脱出③

 ━━━しゅぅぅぅ。


 暗い部屋の中。ただれた皮膚が静かに音をならしながら治癒されていく。

 床には空になった小さな小瓶が一つ。


 少年はメアの思い出の品と引き換えに、辛くも一命を取り留めた。


 因みに、”室長室”の隣の部屋は”保管室”であり、各種ポーションがそれなりの数保管されていたりする。

 そんなことなど知るよしもない少年は現在気を失っている最中だ。


 怪我だけではなく体力も限界を越えていたため無理もないのだが、原因はそれだけではなかった。

 少年が服用した☆はじめてのぽーしょん☆は使用者の自己治癒能力向上に全フリで調合されており、この世界で最もポピュラーな『半分が優しさでできている』タイプのポーションに比べて、使用者への体力的な負担が大きすぎると言うデメリットがあった。


 結果、体力が尽き爆睡した。






 ━━━6時間後。



「ふぁ~あ、生きてる、助かったぁ」


 目覚めると、目の前にはグリナスタとメアが仁王立ちしていた。

 …と言うこともなく、目覚めると外はもう黄昏時だった。


(助かったけど、メアには悪いことをしたな…まぁ敵だけど)

 そんなことを思いながら部屋に置かれた時計を見ると、午後5時を過ぎたところだ。


「うっわ!かなり時間経ってる」


 しかし天井と床を破壊し、脱走と言った騒ぎを起こしたにも関わらず、建物内はやけに静かだ。この部屋に誰かが入ってきたような形跡もない。

(さすがに自分達のボスの部屋にいるとは思わんか…)

 もしかしたら外を探しているのかもしれない。それならば好都合だ。


 再び部屋を物色する。先ほどは意識が朦朧としていたこともあり、色々と見逃していた可能性もある。

建物から逃げ出す前に役に立ちそうなものがあれば是非貰っておきたい。


「慰謝料代わりだ…悪く思うなよ」


 一通り調べ、唯一使えそうな『翼人の生態』『世界の文明と歴史』『世界地図』の3つの本を見つけた。


 この世界にきてまだ10日しか経っていない。これらの本は今後必要な知識としてかなり有用だろう。


「まぁこの部屋ならこんなものかな。あとは、服なんだが…」

 チラッと私物ゾーンのクローゼットを見る。


 さっきクローゼットを開けたとき、かなりプライベートな物と部屋着が何着か置いてあった。

 部屋着は上下色違いのスウェットで大きさはレディースのMサイズ。間違いなく小さいだろうが、袖を捲って着れば見た目チンピラぐらいでやり過ごせるかもしれない。何より今の姿よりはマシだろう。


 ただ、メアにここを開けたことがバレる。服がないこともすぐに気付かれるだろう。

 他の部屋を探索することも考えたが、何せ長時間居座りすぎた。これ以上時間の掛かる探索はできればしたくない。


「はぁ…バレたら絶対殺されるな…」

 そう思いながらも俺はクローゼットの取っ手に手を掛けた。




□■□■□■□■□■□■□■□




 side

 咲羽メア



 今日は最悪だった。

 朝から廃棄翼人の女の子と今後の打ち合わせをしていたら、突然泣きわめいて逃げちゃうんだから。


 追いかけていったら、あの役立たずのグリナスタが廃棄翼人の女の子を説得してるみたい。相変わらず子供に甘いわね。子供でも翼人、そんなこともわからないから役立たずなのよ。


 帰るって言ってきかないから、まぁ私が捕縛してもいいんだけど、ここは敢えてグリナスタに任せようと思う。いつまでも役立たずのままでいられては困るし、これも部下教育の一環よね。

 と、思ったんだけど…


 あの期待はずれの異世界人がしゃしゃり出てきたし…。

 はぁ…自分の能力の低さわかってるの?能力値10よ?10、馬鹿すぎて頭が痛い。

 しかもちょっと調子のってるわね。


「ふふ、昨日まであんなに怯えてた子がずいぶんと態度がでかくなったものね」


 馬鹿すぎて哀れだから、異世界人の思考分析のために少しだけ話し聞いてあげようかしら?


「それで?なにかしら」



 は?何のためにここに連れて来たか?

 やっぱり馬鹿だわ…そんなこともわからないなんて。ここは研究所。研究のために決まってるでしょ。


 あー!もう!教えたことも理解してないし!ほんとイライラするわね!

 脳みそミジンコなの!?


 まだ質問する気?ってかあなた以上に私の方が翼人のこと知ってるんだけど?

 ほんとこいつムカつくわね。

 もういいわ、グリナスタに昨日の続きでもしてもらいましょう。

まぁ死んだところでこんなゴミの代わりなんていくらでもいるしね。



 って、は?

 なによそれ!!あり得ないんだけど!!



 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 いったぁ~…結構な高さから落ちたし…。ってかリバースにあんな破壊能力なんてあるはずないんだけど?いったい何なの?

 って!なにこれ!?固まってきてる!?

 もしかして…これセメントなの?スプリンクラーの水を吸って固まってきてるーー!!誰かーー!!





 …なんとか顔は出せたけど、セメントが完全に固まって身動きとれないわ。

 とりあえず警備兵にあのクソ異世界人に着けた首輪のエマージェンシー機能の発信を指示しないと。それと、このセメントもどうにかしなきゃ。


 もう!セメントが固まって髪の毛ガチガチなんですけど!!は?全部切る?殺すわよ?こんだけ伸ばすのにどれくらいの期間掛かったとおもっているのよ!!

 研究所に収容されてる翼人全員連れてきなさい!髪の毛一本一本にリバースかけてもらうわ!



 ってもう!今度はなに!?え、廃棄翼人の少女が外に逃げた?

 それは不味いわ!グリナスタ!あなたもうすぐ抜け出せそうだから、出たら他の警備兵と一緒に捜索しにいきなさい!!きっとあの異世界人も一緒にいるはずよ!絶対捕まえるのよ!!


 はぁ…結局髪の毛からセメントとるのに6時間以上掛かったし…もう疲れたわ。

 グリナスタはまだ帰ってこないわね。子供でもさすが翼人っていったところかしら。

 でもあのリバースしか取り柄のないクソ異世界人。首輪のエマージェンシー機能発動したのに何の情報も入ってこないなんて…街中で電流が流れようものならすぐ人目に付くはず。ましてや近距離レーダーにも首輪の反応がでないってことは…。

 きっと、あの異常なリバースね。確信したわ。まずそれぐらいしかできないだろうし、でもよく爆発しなかったわね。エマージェンシー中に天力が使われたら即座に爆発するはずなんだけど…


 はぁ…もう疲れてヘトヘトだわ。髪も服もめちゃくちゃだし…とりあえず部屋でシャワー浴びてチョコにとろろ芋掛けて食べよう。それからまた考えるとするわ。




 ━━━━━ガチャ。


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