03 ゲーム転生

「みなさん、ご心配されてますよ。」

早くパーティー会場へ戻った方がいいですよ、という専属 侍女(じじょ)の気遣い。

なんせ王宮でのパーティー、こんな部屋で引きこもってる場合ではない。


オレは前世の記憶を持つ転生者だ。

驚くことに、この世界は前世で一番やり込んだ美少女恋愛シミュレーションにそっくりな世界である。

中世ヨーロッパ風が舞台で、公爵家の三男が、ヒロイン達を恋に落とすマルチエンディングゲームだ。

まさにオレは、その主人公としてこの世界で生を享(う)けたのである。

驚く事はまだある。ゲームと同じような言動を取るとこの世界でも同じ結果となることだ。

ならばと数あるヒロインの中で散々迷った挙句、オレが取った選択肢はメインルートの第二王女攻略。

既に王様には気に入られ、王女はオレに好意を持たれてる。

今日、この会場で彼女にプロポーズすればハッピーエンドとなる。


だが本当にそれでいいのだろうか?

躊躇(ちゅうちょ)してしまったオレはこの部屋へと逃げ込んだ訳だが。


「私と結婚してくれないか?」

「大変嬉しい申し出ではありますが、ダメですよ。

 わたくしで練習なさっては!

 その言葉は王女様にお使いください。」


流石オレの侍女だ。これからプロポーズすることを察してたか。

関わる人達の性格や言動、起こるイベントは全てゲームと同じだ。

オレを除いては。


第二王女との結婚後は1つ領地を任されることとなる。

正直まっぴら御免だ。オレはゲームの主人公と違って正義感や野心がない。

村人をまとめたり、他の貴族と交流したりだとか糞面倒臭い。

というかリーダー的な存在になりたくない。


大体、オレは本当に王女が好きなのか。

これがマリッジブルーってやつか。男でもなるんだな。


冗談で侍女に結婚しようと口走ったが、本当に嫁にするのもありだな。

ゲーム内ではヒロインではなくモブの1人ではあったが、

こうして月日を共にして四六時中一緒にいるとゲームと違って情が湧いて来る。


彼女はいつもオレに笑顔を見せて来る。

裏で泣いているときでも、絶対にオレの前ではそれを見せない。

辛い時は励ましてくれるし、常にオレの味方についてくれる。

ずーっと側に居て欲しい存在だ。


もしかして、これが本当の恋ってやつなのか。


「私のこと好きか?」

「はい、大好きで御座います。」


「具体的にどこが好きなのか?」

「旦那様は身分に関係なく、全てのお方に対してお優しいところです。

 そして、使用人の仕事を手伝ってくれますし、

 時には失敗をかばってくれたりと感謝してもしきれません。

 一生お側でお仕えしたいと心から願っております。」


凄く良い子なんだよな。

容姿は特に美少女という訳でもなく普通の子なんだけど、性格がいい。

長時間無言でも一緒に居られるし。

もし駆け落ちでもしたら、この侍女は間違いなくオレをたぶらかした罪に問われ死罪となるだろう。

隣国へ逃げ込めばひっそりと暮らせるのか。

確定している未来より、分からない未来の方がきっと楽しいに違いない。


「ちょっとついて来てくれ。」

さて、人生最大の選択ミスをするか。

ーーー 完 ーーー

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