門前町
『ツルハシさん。ここが門前街です』
「ここにいる人達は、みんな『都市』に入れるのを待ってるのか?」
「そうだね。まあよくこんだけ集まったもんだ」
ユウキを連れ、俺たちはある場所に来ていた。
来ているのは、お台場の『都市』に住もうとしている人たちがテントやバラックを建てている、通称「門前町」と呼ばれる場所だ。
ユウキもここで野宿同然の生活をしていた。
そして、『都市』に入れる時を待っていたらしい。
俺とラレースは、集合場所に着た師匠とバーバラに、ユウキの事を説明した。
二人はあまり良い顔はしなかったが、それが俺に意地を張らせた。
『ねーツルハシ?』
「ん、なんですバーバラさん?」
『あの子の世話、本当に見る気?』
「だって、ユウキは頼る相手もいないんだ。このまま野垂れ死ぬのは目に見えているじゃないか」
『そんなの、掃いて捨てるほどいるじゃん。そんなことしてたら、アンタも一緒に
「そうかもな」
バーバラの言うことは正しい。
現に俺達のいる、この門前町がそんな場所だ。
だけど、そうだとしてもだ。
知り合った相手をポイッと放り出せるほど終わっちゃいない。
「確かに、自己満足かもしれない、何も変わらないかも知れない。」
「でも、城を建てたのは、何もない所に一個一個、石を積み上げたやつだろ?」
「出来る範囲で続けていけば、何か変わるかもしれないじゃないか」
『……それ言われたら、あーしがワルモノみたいじゃん』
「おっと、今気がついた?」
『――こんにゃろ!!』
「あいたっ! 銃でつっつくな!! 割と痛いそれ!」
バーバラに銃で尻を刺されていた、その時だった。
プラ板やタイヤといった、廃材を家にしたバラックから誰か出てくる。
上下違う色の背広に、山高帽を被ったビジネスマン風の男だ。
「お、新入りさんか~? お前は一体何が出来るんだ?」
『誰?』
「バーバラさん、急に話しかけてくるとかヤバい人だよ」
『だね、シカトシカト。』
「なんだとぉ~? こっちが善意で聞いてやってるのによぉ!!」
「すみません! ピックマンさん、この人たちは都市の中の人たちなんです!」
「――ッ!! それを先に言え、バカやろう!」
<バキッ!!>
「ウッ――!!」
「おい! 何してる!」
『やめないか!』
俺たちの間に入ったユウキが、ピックマンに殴られて吹き飛んだ。
カッとなった俺は詰め寄るが、野郎はヘラヘラと愛想笑いを浮かべている。
「いやですよ旦那、こんなヤツより俺を……腕っぷしだって」
「何のつもりかわからんが、消えろ」
「た、頼みます、こんなクズより、俺を――」
<カランカラン!>
「――ッ!! 来た来たァ!!!!」
「おい?! ――どっか行っちまったよ……何なんだ?」
おっと、こんなことしてる場合じゃなかった!
俺はカッパの薬瓶を取り出して、ユウキの様子を見に行く。
先にラレースがユウキを見に行っていた。
うわ、唇が切れて鮮血でシャツの首周りが真っ赤になってる。
なにやってんだよあのオッサン……。
「ラレースさん、これを」
『あ、あの時の……ありがとうございます』
彼女はユウキの血止めをする。重大なケガでなくてよかった。
「あの野郎、どこ行きやがった……」
『ツルハシさん、あのベルの音は、勧誘の始まりを知らせるものです』
「……勧誘? あ、都市の中へってこと?」
『はい。』
立ち上がって門前町の様子を見てみると、確かに人だかりが出来ていた。
(ん~、よく見えんが、誰かを囲んでるな)
門前町の人たちは、カラフルなオレンジ色のお立ち台を囲んでいる。
その上には、ベルとメガホンを持ったオッサンと、両脇を固める兵士がいた。
オッサンはともかく、兵士の装備がすごい。
あの濃い青色アーマー、アダマンタイトか?
ラレースのアーマーもすごいが、それより上等なのを着ている。
お台場の『都市』ってやっぱり金持ってるんだな……。
『オホン、あーあー、えー皆、注目!』
『我らが「都市」の中に入りたがっている市民候補の諸君。君たちに耳寄りなお知らせがある。ただいま人員の募集が出た。』
『条件は……ん? ちょっと待て――』
(おい、これ、本当か? 間違いないのか?)
(間違いありません。市長が直々に発行した指示書です)
(なら良いが……こんなのではなぁ……)
『失礼した。――条件は』
『信仰を持たないこと!! そして熱意とやる気は誰にも負けないことだ!!』
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