08 異世界旅行日記 #2

「貴様!人族か?」

そいつは砦(とりで)の前に突然現れた。

ここは魔族側の最終防衛ラインである。


「観光に来ました。

 中に入りたいんすけど、扉、開けてもらっていいっすか?」

無知なのか、それとも、よほどの自信家か。

中に入れろと言う。ここは魔族領だぞ。バカを通り越してる。

だが、人族は賢い。作戦の可能性が高い。

部隊長は見張り場から周辺に目を凝らす。


「皆さんに危害を加えるつもりはありません。

 お約束します。」

両手を左右に広げ、丸腰であることをアピールする。

ますます訳わからん。ここは最前線だぞ。

人間どもと戦い続けた500名の精鋭がそろっている。

どうしてこの人間は自分に害が加わらないと安心できるのだろうか。

武器を所持せず、笑顔で魔族軍の前に現れた人族を部隊長は初めて目にした。


これが陽動作戦(ようどうさくせん)だろうと構いはしない。

人族を見つけ次第、一人残らず始末するまでのこと。


♪ギィーー、ギィーー


丸太の扉が徐々に上へ上へと上昇する。

入り口にいる魔族兵、20体がしびれを切らしてるのが伺える。

部隊長はニヤリと笑みを浮かべ言葉を投げかける。


「お望み通り道を開けてやろう。」

「あざーす。」

人間は笑顔で深々とお辞儀をした。

襲撃の気配がない。本当にこいつは1人でノコノコと現れたというのか。

想像の斜め上をいかれた感じだ。


「気性の荒い連中が出迎える。

 その笑顔、いつまで持つのかが楽しみだ。」


◇◇◇ 10分後 ◇◇◇


「旦那、勇者なら先に言ってくださいよ。」

「それ昔の話しね。今は観光客だから。」


強気だった部隊長は態度を180度変え、宿敵である人間に対してへりくだっていた。

というのも、20体の兵は魔法によって一瞬にして拘束され、全員が無力化されたからである。

そして、部隊長に魔法の首輪が掛けられた。

その首輪は、この観光客に対して危害を加えると首が絞まるというもの。

先ほど1度死しかけており、温情で助けてもらい今に至る。


「話し合えば、魔族とも分かちあえるんだね。」

ワシに首輪を掛けておいて話し合いも糞もあるかぁ!


「ところで、どちらに向かわれますぅ?」

「この先に真っ赤な湖があるよね?そこ行きたい。」

「よくご存じで。」


元勇者は魔族領に入れて上機嫌のご様子。

「これって、もしかして世界平和への第1歩じゃね?」

ーーー つづく ーーー

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