アトラの経緯②


「彼は私の所為で死んだ」


アトラ━━━師匠はそう溢す。


どういうことだろうか?


仲間の男は師匠の助けが間に合わなくて死んだってことか?

いや違うか…師匠が原因で殺された。私の所為とは、たぶんそう言うことだろう。


しかし、師匠はここ黒龍の墓場に1ヶ月半の間滞在していた。男が殺されたのは師匠がいなくなってから1ヶ月と少し経った後だ。

となると…師匠が原因と言うのなら、都市をでる前に師匠が既に目をつけられていたのか?


あ、そう言えば出会ったとき瀕死だったな。あの時既に…


「師匠、その組織ってのに心当たりはあるのか?」

「ああ、実は…お前と出会った日、私も第五研究所にいたんだ、お前のことは外から見ていた」


「え、」


驚いた。いや、なんであの日空から落ちてきたのか聞かなかった俺も悪いが、まさか出会う前から監視されてたとは…ストーカーやん、異世界こぇー。


「お前が室長の咲羽メアと対峙した時に…。その…おまぇ…を…たすけ…に…ぃ…ぅ…と…」

「え?なに?最後声小さくて聞こえな━グフッ!?」


なんで殴られたし。

自分で振った重い話なんだから真面目にやろうよ師匠。


「色々あって咲羽メアと戦った。色々あって死にかけた。負けてない、引き分けだ」

「あ、はい、うん」


なんか一気にはしょったでこの人。


それにしても師匠がメアと戦ってたとは…。

あれ?じゃああの瀕死の重症を師匠に与えたのも?

え…メアめっちゃ強いやん。俺、よく生きて脱出できたな…


「室長の咲羽は、魔眼や天眼への優位スキルを保持してる可能性が高い。迂闊に緑煌眼を使えば逆手にとられる。お前も気を付けるんだな」

「ふむ」


なるほど、師匠はそれでやられたのか。

まぁ気を付ける前にもう会いたくないのが心情ではあるけど…


「それで、組織って…もしかして第五なのか?それでなんで仲間が殺されたのが師匠の所為になるんだ?」


「それは…研究所を襲った私を見つけるためだろう。仮面と緑煌眼…それと翼人。この情報を元に王国の暗部が動いたそうだ」


「それ仲間の男は襲撃に関係ないのでは?」

「そうだ、襲撃には…な」


と、なると、どこかで繋がりが漏れたのだろうか?


「お待ちを、そこからは私も説明に参加させて下さい」

低い男の声が訓練場に響く。

振り向くとそこにはお茶を乗せたお盆を持つガチムチな男がいた。



■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■



えー、ややこしい。

俺はそう思いながら師匠を見ると「ややこしいやつが…」と小さく呟いていた。

いかんいかん、ダメだな。思考パターンを変えないと。このままだと俺は誰かと似て理不尽な人間になるかもしれん。


「えっと、グリナスタは何か知ってるのか?」

とりあえず聞いてみる。


グリナスタはお茶を俺と師匠の前に置き、自身は立ったまま口を開く。


「ええ、恐らく存じております。その前に1つ確認しても?」

俺ではなく、そう師匠に問うた。


「ん?ああ、答えられることならな」


「仮面を付けた天眼の翼人は貴女で間違いないでしょうか?」


「………。」


師匠は答えなかった。

答え自体は先ほど話した内容だが、グリナスタはまだ知らないのだ。


と言うかお前なんで普通に馴染んでんの?俺にはそっちの方が事件なんだが。まぁいいか、敵意はないしそれは後だ。


「お答え頂けませんか…いえ、私の立場を考えればそれは仕方のないことですね。失礼致しました。」


グリナスタは苦笑を交えつつ師匠に謝罪した。


「ですが、私の知る範囲で全てお話させていただきます。それが貴女の、延いてはキューロさんのお役に立つのであれば是非とも!」


あれ?師匠もしかして冷房も持ってきた?なんか冷えるね今日。


「うんわかったから…説明を頼む」


俺は頭の痛さを覚えながらグリナスタに先を促した。


では、と前置きしグリナスタは話を始めた。


「私たち第五、と言うより室長はあの騒動の後、仮面の翼人を捕らえ第五へ連れてくるように、私と側近のスウェイに指示を出していました」

「ほぅ」

師匠の目付きが鋭くなる。


「そして手がかりとして、第五での騒動の日に翼人の少女が脱走したのですが、途中手助けに介入した男に関わりがあるのでは、と目星を付けたそうです」


あの女の子だ!俺はあの廃棄翼人と呼ばれた幼い女の子を思い出した。って、俺とは別の誰かが手助けをした?もしかして…

チラリと師匠を見やる。表情は険しいが、まだ話の腰を折る気はないようだ。


「それでなぜ仮面の翼人とその男に関係があると思ったのだ?…いや待て、そうか……タイミングが…悪かったのか…」


脱走に襲撃、そして脱走の手助け。全て同じ日に起こったのだ。関連性を疑わない方がおかしい。

師匠は頭を抱えうつむいた。


グリナスタはそれを気にせず続ける。


「結局私とスウェイは、捜索の途中で暗部が引き継ぐからもういいと言われ、研究所の仕事に復帰しましたが…室長のメアは暗部に顔が利くため捜索に同行していました」


「やはりあの女が……くそっ切り裂き魔女めっ…」

師匠は一人でブツブツと何かを言っている。


まさか俺が研究所を脱出した日に、色んな所で第五を巡って事件が起きてたことに驚いた。

あ、そうだあの女の子、無事だったかな?

そう思いグリナスタへ聞いた。


「それでグリナスタ、あの時の女の子は無事に逃げれたんだろうか?」


聞いてしまった。


グリナスタはとても居心地が悪そうだ。何故か汗をかき出した。なかなか答えようとしない。


ゾワリ…

俺の中に黒い感情が広がっていく。


おい…頼むグリナスタ…逃げたんだよな?あの女の子は?答えてくれ。

心臓の音がやけに大きく遅く聞こえる。

ドックン…ドックン…

うるさいなクソっ。


「わ、私が…捕まえ━━━」


気が付くと俺はグリナスタに殴り掛かっていた。


吹っ飛ぶガチムチ。

俺は横たわる筋肉だるまに馬乗りになった。


殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る。


驚いた師匠が後ろから抱きついて止めに入った。女性に抱きつかれたのはいつ以来だろうか?俺にはご褒美だろうな。それも美人となればなおさらだろう。

だけどそんなことはどうでもいい。許せなかった。


第五生態研究所あんな場所にあの小さい女の子を連れ戻したこいつが許せなかった。

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