コラテラル・ダメージ
「ツルハシ男より先に騎士を片付ける。かかれ!」
「「「応!!」」」
頭ふたつ分くらい抜き出た騎士さんに、黒衣の男が群がる光景……。
子供番組かなんかで、歌のお兄さんに子どもたちが群がるアレみたいだな。
いや、刃物を持った子供がお兄さんに飛びかかってくる光景とか、控えめに言って地獄だが。実際、黒衣と騎士さんには、それくらいの強さの差がある。
騎士さん、ラレースっていったっけ? かなりの強さだ。
あの格の人は、ダンジョン配信者でもあんまり見ない。
彼が振り回す戦鎚で4,5人の頭が吹き飛ばされ、戦鎚の反動を利用した、盾をつかった裏拳で、さらに2人の黒衣が消し飛ばされた。
暴力的な鋼のワルツに体の半分を消し飛ばされた黒衣の男は、地面に伏せると風で灰が飛ばされるように、黒いチリになって消えていく。
なるほど、あれはハズレってことか。
「強さ自体は騎士が圧倒しているようですが、ネズミの物量もすごいですね」
騎士さんはゴリゴリ黒衣の数を削っているが、本体が分身を続けているようだ。
まるで全体の数が減る様子がない。
それに、騎士さんにもそろそろバテが見え始める。
飛び掛かられた黒衣に刃物を突き立てられることも目立ってきた。
いや、冷静に考えて、96対1でこれだけ健闘するのもおかしいわ。
『クッ、うっとうしい!』
太ももから下が赤く染まって痛々しい。
俺は騎士さんに「あること」を呼びかけることにした。
彼が俺のことを気にかけてここまで来たというのが本当なら、俺の話を聞いてくれるとおもうが……どうだろう。
「ラーレスさんでしたよね!! こっちの合図で防御スキルを使ってください!」
『何をするつもりか分からんが……承知した!』
あれ、案外あっさり受け入れてくれた。
だがこれで作戦の成功率は格段に上がった。
「当チャンネルは、探索者さんに対しては基本的中立の立場です。ですがツルハシを奪おうとしてきたダンジョンネズミは別です。攻撃を行いたいと思います!」
チャンネルの視聴者にそう宣言して、俺はアクションを起こした。
まずは疾走して表示枠を連打して、あるブロックを横一列に並べる。
「氷ブロック」だ。
<ポポポポポポポポポポンッ>
(よし、次は――ッ!)
終点の地面を足を蹴って、Uターンする。
これの次に展開するものがあるからだ。
次に俺が走りながら展開したのが、トラップ地帯で回収した毒矢トラップだ。
これを氷ブロックの後ろになるよう、氷でやったのと同じように、走って地面に敷き詰める。
<ポポポポポポポポポポンッ>
このトラップから発射される毒矢は、ある特性がある。
壁のような障害物にぶつかるまで、延々と飛んでいくというものだ。
そう、例えばこの氷ブロックみたいな障害物に当たるまで、だ。
そしてこれが重要なところだが、障害物に生身は含まれない。
鎧を着た人体程度なら貫通していくのだ。さて――
「ラレースさん、防御バフを使ってくださ……!」
(げ、不味い!)
騎士さんは黒衣の男たちに背中まで取りつかれていた。
彼の返事をまたず、俺は行動を起こす。
ツルハシを握った腕を横に伸ばし、氷ブロックの前を走り抜けた。
すると、ツルハシが氷に触れて、軽妙な音を立てる。
<カララララララララララン♫>
だが美しい音色と裏腹に、俺の背後では毒矢の雨が猛烈に発射されていた。
もし、砂に足を取られてコケでもすれば俺はハリネズミになってお終いだ。
(うおおおお!!! こえええええええええ!!!)
『なるほど、そういうことか……「インビンシブル」!!』
騎士さんも俺の所業に気づいたらしく、何かの防御スキルを使用する。
スキルの効果か、彼が金色の球体に包まれると、バチッと音がして黒衣のネズミたちが弾き飛ばされる。
どうやら短時間の無敵スキルとか、そういう類のものらしいな。
「いったい何が起きた?」そんな感じで明らかに動揺していたネズミたちに、緑色の蛍光色に光る無数の毒矢が襲いかかった!!
ズダダダダダダダダダダダダ!!!
「うげっ」「ぎゃふっ」「あがっ」「うぎっ」
いくつもの短い悲鳴が上がり、100体近く居た影は毒矢で一掃される。
そして黒いチリがスモッグのように舞い上がって消えた後には、砂の上に二つの死体が残されていた。
(くそっ、後の二人には逃げられたか。パワー系とリーダー格の死体がない)
一体どうやって……あっそうか。
ラレースさんが防御スキルを使ったからだ。
本体がラレースさんの後ろに隠れていて、それで矢の雨をしのいだのか!
あー、そこまでは頭になかった。
他人にハチャメチャなリスクを押し付ける割に不完全。
(一部)うまくいったが、本気でおクソあふれる作戦だったな……。
うん、我ながらヒドイと思う。
でも、あのまま戦っていたら危険なことになってたろうし……。
彼ならきっと
僕の心の中は、やっちまった感と罪悪感が入り混じってぐるぐるしている。
今度はこっちに彼の戦鎚が向かってこないよう、祈るしかないな。
俺はそんなことを考えながら罠ブロックを撤去すると、膝をついている騎士に向かって、カッパの薬瓶を片手に走っていった。
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