1たす4
「クソッ! クソッ!! 何なんだアイツは……!」
No.1に肩を貸しながら、俺たちは奴らから必死で逃れた。
あんなモノが……あんなモノがあるなんて、知らなかったぞ?!
奴はダンジョンの壁をブロックのように壊して、埋め直すことが出来る。
「ただそれだけ」だと思っていた。しかし、それは間違いだった。
もちろん、何かをしているのは見えていた。
氷を並べた瞬間、疑問も浮かんだ。
なんでそんなことを? ってな。
ツルハシ男が逃げる様子が無いから、そのままにしていた。
どうせ逃げても「追跡」で捕まえられるし、夜になれば俺たちの時間だ。
だから、放っておいても問題ない。誰だってそう思うはずだ。
一体どこの誰が、次に起こったことを想像できる?
ツルハシ男は毒矢を発射するブロックを置いて攻撃してきた。
No.2とNo.3は矢を喰らって即死。
死体はその場に残してきたので、間違いなく送られる。
そうなればあの二人の復帰は絶望的だ。
唯一生き残ったNo.1も、あの騎士に両腕を砕かれて半死半生。
治療しようにも、一部始終を配信されてしまった。
俺たちに協力してくれる探索者はしばらく見つけられないだろう。
立て直すにのは無理じゃない。でも、どれだけの時間がかかる?
俺たちネズミは……「噛みつきバイト」は終わった。
生き残ったのはNo.1だけ。
体力だけが取り柄だが、ダンジョンで生き残るためには頭が要る。
奴は
ダンジョンでゴミ拾いをしていたNo.1を拾い上げると、奴はオレに
それで
オレにはあるアイデアがあった。
スキルとジョブは、多数のサブカテゴリが揃って、本当の完成を見る。
一人で完成させようとすると、膨大な時間と神気が必要だ。
なら、自分は一つだけやれば良い。
他は他人に任せる。
それぞれのスキルを持ち寄ってスキルとジョブの完成品とする。
それがオレのアイデアだった。
No.2、No.3もそうだが、最初はNo.1だ。
「現物」があるとアイデアに説得力があった。
No.2、そしてNo.3と、仲間を集めて……。
そうやって少しづつ、クランを形にしてきた。
それなのに――。
「ハァ……! ハァ……ッ!」
「も、もう、い、いいんだ、な、な、No.4」
「お、おいらを置いて、い、いくんだな」
「バカッ、そんなことできるか!」
腕が使えないNo.1は、身をよじって俺から離れるとダンジョンの床に座り込む。
ひどく顔色が悪い。腕が腫れ上がって黒に近い紫になっていた。
これではもう使い物にならない。ならいっそ――
「ば、バカ、バカ、だから、」
「お、おいら、No.4にバカにされてるの、わかってた、んだな」
(――ッ!)
「よく、わ、わからないけど」
「もっと、もっと――よく、できたらとおも、おもったけど」
「でも、ぐるぐるってして、だめ、なんだな」
「No.1、お前は……」
「で、でも……あ、ありが、とう、なんだな」
No.1の言葉を受けた俺の
普段あれだけあること無いこと、知らないことをべらべらと喋れるのに。
いつものように嘘をついたら良いじゃないか。
なぜそれが出来ない?
ただ、そのまま同じように返せばいいだけなのに。
ああそうか。俺は嘘以外言えない。
それが嘘じゃないから。だから言えないのか。
「No.1……」
俺が
肩が上下しているから死んではいないようだが、似たようなものだ。
頭が良いと思ってもらいたかった。
利口だと言ってもらいたかった。
何かになりたかった。
誰もが
その結果がこれか。
仲間は皆死んで、俺だけが生き残って。
利口だと、手玉に取ってたつもりの相手に見透かされて。
それで、こうなったなら、いっそ――
(いっそ、もう誰からも隠れてしまいたい)
そう思った時だった。
起動の二拍手もなしに、勝手に月を象った表示枠が目の前に現れた。
月は静かに俺の目の前に浮いている。
「テメぇ、
『そう
『失意に沈む貴方たちに秘術を授けたく思いたったのですから』
「……秘術、だって?」
『左様ですわ。貴方のその心、強い心を支える物さえあれば』
『貴方は何者にも負けない存在になる』
「心? こんな俺の心の、何が強いってんだ」
『それは貴方がわかっていないだけ』
『貴方の心は、貴方が思う以上に偉大で力強い』
ツクヨミの言葉に、俺の頭の奥が痺れてくる。
そうだ。俺すらわからない。俺のことを、俺がわからないから……
『天より降りし力を支えるのは、一人では大きすぎる』
『でも二人ならどうでしょう』
「ふたりなら……」
ツクヨミの足元から、俺に向かって影が伸びる。
大樹を逆さにしたような、無数の触手のような影が俺の影に触れる。
『貴方はただ一言、
「・・・!」
何かを口走った気がする。
でも、唇が
でも、暖かくて優しいものが喉を通っていった。
<ピキ……ピシ……カシャン!!!>
月が割れる。いや、俺の表示枠が。
輝く破片がNo.1と俺を取り囲み、泥に沈むように俺が消えた。
いや、消えたのは姿だけだ。
手を動かしても、そこにない。
見えないのにそこにあるのがわかる。
でも、なんで肘が二つある?
俺の足こんなに長かった、か、首ってこんなに横だったか?
俺の体、一体、どうな、て――
・
・
・
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます