神気


 俺はダンジョンの中で一人、考え事をしていた。

 考えているのは、ダンジョンの壁を砕いたことで新しく取得したスキルの事だ。


 ニ拍手し、表示枠を出すとステータス欄からそのスキルを探す。



【ソフトタッチ】効果:対象の取得時に破壊しない。



 俺が目の前に出している表示枠に書かれた、スキル名と効果。

 ……内容があるようで無い。


「あまり役に立つとは思えないが……一応聞いてみるか」


 表示枠の角を叩き、ダンジョンヘルプ用のアバターを俺は呼び出した。


 俺の信仰は神道系なので、アバターは大国主オオクニヌシだ。

 頭の左右にヒョウタンみたいなのをつけた小人がぽんっと現れる。


 神気は――まだ余裕があるな。


 この世界に「ダンジョン」が現れてからというもの、新たな力、「神気」が発生した。いや、確認されたといったほうが正しいか。


 まあ「神気」といっても、難しいことはない。

 ゲームでよくあるMP、魔力みたいなものだ。


 だがそのMPの持ち主が問題だった。


 何で魔力やMPじゃなくて「神気」なんて呼び方なのか?

 MPの持ち主がだったからだ。


 唐突に世界中にダンジョンが現れたのと同時に、世界中の神社仏閣教会に本物の神様が現れた。それどころか、神様は俺たちに祈りや捧げ物と引き換えに、奇跡、神の力をお分けしてくださったのだ。


 そう、だから「神気」だ。


 ま、神様が本当に現れたってなもんで、世界の西と東と真ん中で、当然のように第三次世界大戦が起きたわけだが……。

 まあ、それはいいとして。(良くはないが)


 俺たちは現実に現れた神様のために働くことで、電気と一緒に神気を使って生活している。これが中々便利なもんで、電気のない所、つまりダンジョン内でも神様にお祈りを捧げていれば、外と同じことが出来るのだ。


 もっと簡単に説明すると……そうだな。

 神様にお供物をすると、神様パワーでテレビやスマホ、色々な物が使える。

 言ってみりゃ神様サブスクだな。


 今、俺が目の前に展開している「表示枠」もそう。

 こいつは言ってみれば神様仕様のスマホみたいなものだ。


 ネット掲示板や動画サイトも使えるし、スマホと同じアプリも入れられる。


 そしてダンジョン内ではマップを開いたり、スキルやステータスの管理もできる。スマホと一つだけ違うのは、お供物そなえものが必要ってことだ。


大国主オオクニヌシ、このスキルの対象の取得時に破壊しないとはどういう意味だ? 説明してくれ」


『うむ、対象に取らないということは、選択しないということじゃ。取得の効果が優先されるために破壊されないということじゃ』


「……説明になってない」


 まあ、こういうこともある。

 

「ヘルプがあてにならないなら、確かめるしか無いな」


 壁を掘って取得したスキルなら、採掘に関係しているのは間違いない。

 こうなったら、ツルハシを手当たり次第に振り下ろして、検証したほうが早い。


「よし、どっか適当な狩り場にいってみるか」


 俺はツルハシを振るい、目の前の壁を破壊する。


 今いる場所からなら、目の前の壁を破壊して直進したほうが早く着くからだ。

 だが――


「……んッ?!」


 砕いたはずのダンジョンの壁は、残骸を欠片も残さず、消えた。

 目の前の空間はぽっかり四角く切り取られている。


「……!!!!!!」


 俺は慌てて表示枠のインベントリ、自分の持ち物を確認する。


「まさか……まさかまさか! 嘘だろおい……ッ!」


 俺の持ち物リスト、そこには間違いなく『ダンジョンの壁×1』があった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る