二回目の異世界は悪の正義として

狐火キュウ

第1話 別の世界へ

 精巧な夢を見ていた。 なぜ夢といえたかといえばそれが日本ではなかったからだ。 

 そからは、怒号と鉄と鉄のぶつかり合う音が鳴り響いていた。 そこから、戦場なのだろうと推察した。 

 

「どうして、そっちの味方をしている!」


 夢の俺が目の前に対峙している男を見る。 目の前の男は俺と同じ日本人だった。

 剣を構え、俺の一つ一つの動きを見逃さないようにと見ている。 


「俺がどちらの味方をしようとどうでもいいだろ?」

「魔族は人間に仇名す存在だ!」

「それだけで決めつけられてもな~」


 やれやれといったように剣を構える。 それを見た男は俺が追えるギリギリのスピードで突っ込んでくる。

 それを、差し込むように剣を突き出していなした。

 ズザザッと急ブレーキをかけながら止まり、くずれた態勢をすぐさま立て直していた。


「どうした? 人族の勇者よ!」


 そう俺の口から声が発せられて俺は覚醒した。


「最悪の寝覚めだ」

 

 ベットから体を起こして、スマホで時間を確認する。

 画面が真っ暗のスマホに赤く光る左目が映し出されていた。 おれは内心やっぱりかと思いながら左目を何回か瞬かせる。 もう一度、左目を見るといつもどおりの黒目に戻っていた。

 

「あれが起こる未来か……」


 俺の左目は半年前に連れていかれた異世界で魔眼化していて、名を『未来視の魔眼』と呼ばれていた。 俺からすれば、適当な時に適当な未来を見せてくる困った眼である。 ちなみに、時間はセットしていたアラームの5分前だった。

 俺が寝室からリビングに出ると甘い香りが鼻をくすぐる。

 この匂いからここ最近俺がハマっているハチミツを塗ったトーストだと分かった。


「おはようございます、海都かいと様」

「様付けはやめろって言ってるだろ? ルリ」

 

 

 俺に気がついた同居人であるルリがミディアムヘアの黒髪と頭から生えた特徴的である猫耳が左右に揺れていた。

 俺ーー柊海都ひいらぎかいととルリは半年前に連れていかれた異世界で出会い向こうの世界で相棒のように行動を共にしていた。

 俺がこっちの世界に戻ってくるときに俺と一緒についてくることを選んだ。

 言語に関しては魔道具の力を借りてどうにかした。


「いつも朝早くからありがとうな」

「いえ、私は海斗様の役に立てればいいので」

「本当にありがとうな」


 そう言って俺はルリの頭を優しく撫でた。 ルリは嬉しそうな表情をしながら撫でられ続けていた。 ルリのしっぽは嬉しそうにゆらゆらと揺れていた。 


「ルリを撫でるのはこのぐらいにして、冷める前に食べようか」

「あっ……はい」


 少し名残惜しそうに自分の頭の上にあった手を眺めながらルリは返事をした。

 それから、時間に余裕を持って学校に向かった。 少し早いかもしれないが、あいつはもう来ているだろう。


「ちゃんと隠しとけよ」

「もちろんです」

 

 玄関で耳としっぽが出ているルリにそう言うとルリは魔術を使った。

 ルリの耳としっぽは綺麗に消えていた。


♦︎


 俺とルリは学年が違うため、昇降口で別れたルリと俺は、自身の教室に向かう。

 教室では、俺のお目当ての人物が席に座って本を読んでいた。 中身はライトノベルだろう。


「おはよう」

「おはよう、海都」


 そう返事を返してきたの九條秀一くじようしゅういち、俺の数少ない友人だ。

 そして、一緒に異世界に連れていかれた仲間のうちの一人だ。 もう一人連れていかれた仲間がいるが、そいつと秀一だけで事足りていたと思っている。


「今日もルリさんとアツアツだな」

「知って癖に。 んで、なんか面倒ごとでもあるのか?」


 目の下に隈が出来始めている秀一の目の前の椅子に座ってそう言った。

 俺の言葉に秀一は答えにくそうに頭を掻きながら俺を見る。


「答えなきゃダメ?」

「別に答えなくてもいいけど、そうなったら美月みずきに聞くだけだけど?」

「だよねー」


 ゴンッと頭を机にぶつけながら秀一はボヤいた。

 美月――水瀬美月みなせみずきが先ほど上げたもう一人の仲間である。


「神隠しが起こってる」

「は? 警察に言えよ」

「それがさー、認知されてないんだわ」

「あー、そういうこと……」


 俺は呆れながら頬杖をつく。 確かにこれは俺たち向けの案件になるなぁ。 

 しかも、一番面倒くさいタイプの問題かもしれん。

 秀一と美月は異世界で魔術が使えるようになったため、魔術協会と呼ばれるドイツに本部を置くところに所属している。 そこからたまに依頼が来る。 今回もそのパターンの用だ。

 魔術協会について俺たちは初めものすごく驚いた。 半年前まで俺たちは魔術のま文字もしらなったが元から存在はしていたらしい。 中世までは魔術師は歴史の表にいたが、魔女狩りが行われ始め、多くの同胞と無関係の一般人を巻き込んだことで魔術は秘匿され歴史から魔術師が消えたらしい。

 それを教会で一緒に聞いていたが、俺は魔術協会には入らなかった。 ルリに関しての話で教会内で暴れたことが原因であるが。

 それよりも気になることがある。


「なんであのジジイどもは自分たちで解決しないんだ?」

「興味がないからって、嫌になるよね」


 肩をすくめながら秀一はそう言った。

 基本的に協会にいるジジイどもは自分の研究を犯されない限りはほとんどが不干渉である。 実際、面倒ごとの多くは秀一や美月のような名門魔術師ではない人や比較的若い魔術師にお鉢がわたってくる。


「それじゃあ、俺も調べてみるわ」

「それは助かる」


 そう言って俺は自分の席に戻る。 席に着くとタイミングよく朝のホームルームの予鈴が鳴った。


♦︎


 美月は普段使われていない教室で一人でご飯を食べている。 本人からは一人で食べる方が楽だからだそうだ。 俺は美月のあまり人の目の前では言えない趣味が原因だと思ってはいる。

 美月は大和撫子という言葉がよく似合う。 俺も初めて美月と出会った時は目を奪われてしまったが今では仲の良い男友達の一人だと思っている。 秀一はそうだとは思っていないみたいだが。


「美月、今回の件で話があるんだが」

「んー? ほんはいのへん?《今回の件?》」

「口に物詰め込んで喋るな」


 頬にパンパンに食べ物を詰め込んで喋る美月の頭に軽めのチョップを入れた。

 わざとらしく頭を押さえながら、口をもごもごさせて飲み込んだ。

 のどに詰まらないかが少し心配だが大丈夫そうだった。


「痛い」

「痛くねぇだろ。 で、今回の件」


 頭を優しくなでている美月の顔は全く痛そうには見えなかった。 実際、力なんて一つも入れてないチョップだから痛いわけがないのだが。


「何? また秀ちゃんがなんかしたの?」

「聞いてないのか?」

「もしかして、神隠し?」

「そうそれ、その件の話をーー」

「話す気はないよー」


 そう言うと美月は残っている弁当に向かい始めた。

 俺はハァーとため息をついて、美月を見るが美月は俺に興味がないといった感じだった。 こうなるともう美月と話せることはないだろうな、と思い空き教室を後にした。

 

「ルリに癒されに行くか」

 

 うまくいかずに一人そうぼやき、ルリの教室に向かった。

 ルリは、俺たちの一つ下の学年で、こっちに来て俺は不安だったが、うまくやっているみたいだった。 友達二人の俺よりも……。

 

「ルーリー」

「ちょっと待ってください、海都様」


 教室に顔を出すと突然そんなことを言われて目を白黒させる。

 よく見るとルリと一緒に昼食をとっていた女学生の目が獣のようになっていた。


「あぁ〜、また後な」


 頬を引き攣らせながら俺はそう言った。 また、ルリはあの子たちにこってり搾られるんだろうなぁ。

 俺は面倒なことになりそうだったからさっさと退散した。 

 ルリからは呪詛のような文言がメールで届いていた。 魔力が込められたメールでないことを祈るばかりだ。


♦︎


 放課後、機嫌の悪いルリと俺はとある裏路地を歩いていた。 あの後、ルリは周りにいた女子たちに質問攻めにあった。 いつもはメールでどこで会うか指定してきていたのは俺との関係を聞かれないためだったのに今日俺がすべて台無しにしてしまった。

 神隠し事件に関しては、秀一に資料をもらった。。 資料といっても事件が起こった場所と時間帯、あとは神隠しに会った被害者の年齢などの特徴が簡潔に書かれているだけだった。

 目撃情報はあるにはあるのだが、秘匿が大事な魔術協会に記憶を消されているため当時のことを聞こうにも聞けない。


「ここら辺なんですか?」

「多分な」


 ルリが薄暗い路地を物珍しそうに見渡しているが、ここに来る人は限られている。

 その人たちの人脈をたどっていけば、魔術協会から逃れている人を見つけられるかもしれないが時間がかかるだろう。 それよりも、神隠しが起こった場所に残っている残留魔力を探し当てるほうが確立としては高い。 俺は地面に手を当てて残留魔力を探るがやはり残っていなかった。 別の場所で探すかと資料に目を落とすと服を引っ張られた。


「海斗様、あちらで何か騒ぎが起こっているようです」

「本当だな。 喧嘩か?」


 騒がしくなっている表に出るとヤンキーみたいなやつに俺たちと同学年ぽい男女二人が絡まれていた。

 というより、女学生のほうはどこかで見たことがある。 というか、今日の昼にルリと一緒に昼食を食べていたグループにいたような気がする。

 

「あれって、お前と同学年じゃなかったか?」


 俺の記憶の間違いかもしれないと思って、ルリに聞くと「そうですね」と返された。

 男のほうはルリも見覚えはないようで首をかしげていた。 制服は俺と同じだから学校は同じなのだろう。

 

「仲はいいのか?」

「そうですね。 愛華さん、柏原愛華かしわらあいかさんです。 私は友人だと思っています」

「んじゃあ、助けるか?」

「助けましょう」


 そう言った俺たちの行動は早かった。 言い合っている三人の間に割り入った。

 三人とも突然の乱入で驚いていたが、愛華さんがルリの姿を見てホッとしているのがわかった。 

 少しだけヤンキーを二人から遠ざけると突然地面が光始めた。 今ここでかと思ったが、神隠しの原因を叩きに行けるならそれでもいいかと思った。 俺は一緒に光に包まれている二人を押し出すつもりで強めに押した。しかし、二人の体は石のように固まっていて押し出せなかった。 そのまま、視界が真っ白に染まった。

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