葬儀屋「ジン」

「あ、ツルハシさんですね、どうもです~。スレの>>471です~」

「アッハイ、これはどうも」

 

 かるーい感じで挨拶してきた女性に、腰を折って挨拶を返す。

 何か思ったより……フレンドリー?


 なんかこう、「ゲハハハ!!叛逆者はんぎゃくしゃに天からの死を!」みたいな感じを想像してたけど……。目の前の「葬儀屋」さんは、とてもそんな感じに見えない。

 

「いつも配信見てますよ~。こんどは第十層に行くなんて、わくわくですね~」

「ソウデスネー」


 彼女はストレートの背中までの黒髪を風に流し、丸メガネをかけている。レンズの向こうにある眠たげな目は、生き血よりもお昼寝が好きって雰囲気をしていた。


 なんだろう、こう……。

 犯罪者絶対殺すマンっていうより、ヒマな喫茶店のお姉さんって感じだなー。


 それとも、これも「葬儀屋」としての演技なんだろうか。



「説明が遅れました。私の名前はジン。ジョブは薬師です~。みてのとーり、探索者協会で『葬儀屋』をしてます~」


『あぁ、ジンさんは葬儀屋さんだから、そういった格好をしてらしたんですね』


「ラレースさん、探索者協会の葬儀屋は普通の葬儀屋さんとはちょっと意味が違いましてですね……」


『はい?』


「あ~、ラレースちゃんは銀座のよそから来たから、知らないよね~」


「銀座で言う、葬儀屋ってのはですね……ゴニョゴニョ」


 俺はこの銀座で言う所の「葬儀屋」についてラレースに説明する。

 本当に葬儀屋の仕事もしてるのが、説明をややこしくするんだよな……。

 

『あー……そういう方向での、葬儀屋さんなんですね』


「話の腰を折って申し訳ない! 失礼ながら、ジンさんは、ダンジョンの階層は、どちらまで踏破されているのですかな!」


(あ、聞きそびれるところだった。グッジョブ、レオ!)


「それは保安上の理由で秘密です~?」

「保安上の理由?」

「どこまで逃げたら安全とか、バレちゃったら困るので~」

「アッ、それは確かに。」


「ですけどまぁ、クソ野郎を本気で追いかける時は、かなーり深い所までは行ってますので、ご心配なくです~」


「は、はぁ。」


 なんだろう?

 どことなく、師匠と同じ空気を、ジンさんから感じるぞ。


「ジンさんは探索者以外の本業が有るんですよね? もしかしたら、しばらくダンジョンに籠もると思いますが、それは大丈夫ですか?」


「全然大丈夫だよ~。誰かさんのお陰で、ダンジョンの遺体の未回収率はガクッと減ったからね。いやはや、楽になったよ~」


「アッ、もしかして……お邪魔でした?」

「うんにゃ。置きっぱなしの死体が減るのは、良いことだからね~」


 真意はわからないが、少なくとも機嫌は損ねてない……のかな?


 クセの強いしゃべりのせいで、ジンさんの感情がどうにも読み取りづらい。

 きっとこの喋り方、わざとやってるな。


 犯罪者に本音を読み取らせないために、とかそんな感じで。



『ともかく、これで必要なメンバーが集まりましたね、ツルハシさん』


「えぇ。後は行動あるのみですね。ではこれからのことを説明します――」


 メンバーがそろったので、俺は今回の探索計画について、詳しい説明を始めることにした。ちょっとばかし、テンションを入れ替えるとしよう。


「まず、今回の目標は、浜離宮ダンジョン、第七層までの到達になります。」

「予定している活動時間は一週間」


「必要な物資を集める準備は明日より開始して、問題がなければ正午までに突入を開始して、第四層でキャンプをして、初日は終了となります」


「その後、時間をかけて第七層までを攻略します。もし、出来るようなら、配信を伴う開拓も行うつもりです」


「そして、今回の行程は、第七層を攻略したところで終了です。」


「すなわち、第八層の入り口まで到達し、転送門の入り口を破壊して地上に戻った時が、全行程が終了した瞬間ということになりますね」


「そして、全体目標は第十層までの踏破です。もし協力していただけるようなら、この後もお付き合いいただければと思います」


「以上です。何か質問は?」


「うむ! 準備すべき物資のリストは有るかな!」


「俺が集めようと思っていた物のリストがあります。参考程度にどうぞ。」

「助かる!」


「はいは~い。もし途中で引き返すことになった場合ですけど~。引き返すことを決定する、具体的な基準は何でしょう~?」


 なかなか鋭い質問が飛んできた。

 だが、コレもちゃんと考えてある。


「守り手の負担が過大になり、死傷が予測される時。あるいはメンバーに死傷者が出た時点で撤収です」


「一般的なルールよりちょっと判断が厳し目ですね~。良いと思います」


「他に何か、ありますか?」


「「「…………」」」


 無さそう、かな?

 ナナは……質問してもいいか、よくわからない感じかな?


「ナナちゃんも、これでいいかな?」

「……あの、途中で帰ることになっても、また行ってもいいですか?」


「えぇ、もちろん!」

「――ありがとうです!」



「質問は以上でいいですかね?」


 うん、出揃った感じだな。

 メンバーの顔に、不安の色はない。


「では、説明は以上になります!」

「さっそく、明日から浜離宮ダンジョンに突入しましょう!」


「「「おー!」」」

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