マッチポンプ

「都市を……崩壊? それって、どういう意味です」


『そのままの意味です。彼はある方法を用いて、最初から都市を崩壊させるつもりだったんです』


「ある方法?」

『はい。それはツルハシさん、あなたの配信に出ることです』

「えっ」


『なぜ彼は、嫌悪されるのを自覚している自らのスキルの仕組みを明かしたのか。それも、誰が見ているかわからないような配信で――』


「ちょ、ちょっと待って下さい」


「『パピルス』を公開することが、何で都市を破壊するのにつながるんです?」


『――ファウストは都市探索者です。彼がこれまでにした事は……恐らくですが、都市も知っている事でしょう』


「まさか……いやでも、まてよ」

「……都市探索者なら、都市から支援を受けていてもおかしくない。その支援が、パピルスにする『素材』……人の提供?」


『かもしれません。それについては、一つ気になる噂を聞いたことが有るんです』


「噂ですか?」


『都市に入るものは多いが、出ていく死体は少ない。それは人食いシェフがいて、外から来た旅人を捕まえては殺し、肉にして売る。人肉市場の噂です。』


『銀座のような七不思議の噂が国際展示場にもありまして。光越のライオンほど、可愛かわいげはありませんけどね』


「たしかにね……ホラー映画さながらだ。それで?」


『国際展示場、都市に入ろうとする人たちがバラックを建てていた場所、門前町のことを覚えていますか?』


「もちろん、忘れてなんかいませんよ。ユウキが腕を削いだあの瞬間。あのことは、今でも頭に焼き付いてます」


『そう、その門前町のことです。外の人間が国際展示場に入り、そこで住むには、必要とされる技能を持っているか、そのチェックがありましたよね?』


『私たちが拠点を立てた頃には、すでに門前町がありました。そして毎日のように「選別」が行われていたのも目にしていました。』


「……!!!」

「まさか、あの選別って……!!」


『そのまさかだと思います。すべては都市ぐるみだったのでしょう』


「少なく見積もっても200以上、パピルスにされた人間がいるわけだから……。使い潰したり、お試しもしているだろうからその数倍はいるか?」


『一度に3人の住民を増やすの選別を週に1回おこなうとしたら、一年に52回余り。1年で156人ですね。』


「とても一個人、ファウスト一人じゃそれだけの人集めは難しいですよね」


『一人ひとり、声をかけて回っていたら、とても無理でしょうね。だからこそ都市を利用したのでしょう』


「都市としちゃ、探索者を利用しているつもりだったでしょうが…‥どっちが利用されてるんだか」


『配信を見た、勘の良い住人なら……「都市」の市長が住民を売り、それで私腹を肥やしていたことに勘づくでしょうね』


「配信で全部流しちゃったよ……」


『不信感から市長や取り巻きたちを問い詰めるものが出るでしょうね。立場的に、市長はファウストの要求を断れる立場にありません』


『門前町の人間だけではなく、元から都市にいた住民まで「パピルス」にしていたとしたら……暴動が起きてもおかしくはないでしょう』


 あんのやろぉ……クッソ面倒くさい事しやがって!!!

 なにが人の救済だ!

 火つけまわってんじゃねぇか!!


「人の救済が呆れますね。もはやアイツが何を言おうと、ただのうわ言です」

『まったく同意します』


「ってことは、マッチポンプみたいな感じだったんですかね」


「信用を失った都市が崩壊すれば、他人に頼る事ができなくなくなる。それが神への祈りとなり、人々はジョブを求める……みたいな?」


『そんなところかも知れません。市長は利用されるだけ利用された。哀れですね』


「責任を取ってもらう人は必要だから、多少はね。」


 ん、なんかイヤな予感、というか思いつきが頭をよぎったぞ。


「――責任といえば、聖墳墓教会はどうなんでしょう? 教会のソーチョーは何か知ってたりしなかったんですかね?」


『……何とも言えませんね。都市とのやり取りをしていたのは総長ですので』


「あぁー、お金周りなんかも、ですか?」


『そうですね。教会の予算、人員の事は総長が取り仕切っていますので』


 ラレースさんの前では口が裂けても言えないけど、ひょっとしたら教会も関与している可能性が出てきたか。


 立場上、教会は都市に弱いらしいからな。

 なんらかの要請があれば断れないだろうな。 

 

『この事は一応バーバラと師匠にも伝達しておくことにします』


「ソーチョーには秘密にしておくんですね」


『はい。総長を信頼していないわけではありません。しかし、活動の拠点を失うとなった時、総長がどこまで冷静でいられるか……』


「そうか……そっちの心配もありますね」


『はい。流血を伴う騒ぎや戦いにならないといいのですが』


 言いにくいが、それは確実に起きるな。

 なにしろ――


「国際展示場は、都市の中の富豪や資産家が好き勝手してるんですよね」

「なら、ちゃぶ台返しを望んでいる連中は絶対いますよ」


『そうですね。虐げられた人たちはきっと動くでしょう』

 

「本気でファウストのやつ、余計なことしてくれたな……」


『彼はもとより混乱を引き起こすつもりで、お台場という都市と、その市長に接近したのかも知れませんね……』


「銀座とは違う不安定さがお台場にはあるからな。自業自得って気もするけど」


 自業自得だが、何とかしないといけない。


 このまま収拾の糸口が得られなければ、確実にお台場の都市で暴動が起き、下手をすれば消滅する。そしてそれは教会、ラレースの家と家族が消えることも意味している。それだけは避けなくては。


『市長が報いを受けるのは当然ですが、彼らとは無関係な人も傷つきます。自分達の家を失うほどに、争いを広げないと良いのですが』


「何とも言えませんね。ただ――」


「ファウストを倒して、奴がパピルスにした遺骨を葬れば、死んだ人間は返ってくる。それで沈静化するのを祈るしかない、か?」


『私もそれくらいしか、思いつきませんね……』

「俺も半分は祈り混じりですよ。ガラにもないですが」


『先を急ぎましょう。手遅れになる前に!』

「あぁ。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る