。

 言い出しておきながら、俺はなんだか気後れしてしまう。


 しかし、アルマは俺のツルハシを笑ったりしなかった。

 俺の頭の中には、彼女の思考がほんのりと、吐息のように流れ込んでいる。


 俺の心に降りかかる彼女の思考は、感心、それが一番近いように思えた。


 アルマは自身の輝石の輝きを光の糸として、俺のツルハシの先端にくくりつけた。光は一本一本、細い繊維となって、ツルハシの先をぼんやりと形作っていく。


 光は先端から柄まで伸びていき、俺の手にかかる。

 ラレースが叫ぶが、俺は振り返って「大丈夫」といって制止する。

 これは危険なものじゃない。俺はそう直感していた。


 握りの中では、光がほんのりと俺に温かみを感じさせる。


 全てが終わった後、俺の手には不可能素材と、白銀色の金属からなるツルハシが握られていた。



 おニューの相棒、ゲットだぜ!!!

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