威力業務妨害

※作者コメント※

7dtdというゾンビゲーで遊び呆けていたので一話更新です。

すまねぇ…(

ーーーーーーーーー



「生きたい……だって?」

『何故ダンジョンに、そのような意思があると言うのです』


「ツルハシ男さん、あなたとお仲間は第一層から第七層まで、一気に進んできたわけですが、『概念』が次第に上がってきたのに気付きませんか?」


「また概念の話か。正直うんざりしてるんだが、それが何でそんなに大事なんだ」


「ええ、とても大事です。概念とは物を言葉で定義したもの。これを言い換えれば、『AとはBである』ということになります」


「哲学の講義を始めるつもりか? 配信を見ている視聴者がブラバするような内容を語られるとか、フツーに営業妨害なんだけど?」


「これは失礼しました。では、視聴者の興味が引かれるような、キャッチーな話をしてみましょうか」


「ダジャレとかは止めろよ」


「――概念とは、現実に存在しないものです」


「お前がエンタメのことを、1ミリもわかってないことがわかった」


「知的なエンタメもあるんですよ。」


 あるかもしれんが、少なくともウチの視聴者層とは合いそうにない。コイツが難しい話すると、天に向かって飛び上がるハートの数が一気に減ってくもん……。


 おうおう、威力業務妨害で訴えるぞ!!


「概念とは、ラテン語の『考えられたもの』が語源となっています。そして概念は階層上に分類され、上位、中位、下位の分類があります。例を挙げると――」


「武器>剣>ロングソードと言った具合に。何か気付きませんか?」


「……スキルか。」


「そのとおりです。そして概念は正確であることもあれば、どうしようもないほどに、不正確な場合もあります。」


「例えば――『木』という概念を提示する時、私達の心は世界に存在する『木』の類似点を抽出します。杉や松、アカシアといったモノを『木』に単純化することで、より高いレベルでの思考が可能になるのです」


「クソデカ主語で語ることで、ツルハシ男という俺個人の問題から、人類すべての問題として語ることが出来るってことか」


「はい。」


「『人類は愚か』ってクソデカ主語で語ると、同意と否定が同時に出てくる。正確でもあるが、不正確でもある。アホも天才も同じ人類だから。こうか?」


「察しが良くて助かります。貴方は本当に良い生徒ですね」


「授業料は払わんぞ」


「これはサービスなので」


(しかし……概念が上がるってなんだ? あ、そうか――)


「概念が上がるというのは、特定の何かの形になっていることを指すわけじゃない、剣から武器へ、『括り』が曖昧あいまいになっていくことを指すのか」


「この都市が現実に存在した特定の都市を再現しているんじゃなくて、都市っぽいものを再現している。それが『概念が上がった』ということか?」


おおよそ、そういった事です。」


 これはなかなか、直感に反する話だ。


 普通なら、『18世紀に流行ったロココ調の美しい革張りの椅子』。なんて風にくどくど説明されると、なんとなく上位の概念って気がする。

 

 だけどファウストが言うには、これは概念の下位に属する、らしい。

 上位の概念は『椅子』。もっと言えば『座れるモノ』か?


 まぁ、ここまでは良い。

 問題は――


「ダンジョンの概念が上がる。どうしてそれが生きたいという欲求につながる?」


「それら概念を生み出す根源は、生きたいという欲求だからです。」


「……またうさん臭いことになってきたぞ」


「なぜ概念、『スキル』が私達の体の動きに変化を及ぼすのでしょう?」


「私たちの肉体は現実に存在しますが、私という概念を取り出して、誰かに渡すことはできません。肉体はあくまでも肉体です」


「そうだな。肉体と俺がガッチリくっついてるなら、頭がなくなっても、骨だけになってもその場でわかるはずだ。」


「その通りです。前時代に行われた法医学、検死は歯型やDNAといった身体的特徴から、戸籍といったデータと照合するものです。私という概念が明確に存在するなら、それと照らし合わせれば良い」


「だから概念は現実に存在しない、か? 回りくどいわ!!」


「私という概念は、肉体を抜きに存在する事ができません。この世界に存在しない、無いとは、世界と関係を持てないということです」


「生きるということは、私という概念と、この肉体を同一視し、その欲求の解決に継続的に取り組む事を意味しています」


 死ぬほどややこしいな。


 俺が世界に向かって概念=スキルを使うには肉体が必要。

 それで飯を食ってるのは、食わないと俺の肉体が餓死するから。


 肉体を維持することは、俺という概念を維持する事でもある。

 それが生きるっていうこと。


 ん? ってことは――


「さて、ダンジョンに心があるとするならば、その肉体は……」


『ダンジョンそのもの……』

「そして、そこに居るモンスター、トラップすらも、か?」


「はい。概念をあらわした存在であるダンジョン。とくにそこにいるモンスターの姿は多かれ少なかれ、当人の『欲求』の形を再現しています」


「欲求の解決とは、そうでない現実を認識することです。ゆえに心が身体と繋がっているだけではなく、身体が心に影響を与えていなければなりません」


 そりゃそうだ。飢えを感じることがなければ、餓死してしまうからな。

 ……なんだ? 嫌な予感がする。


「神のスキルがなぜ人より優れているのか、逆にそれには何が必要なのか? それすなわち、感覚と運動能力を持ち、身体と通じて、世界と繋がっている事です。それによって良し悪しを判断でき、実現できるわけです」


 あぁ、わかった。

 ――わかってしまった。


「神とダンジョン、スキル。それは全て、ひとつながりのシステムであり――」


「ダンジョンは人のあり方、原理をシステム的に流用したのです。」



 そうだ。「互換性」だ。それが無きゃ、神の力、スキルを人に降ろせない。

 俺たち人間は、『神』を作るためのサンプルだったんだ。

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