地道な開拓

「なんか怖くなってきたな……いったん配信は終わらせて、次に行くか」

『了解じゃ。配信を切断するぞい……切断完了じゃ』

「ありがとう、大国主」


 俺は配信を終了させると、泥人広場の先へ進んだ。

 その先にあるトラップ地帯、通称『地獄の花園』のお掃除のためだ。


 お掃除と言っても雑巾がけに来たわけじゃない。

 トラップを無力化して安全を確保する。地道な開拓のために来た。


 ここは『地獄の花園』なんて物騒な名前がつくだけあって、色々とスゴイ。


 床一面に飛び出すやりと丸ノコが配置されていて、さらに壁にはどこからともなく毒矢が飛んでくる穴がいくつもある。


 タチの悪いことに、ここにある罠は踏んだら発動するトリガー式じゃない。

 全ての罠は勝手気まま。自動的に動いている。


 床からは槍がランダムにバシュバシュ出てきて、地獄の円盤、丸ノコが人の命を刈り取る速度で「ちょっと通りますよ」とばかりに通っていく。

 サ◯ケみたいな、アトラクションじみたトラップ地帯なのだ。


 床を踏んだり、何かのセンサーで発動する「トリガー式」の罠なら、シーフ技能を持つやつが『罠解除』のスキルを使えば一時的に無力化出来る。


 だが、このクソたわけ即死アトラクションタイプの罠地帯は違う。


 シーフの『罠解除』スキルが100のMAX、伝説の達人グランドマスターでも、一切無力化出来ない。


 なぜかって? はい、ここ試験に出ますよ~。

 罠解除は、罠を動かないようにする。

 ココにある罠は。その違いのせいだ。


 ダンジョンっていうのは、本当に性格が悪い。

 『罠解除』のスキルが効く罠を用意しておきながら、効かないやつもちゃんと用意する。


「おっと、あれは……」


 俺はトラップエリアの隅っこに、赤く染まったボロ布の塊を見つけた。

 あー……たぶん、泥人地帯を突破した連中かもな?わりと「新鮮」な感じだし。


 引っかかれば、はいサヨナラ。それがこのトラップ地帯だ。

 泥人広場を越えて「コレ」とか、ほんとクソたわけだな。


 なので、理不尽には理不尽をぶつけるとしよう。


 俺はツルハシをブンと振って、目の前の槍が飛び出る床をぶっ叩いた。


<ガンッ!!>


 するとブロックは壁や床と同じように消え、所持品に『槍トラップの床』が追加された。うん、予想通りだ。


 俺はひとつひとつ、槍のブロックを回収していった。しかし――


<ヴイイイィィィィィィィンッ!!!!!!!>

「うぉっ!! 危ねッ!!」


 部屋の中を自由にお散歩している丸ノコに、俺は危うくぶった切られそうになった。


 ふぅ、あっぶね。

 物理的なダイエットに成功するところだったぜ。

 

「槍はともかく、丸ノコはどうしたもんかな?」


 槍の罠は、槍が生えてくるブロック=罠ブロックだ。

 うん、これはわかる。


 しかし、お散歩している丸ノコはどうだ?

 見た感じ、ブロックに依存していない。


 アレはどういうルールで動いているんだろうな?


 俺は部屋の中を行く丸ノコを注意深く観察する。


 丸ノコは円周にギザギザのついた円盤で、円盤の真ん中には穴が開いている。

 この丸ノコはどういうわけか、立った状態で回転して、猛スピードで部屋の中を疾走している。


 床を真っすぐ進んで、壁にぶち当たると、そのまま反射してどっかへ行く。

 謎の動力で延々と回転しながら部屋の中をお散歩しているのだ。


 うん、まるで理屈がわからん。

 神の奇跡としか思えん。……いや、どんな奇跡だよ。


 ツルハシで掘ってやろうかとも思ったが、丸ノコはとても素早い。

 俺の動体視力じゃ、ちょっと自身がないな。

 正攻法(?)もダメとなると……。


 そうだな、分からんなら、分からんなりに対処してみよう。

 うん、こういうのはどうだ?


 俺は床に壁ブロックをコの字に置いて、囲いをつくる。

 丁度上から見るとこんな感じだ。


ヴィイイイイン

 ◎ーー

▢ ▢

▢▢▢ 

 俺



 そんで次に、この部屋に点々とブロックを置く。

 丸ノコが反射する方向を制限して、囲いに追い込むためだ。

 で、うまい具合にヤツを閉じ込めてやれば、もう何も出来ない。


 危険はあるが、ツルハシで殴りにいくよりは安全そうだ。


 よし、丸ノコ封印作戦の始まりといこう。


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