師匠は口の悪い女の子
アトラ、もとい師匠に命名してもらった後、俺は傷を治してもらっていた。
まぁ元々そういう話だった訳だが、治療している師匠はとてつもなく嫌そうだ。
「手の一本ぐらい無くても貴様の弱さは変わらんだろうに、面倒だ。」
とぶつくさ言いながらリバースを掛けている。
確かに弱いし、利き手じゃないけどな、約束なんだからちゃんとやってください。
師匠は若い。まぁ今の俺はそれ以上に見た目若いんだが、精神は39だ。
師匠、アトラの年齢は20歳前後と言ったところだろうか。
俺は晩婚だったけど、早くに結婚してたらこれぐらいの子供がいてもおかしくなかったわけだ。
そんな女の子が師匠。なんか複雑…
ってかそもそも俺弟子になるなんて言ってないけどな。
まぁいいもう師匠って言ってしまったし。
それにしても…
師匠のリバースは俺のリバースと違いとてつもなく復元が遅い。最初はあまりに嫌すぎて手を抜いているのかとも思ったが、師匠の顔は真剣だ。なんなら額に汗まで滲んできている。
そんな師匠の顔を見ていると
「おい糞虫あまり私の顔を見るな。私はリバースは得意じゃないんだ気が散る」
また糞虫呼ばわりされた。自分で命名したんだからちゃんと名前を呼んでほしい。理不尽だ。
でもそうか、メアも言っていたが翼人によってルフトの力は差が出るものなのだろう。やはり俺のリバースはかなり優れているのかもしれない。
リバースが自分にも使えれば一番楽だったんだけどな…
リバースは何故か自分自身には使えない。メア曰く、自分の頭の後ろを自分で見るようなものらしい。
よくわからんが無理なのは伝わった。
「ふぅ…終わったぞ、もう痛くはない筈だ」
「ああ、ありがとう師匠。助かった」
手を見てみる。確かにもう痛くはない、痛くはないのだが…火傷痕がかなり目立っている。明らかに色がおかしい。本当に得意ではないようだ。
そんな師匠ではあるが、全身の傷もリバースで治してくれた。なんだかんだ律儀だ。謝意を述べたら「手間のかかる糞虫だ」と吐き捨てられた。きっと照れ隠しだ。そう思おう
「それで、師匠これからなんだが…」
「わかっている。ここで少し待て」
これからの話をしたかったんだが、師匠は何か通信端末のようなものを取り出して、林の奥へと歩いていった。
どこかと連絡を取り合うのだろうか。
それにしても…
「殺されるわけにはいかんよな…」
早く前の世界に帰りたい。家族が心配だ。名前を思い出せないのも気になる。と言うか胸騒ぎがして不安になる。
2年か、長いな…でも殺されたら帰る帰らないとかそんな話じゃなくなる。
前までは自分が辛いから帰りたかった、でも今は家族が心配で帰りたい。
師匠はその辺、協力などしてくれないだろう。二年間は逃げてもダメ、死んでもダメ…自分の力でどうにかするしかない。
「2年で強くなって師匠を返り討ちにして帰り方を探すしかないの、か…」
たぶん他に道はない。急がば回れだ。
でも研究所の時とは違う。あの時は逃げ道を塞がれ、何もできずにただいたぶられるだけの環境だった。
これからは師匠より強くならなければ殺される環境だ。
あれ?なんかそんなに環境良くなってなくね?
…モブの俺に異世界は厳しい環境なのか。
そんながっかり思考を巡らせていると師匠が戻って来た。
「待たせた。すぐに飛んで移動するぞ」
「知ってると思うが俺は飛べないんだが…」
こらこら美人がそんな顔しない。
「チッ、待ってろ」
そう言って羽のストレージから大きい布を取り出した。
「師匠、これは?」
「ただの風呂敷だが?」
「……」
「早く乗れ」
これで吊るして運ぶつもりか。そうなのか。恐怖だ。落とされそうで怖すぎる。
とは言え他の方法は抱っことか股がるぐらいしかない。男が女の子にしてもらうのはさすがに絵面が悪いよな。ってか師匠は絶対しないだろう。
俺は渋々風呂敷の上に座ったのだった。
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「いでっ!ちょっ、ししょ━ぐふぅっ!」
俺は今、木や枝にゴスガサ叩きつけられている。なんでかって?それは今飛んでるからだ。森の中を━━
「煩いぞ糞虫!もう少しいけば魔導兵の哨戒区域から出られる!そこからは上空を移動だ!我慢して根性見せろ!」
「わざとあて、あがっ!わざとあててるだろ!!」
「なにか言ったかー!?」
ぐっ、お決まりの聞き流ししやがってこの野郎。
俺は風呂敷の中で膝を抱いてできるだけ小さくなるように努めた。
━━━━1時間後。
「よく頑張ったな。死ねば良かったのに」
地獄の特訓(?)が漸く終わり、俺は師匠に労いの言葉(?)を貰った。
「死んだらあんたも困るでしょう…」
俺が打たれ強くなったのか師匠の腕がいいのか、意外にも全身打撲程度ですんだ。
まぁグリナスタに比べるとまだマシだ。
「今日はここでキャンプする。手伝え」
「キャンプ?すまん師匠。俺はこの世界のことあんまり知らないんだが、どこまでいくつもりなんだ?」
「知らないなら聞くな糞虫。と言いたいがまぁいい、これから生活する場所は覚えておく必要もあるしな」
そう言って師匠はさっきの通信端末を取り出した。
形は円柱形の棒、太いボールペンみたいな形なんだが巻物みたいに映像が横から出てくる。画面がないのに映像が写る不思議アイテムだ。
師匠が操作すると画面が黒板の半分ぐらいまででかくなった。どうやら世界地図のようだ。
前の世界にはなかったテクノロジーちょっとカッコいいやんけ
「私たちが今いる国はわかるな?」
「ああ、アースシュミラだよな?確か王国だったか?」
「ふん、異世界糞虫の癖によく知っていたな」
なんだよ異世界糞虫て、どんだけ糞虫気に入ってんだよ。で、正解してもディスるのねあんた…。
「で、結局どこ行くんだ?」
「ふん。私たちがさっきまでいた都市がここ、今いる場所がここだ」
そう言って地図にマーカーを付ける。そして、目的地であろう所まで指を滑らせて印を付け告げる。
「向かうのはこの森。”黒龍の墓場”だ」
「…黒・・龍?」
え、龍いるの?聞いてないよ?
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