第3話
歯切れが悪いのはおそらくあの時の男が今俺が見ているにネットニュースの人物だと思うからだ。
的場は初めて見かけた日の翌々日、学校近くの橋の下で扼殺され遺体となって見つかった。
遺体は現場近くを縄張りとするホームレスが見つけたとのことだ。
「早朝というよりまだ夜の時間に身なりのいい若者がこんなところで珍しい、最初は酔っ払いかと思ったが服装に乱れもなく酒の匂いもしない。まさかこの年で俺らの仲間入りか? そう思って声をかけようと思ったら目をかっぴらいて首には細い紐のようなもので絞められたのであろう真っ赤な跡が残っててよ。もう大慌てよ」
川沿いの草むら付近のコンクリートに頭を打ち付けたのか血の跡も見られる。
財布の中には現金で四万円とカード類が残っていたがスマホは見つからない。最初持っていなかったか、犯人が持って行ったか。
「いや、まさかな……」
確かに二人の様子は和やかな雰囲気というわけでは無かった。でも瀬川はなかなかの成功者だ、まさか殺人なんて。いや成功者だからなのか?
さすがに直接瀬川に聞くのも躊躇ってしまう。牽制のつもりで瀬川に連絡を入れるが今日は撮影で学校に行けないとのことだった。
撮影で学校に遅れてくるということはよくあるし、結果的に来ないことも珍しくはない。だが行けないと断言するのは珍しい。
目の前の出来事のせいで瀬川の何気ない行為が全て怪しく見えてしまう。
直接聞けば「馬鹿言うなよ、ミチルらしくもない。なんで俺が殺すんだよ」といって笑い飛ばすに違いない。
そう直接聞けさえすれば。
講義が終わると今日は的場の遺体が見つかった橋まで歩いてみることにする。素人に何かわかるとは思ってない。ただ落ち着かないのだ。
大学と最寄り駅までの直線上にあるわけでは無いので回り道をすることになる。
人の数が多い。いつもならこの通りにこれほどの数の学生がいるはずがない。
「野次馬か」
そう呟いてみるが自分のその一人だと思うと急に踵を返したくなる。
いざ橋に着いてみると思ったより野次馬は多くない。それもそのはずで警察が設置したであろうKEEPOUTのテープで道路から河川敷に降りることが出来ない。
車二台がようやく通れる程度の狭い橋の上から跡地と見られる所を検討付けて眺めること以外することがない。
マスコミが来てるかとも思ったがこの時間だともう撤退したのか、それとも最初から来ていないのかそれらしき姿はどこにも見えない。
橋の付近には民家とよくわからないこじんまりとした事務所があるが他に目出った建物は特にない。肝心の川は水量が少なく勢いもない。成人男性一人を流し運ぶのは無理に見える。それに川沿いはコンクリートで舗装されており視界も開けている。もう少し歩けばもっと大きな川で視界も鬱蒼とした茂みに阻まれている。
付近に友人が住んでるでもないとこんなところ通り過ぎる程度で足を止めるとは思えない。
また来た道を引き返し学校まで戻るのもこのまま駅まで歩くのも億劫に感じ、橋を渡ったところに見えるコンビニの喫煙スペースのベンチに腰を下ろし休憩をする。
喫煙の習慣はないが誰もいないし問題ないだろう。事件の顛末を整理しようかと思ったが情報も少なく、隣の灰皿からする臭いに意識を取られ考えがまとまらない。
「というか試験勉強しなきゃな」
不謹慎かもしれないが知らない人間の死より自分の単位のほうが大事だ。
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