突きつけられた真実
「どうやらツルハシ男さんも、私と同じことにお気づきのようですね。ダンジョンの底。第十層の先に興味が出てきたのでは?」
「……かもな。でもそれはお前をブチ倒してからだ。ラレース!!」
『はいッ!!』
俺が身をひるがえしてファウストの前を避けると、足元に大きな揺れを感じた。
この振動は知っている。ラレースのスキルだ。彼女がハンマーで大地を叩き、それで生じた衝撃波をファウストに向けて打ち出したのだ。
「絶ち割れ――震天動地、『
<ズガガガガァァァッ!!>
進路上の全てを砕く衝撃波が、ファウストに向かって猛進する。
近頃はすっかり「まともに戦う」ことが少なく、忘れかけてすらいたが、彼女はそこいらの探索者では相手にならないほど強い。
第一層に住む
だが、地面を割り進む波は。その役目を果たす事はなかった。
ファウスト眼の前で空気が逆巻き、竜巻となって風が立ち上がった。それはそのままラレースの放った地砕きと接触する。
瞬間、空間が弾け、その余波が俺たちを襲った。
(何だっ!?)
頭を見えない拳でぶん殴られたような衝撃に襲われる。目の奥がチカチカとして、視界には無数の星が浮き、こめかみ辺りの血管の拍動にあわせて飛んでいた。
(クソ、どうやら耳をやられたか)
どうやら弾けた空気の衝撃が、俺の鼓膜の奥までブチのめしたようだ。
平衡感覚を根こそぎ奪われてしまい、目を閉じると縦と横の区別がなくなったかのように、首から上がグルグル縦に回る。
(まるでセルフジェットコースターだな。気持ち悪くてゲボがでそう。)
『大丈夫ですか、ツルハシさん』
「あぁ、ちょっと頭だけメリーゴーランドに乗ってるけど、それだけだ」
盾を前に出して、立ち上がる俺をカバーするラレース。
立ち上がる俺はそこに彼の姿を見た。
「ユウキ!」
俺達とファウストの間に立ちふさがっていたのは、他ならぬユウキだった。
ラレースの放ったスキルを打ち消したのは、彼の仕業か。
「武器を降ろすんだユウキ。」
「お兄さん、いや、ツルハシ男さん。いえ、そうはいきません」
黒色の長剣を腰の高さに構えたまま、少年は俺を見据える。
その視線には、明らかに敵意が宿っていた。
ユウキの力はファウストが与えたもの。
俺の「武器を降ろせ」とは、それを手放せということだ。
つまり、手に入れた力を手放せ。
お前は無能に戻れということを暗に意味している。
そう簡単には、受け入れないよなぁ……。
「俺はお前を連れ戻しにここまで来たんだ」
「何のためにですか」
「……『お前のため』、なんて事は言わないよ。それだとファウストと同じになりそうだからな」
「おやおや。」
お前がファウストに何を吹き込まれたかは知らない。いや、アイツの考えなんて知りたくもないし、」
「なら、ツルハシ男さんは、何を勝手なことを――」
「ユウキ、お前はジョブを持っていない。信仰がないってことは、神の保護も無い。つまり、ダンジョンで死んだらそこでお終いってことだ」
「そんなことくらい……理解してますッ!」
「本当か? ならどうして震えてる」
「……っ」
ユウキが握りしめた長剣の先は、フラフラと左右に揺れている。
ラレースやナナ、レオの微動だにしない構えと比べれば、迷いは明白だ。
「ユウキ、お前は俺たちと戦うつもりなのか?」
「……はい。僕はファウストさんの側で戦います」
「何でそこまでして戦う」
「それは……ツルハシ男さんも知っているでしょう。僕の先に都市に入った――」
「友だち、だったな。確か、イツキとヒナタっていってたよな」
「……覚えてたんですか?」
「これでも記憶力は良い方なんだ。一応、客商売してたしな」
「ならわかるでしょう! 僕が強くならないと、先にお台場に入った二人と、ヒナタと会うには、僕が強くならないと、そうファウストさんは言ったんです!」
「嘘だな。白々しいにもほどがあるぞ」
「おやおや。私は何も間違ったことは言っていませんよ」
「そうかい。」
そうか、これまでの俺の配信は、ユウキは当然見てないよな。
ネットに繋ぐ方法も無い。だから「あの事」を全く知らないんだ。
どこまで信じてもらえるかはわからんが、やるしか無いか。
「ユウキ、聞け。ファウストのスキルは、人間を『パピルス』つまりスキルを吐き出し続けるアイテムに変えるスキルだ。」
「お前の手に持っている武器、身につけている鎧に封じられたスキルは、全て実際にこの世に存在した『元人間』だ。」
「……そんなバカな!」
「あぁ、大バカだ。そんで聞け――」
「ファウストが使うスキル。それはダンジョンの中だけで集められたものじゃない。外から都市に引き入れた連中、彼らからスキルを集めてたんだ」
「あのオーディションは、ただの選別じゃない。スキルに姿を変えるのにふさわしい人間。それを選び出すためのものだったんだ」
「――ッ!」
「そんな、じゃぁ……」
「お前の友達はもう、アイツの甲冑の一部分になっている」
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