スパルタン・レオ

「スパァァァルタァァァー!! フンッ!!!」


<ズガァァァァァァァァンッ!!!!!!>


「「うわぁ!」」「「ヒェェェッ!!」」

『な、何事です?!』


 雄叫びが近づいて来たかと思うと、人々の中心で何かが爆発する。

 銀座の空を切り裂いてやって来た何者かが、流星となって地面に激突したのだ。


 もうもうと立ち込める煙でしばらく何も見えなかったが、煙が風に流されると、流星の正体が明らかになった。


 金色の槍に、大きな円盾ホプロンを持った戦士。それが自らが創り出したクレーターで膝をついていたのだ。



 あのスキル、まさか「スパルタン」か?


 仲間を守る、守護者系のジョブの中でも、スパルタンは攻撃的で知られる。


 普通、守護者は盾を展開して仲間を守るもんだが、スパルタンは敵の前に出て、そいつにタイマンを仕掛けて仲間を守る。そう言うタイプの前衛だ。


 敵に対し、弾丸の如き勢いで突撃するスキルが彼らにはある。

 さっきのはきっとそれだろう。


 だけど、うーん、うーーーーん……。


 あの格好は、とても正視に耐えない。


 男は素晴らしい肉体美にブーメランパンツだけを履いていた。

 防具は小手とすね当て、そしてヘルメットだけだ。


 ねぇ、あのシャウトから察するに、多分あの人は自分がスパルタ兵のつもりなんだろうけど……ここまで迫真のコス、する必要ある?


「お、お前は――レオ!!」


宮藤くどう! タイムアップだ!!」


「そこの騎士は初めてここ、銀座の門をくぐった『客人』だ。ゆすりもたかりも、やめるんだな!!」


 レオと呼ばれた現代のスパルタ兵がそう言い切ると、これまた現代に蘇ったヤンキーの宮藤が、リーゼントを揺らしてスパルタ兵にメンチを切る。


 ……何かここだけ時空が歪んでない?


「いい子ぶりやがって、何のつもりだ。しょせん余所者よそものだろう」


「ならば、仲間に対する愛はあるというのか、宮藤?」


「もちろんあるとも」


「では、私の話くらい、聞いてもらっても良いだろう……」


「レオ、誰彼構わずここを通していたら、銀座の秩序はむちゃくちゃになるぞ」


「確かに俺達は、弱い連中から金を巻き上げる、ろくでなしに見えるかも知れない。だが、銀座の平和を守っているのは誰だ? 俺たちだ」


「わかるか? 俺たちが銀座を守っているんだ。レオ、お前じゃない。」


「なるほど、御高説ごこうせつはもっともだ。こちらからも言わせてくれ」

「ああ、どうぞ――」


 両手を広げ「さぁ言ってみろ」といわんばかりの宮藤。


 それに対して、レオは静かに歩み寄る。


 すると、レオは右手にもっていた円盾をくるっと回して振りかぶると、盾のフチを勢いよく宮藤の顔面に激突させた!


<ガイィィンッ!!!>


「ぐ、ガッ……ッ!!」


 反響する金属音がビルの谷間に響き、飛び散った鮮血が暗灰色のアスファルトを赤く染め上げた。だが、盾を振り抜いて、体を大きくひねったレオは止まらない。


 体をひねることでたまった力を槍に伝え、そのまま前へ突き出したのだ!!

 神速で突き出される槍の穂先は街の灯りを受け、光線のように輝いていた。


<ザシュッ!!ドス、ドス、ガスッ!!>


 槍の穂先は、何度も何度も宮藤の体を貫き、彼の学ランを真っ赤にする。

 もはや「天下統一」の文字も「一」しか読めない。


「うぅ、うご……」


 宮藤は自分の血で作った血の池に倒れると、数拍の間もなく絶命した。



「どうやら、反論はないようだな。」

「人を言い負かすというのは悲しいことだ。お互い手を取り合いたかったのに」


(言い負かす?! どこに言い負かした要素が!?)


 血溜まりに沈む宮藤。レオはその死を悼むようにしていた。


 だが、さっと振り返ったかと思うと、彼は一列に並んでいたゴロツキに対して、問いかけを発する。


「――さて、君たちはどうだ?」


「「な、無いです!! 何もありません!!」」

「「俺たち、こ、ここれで失礼します!!!」」


 レオに「言葉」を求められたゴロツキたちは、完全に縮みあがっていた。

 へこへこ頭を下げると、腰を折り曲げた姿勢のまま、銀座の裏路地に消えていった。


(何アレ、怖ぇぇぇぇぇぇぇっ!!!???)



「さて、君たち……」


「は、はい!?」

『な、なんでしょう!?』


「彼らに何も盗られていないか? いや、そこの君は……見たことあるな」


「気ノセイジャナイカナー?」


「思い出した、ツルハシ男さんじゃないか!」


 あ、これは死んだかな?


 俺はレオという名のスパルタ兵に、ガッと腕を掴まれた。

 そのまま腕を「ブチィ!」と引っこ抜かれると思ったが、何も起きない。


 えっと思って彼の顔を見ると、兜の奥の瞳には、何か光るものが宿っていた。

 こ、これは一体?!


「貴方のファンです!! あぁ、こんなところで会えるなんて!!」


 やだーーー!!!

 小生ヤダ!!!!!!


 初めて出会ったファンがムキムキのパンツ男とかヤダーーー!!!


 カワイイ女の子がよかったぁぁぁぁぁ!!!

 


 そんな俺の心の叫びとは関係なく、目の前のスパルタンは、憧れの野球選手に出会った少年のような瞳で俺を見つめていた。

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