心にカタチを
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「わぁ……!」
『何かスゴイことになってますね……』
師匠たちを見送り、浜離宮ダンジョンに戻った俺たちは、ジジイの様子が気になって、ダンジョン第一層にあるジジイの部屋へむかったのだが……。
ラレースが言うように、何かスゴイことになっている。
爺部屋の周りの床が、完全に無くなっていたのだ。
ダンジョンの中なのに、ジジイの部屋だけが、塔みたいにそびえ立っていた。
なんかこれ見たことあるぞ。どっかの外国だったかなぁ……? 地上げ屋と戦って、家の周りをブルドーザーで掘られた写真、アレによく似てる。
「まわりがお
『一体何でこんな事に……』
「ミラービーストの仕業でしょうけど、嫌がらせのレベルが高すぎますね」
とりあえず爺部屋の扉までブロックを置いてつないでいく。
向こうまでは……10メートルくらいかな?
これくらいの距離なら、橋を作っても大丈夫そうだな。
<ポンッ><ポンッ><ポンッ>
『一体何があったんでしょう……』
「ジジイに聞いてみますか。大体想像つきますけど」
「――ジジイ、おるかー?」
<ギィ、ギギギギギ……>
ブロックをジジイ部屋につなげた俺は、両開きのドアを無造作に開く。
部屋の中にはジジイがいた。何だ、普通に平気そうだな。
「ファファファ……また懲りずにきおったか!!」
振り返った瞬間、ジジイは即座にファイアーボールを飛ばしてきた!
(――いきなりかよ!! 危ねぇ!!)
俺はその場に壁をポポンっと並べて火球を防ぐ。
火炎のボールは、俺が出した壁の裏でボンボンと弾け、部屋の温度を上げた。
「まだまだぁ!」
<ドゴ! ドゴン! ズッドン!!!>
何発撃つつもりだよ! 殺意が高すぎる?!
「待てやジジイ!! こっちは本物! ラレースが居るだろ!!」
「む、お主か。しかし頭をちぎって中身を見ねば、まだ本物かどうかは……!」
「しれっと抹殺しようとするんじゃねぇ!! わかってやってんだろ!!」
『リッチさん、ご無事そうでよかったです。モンスターの無事を喜ぶというのも、奇妙な気がしますが』
「ほっほっほ! そちらも無事なようで何よりじゃ」
「なぁ、ラレースと俺の扱いの差がひどくね?」
「当たり前じゃろ。今まで何してきたと思ってるんじゃ」
「何も言えねぇ」
「ふむ……お主らの様子じゃと、ミラービーストは討ち果たしたか」
『はい。ですが――』
「一応、ジジイにも伝えておくか。」
「ふむ? その様子じゃとお主らに何事かあったようじゃな」
「あぁ」
俺はミラービーストと戦った時の
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「そうか……邪神・ニャルラトホテプか。とんでもないのに出くわしたな」
「ジジイ、そいつの事、何か知っているのか?」
「うむ……しかしワシも大した事は知らぬな」
「知っててもボケでドンドン忘れていくか……」
「よし、お主の脳ミソで補充するか」
「待って! 脳みそチュルチュルはやめて!!」
『どんなささいな事でもかまいません。何か手がかりになるかも』
「あの存在に対して『こうである』とは言えないのじゃよ。あれは何もかもが矛盾していている。恐らく同時に存在している全てが真実なのじゃろう」
「また訳のわからんことを……」
『矛盾、あるいは混沌の神格、そういうことですか?』
「流石はラレースちゃんじゃ。察しがいいの」
「ないけどある。それがアイツってこと?」
「そうじゃな。お主のやったことは、その時取れる手段としては最善のものじゃ。無数の祈りを押し付けて、概念を固定化して、力づくで倒す」
「邪神もまさか、敵に祈りを捧げられるとは思わなかったじゃろう。クカカ!」
「……そういえば、ニャルも言ってたけど、その『概念』って何なんだ?」
「神の力の本質じゃよ。形のないものに形を与える。取り出すことの出来ぬもの、触れ得ぬものに形を与える。心に形を与え実存、本質、物とする」
「人の心、意志、欲望は無限にある。それを形づくったものが『概念』じゃ」
「俺はジジイの自作ポエムを聞きたいんじゃないんだが?」
「自分から聞いといて、その態度とれるのスゴイなお主」
『すみません、うちのツルハシさんが……』
「概念、概念ね……例えばやっつけたい、守りたい、そういう心に形を与える……あ、それってスキルとジョブのこと!?」
「お、理解したな? そういうことじゃよ」
「何か見えて来そうだ……ギロチンは『斬るという概念』が形になったトラップ。だからニャルの触手を切れた?」
『では、ダンジョンも人間の使うスキルやジョブと同じ理屈で動いている、そういうことですか?』
「っぽいね。」
なるほど、神の力は人の意志を形、物体にするスーパーパワー。
この世に存在するエネルギーは有限だが、こうしたい、あれしたいっていう欲望は無限。それを物体にすれば、たしかにすごいパワーが生まれそうだ。
それが「概念」ってことか。
……ん?
「ちょっとまってくれ、俺たちのスキルやジョブが、俺たちの心、自分の心の具現化なのは良いとしよう。だとすると、ちょっとわからないことが出てくる」
「ダンジョンは誰の心の具現化なんだ?」
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