ウチキリ[ゴ]

@esunishishinjo

第1話


ep1


****


サイレンが鳴っている。


赤い救急車の回転灯が、横転したトラックを、荷台から散乱して車道から歩道まで到達している少年誌を。


近くに倒れている、瞳孔が動かず上を向き、頭の周りの路面が赤くなっている、四肢があらぬ方向に折れ曲がっている女子高校生を。


赤い光で周期的に照らしている。


「えー、なにー?」「事故ー?」


「テープの内側に入らないで~」「うわヤバ~」


「『ジャスト』めっちゃある((笑))」「『ジャスト』だ」「『ジャスト』!!」


「コレ全部ゴミになんの?」「じゃない?」「一個ぐらい持ってってもバレなくね?」「現場荒らさないで!!」「担架通りますう!!道空けて!!」


「え?死んでる?」「えーウソォ!?」「私着てた制服!!」「すいません!!テープ貼るのでもっと後ろに寄ってください!!」


「すいません。死亡確認だけで済むと思うんですけど…ハイ…ハイ…」

「勘弁してくれよ…回り道しなきゃじゃん」「死んでんの女の子~?」


野次馬の声。警察官の声。救急隊員の声が交錯する。


一部の野次馬達の好奇の目線は、車道に進入する救急担架に向けられる。停止線を貼っている警察官たちの間をすり抜ける様に担架は女子高生だったモノに近づく。


救急隊員は担架に手際よく遺体を乗せる。ブルーシートが掛けられてた時、遺体にスマホを向けていた群衆は落胆した。


ブルーシートの中。遺体は微動だにしない。僅かに救急隊員の運んでいる衝撃で体が揺れる以外は。


ーーーそして。


ーーー遺体の瞳は動いた。


****


翌日。東京都郊外。宍粟前(しそうまえ)市。


東京都内であるというのに、都心の発展から取り残されたような地方都市の街並みが広がるこの町は、都心よりも低家賃の住居が多いことで、都会に務める一般家庭層の住民が多く居住している。各家庭の朝の営みは今日もいつもと変わらない。


例え昨晩、凄惨な事故が起ころうとも、日常は続く。


『日本全国の皆さん!!おはようございます!!――今日は日中は穏やかな天気が続きますが夕方から天気は下り坂になるでしょう――』


『――本日紹介するアニメはこちら!!『眼ノ魔』!!原作漫画は求世社から発売されている週刊少年『ジャスト』に連載されていました――』


『――昨日未明都内で少年誌を運搬していたトラックが信号を無視して道路に侵入した女子高校生を撥ねました付近には荷台から落下した週間少年ジャストが散乱し―――』


『被害者の女子高校生は病院に搬送されましたが、まもなく死亡が確認されました』


各家庭の朝の食卓で。

出勤先の朝礼前の職場の休憩所で。

他愛ない話題に交じって昨晩の事故が報道される。それを気にも留めないのが殆どの人間の反応だ。


今日も世界は平等に日常を謳歌していた。


****


【STAR MAX(スター・マックス) 宍粟前駅前店】


「それで…次回作はどうしましょうか?御道先生」


ワイヤレスイヤホンから流れた神妙な声に、漫画家・御道皇魔(ごどう こうま)は腕を組み、目を閉じたまま応えた。


「…彼等を弔う時間が必要です」


「……は、はぁ…? 彼等って…」


「もちろん、私が描いてきた大勢の人々の事です」


開かれた黒縁眼鏡越しの御道皇魔の目は揺るがず、机上のオンライン会議アプリ上で困惑と呆れが混じった顔を隠せない担当編集者を射抜いていた。


「それこそ、先の大震災以上の人間が亡くなってます。なのでしばらくは…彼らの弔いの時間に割きたいんです」


「いや でも…ですね? 次回作の構想だけでも話し合っておけって班長が」


「編集長には自分が謝っておきます」


「………」


有無も言わさない御道の姿勢に、話していた担当編集の口は開かれたまま、声にならない息を吐いた。


―――事故を免れた『ジャスト』の最終ページが近くの席で読まれている。


―――主人公の女性の書影が書かれている。


―――「本日最終回!!」という煽り文と共に作者のコメントが書かれている。


―――『彼女と私が見てきた死に黙祷を』


****


【広盛荘(ひろもりそう)】


「……はい ありがとうございます編集長」


緊張が一気に解けた面持ちでスマホの通話を閉じる御道。踵を返し、広盛荘の自分の部屋へ向かう。


家賃が3万を切るアパート。大家さんが共住まいであり、家賃の都合などは(ある程度までなら)融通が利く昔ながらのトタン壁が目立つ昭和後期に建築されたアパートである。


「あ。大家さん」


「あ~ら御道先生!!」


手首がもげる様な勢いで御道を手招きするのは、広盛荘大家のおばちゃんである。


満面の笑みでビニール袋にすし詰められたサツマイモを手渡される御道は勢い負けしているのは言うまでもなく。


「親戚の家で取れたのお裾分けよ。この前いただいた里芋の煮っ転がしのお返し」


「ありがとうございます」


すぐさま頭を下げてお礼を述べる御道。一切の澱みは無かった。


「別にお返しなんて良いんだからね?」


「はは…どうも」


御道が自分の部屋の前に行ったところで大家が再び声をかける。


「連載終わったんだから休まないと~!!」


「はは…そうします」


自室の扉を開けながら、何度も大家に頭を下げながら御道は部屋に入る。


部屋の中に入ると、御道皇魔は頂いたサツマイモの袋を冷蔵庫の野菜室に詰め込む。


そしてすぐさま、部屋の一角から線香を取り出す。


火を点けた途端、線香の香りが部屋に充満していく。


線香立てに三本の線香と、少し間を置いて一本の線香が刺さる。


部屋の壁に密着する形で天井にも到達するほどの足場に、額縁に入った漫画原稿には、老若男女の正面顔が描かれている。


台の前に設けた座布団に、御道皇魔は正座する。


身体の正中線上で手を合わせ、瞑目する。


部屋中に線香の匂いが充満する中、御道が作った特製の仏壇を照らす明かりだけが光っていた。


****


「ありがとうござましたぁー」


都心のコンビニから出てきた、黒いパーカー姿の女性客。


隣接した本屋のディスプレイに表示されたアニメに導かれるように歩みを止めて見入り始めた。作品名は『眼ノ魔』。アニメが流れながらスピーカーから音声が聞こえてくる。女性客には分からなかったが今作がデビュー作だという新人女性声優のナレーションだ。彼女は主役の声も演じることになるらしい。


『世界に突如発生した人の目玉の形をした生物』


『奴らは世界中の人々を襲った』


『目玉に取り憑かれた人間は自我を失い眼人(めのびと)と呼ばれ人に目玉の化け物を植え付けようとした――…』


『崩壊した世界で 一人の女性が生き延びていた―――…』


場面にはコチラに向かってバイクで走ってくる、ライダージャケットに身を包んだ成人女性が映っている。


****


『まあ 死ぬんですけどね』


『結局死ぬのに『生き延びていた…』は笑うやろw』


『やめて差し上げろww』


『母親だった化物に消化される事で

自分の免疫で体内から化物を潰す

↑こんな展開作った作者は人じゃねえ』


『生物を使って人体を構成する部品を生み出す研究をしていた父親が生み出した

生物が母親に寄生した瞬間に変異して大量に分かれて増殖→世界終焉に繋がった

主人公の母親だったそいつを潰せば全部の寄生体が活動停止するっていう、文にすると割ととんでもない御都合展開に見えるけど序盤から伏線は張られてたし、考察当たってる人もいたんだよな』


『溢れ出る製作陣の悪意』


『この作者、読み切り書いてた頃からキャラの死亡率ヤバいらしいな』


『出てくる奴ら大体死んでる』


以上、6chスレ 『【祝】眼ノ魔アニメ化したけど、どう思う?【祝】』より抜粋。


****


そして彼女は。結城幸織は。


6chの掲示板が映されたスマホの場面から顔を上げる。スマホを黒いパーカーのポケットへとしまう。


睨みつける目線の先は『求世社』と入口に刻まれた大規模ビル。


結城は迷うことなく、正面入り口から中へと入った。


エレベーター横の案内板から『週刊少年ジャスト編集部』の文字がある5階へ行くボタンを押した。


「あー、君。漫画家志望じゃないよね?原稿持ってないし」


「…… えっと 御道先生のフ、ファンで」


結城は黙って警備員を見据えた後、如何にも一般漫画ファンらしい態度を取ることにした。


「担当編集者さんと、お会いしたいなーなんて…」


「ふーん?…御道先生ねぇ…」


結城から目を逸らしながら、警備員は一歩、結城との距離を詰める。


「君。ここだけの話だけど…」



「一度、死んでるね?」



瞬間的に結城は後ずさる。


「君が誰かは正確には分からない。ただ我々は君達の様な存在を見分ける手段があり…君達の様な存在を扱うプロだ」


いつの間にか玄関ホールからは人払いがされ、あらゆる通路から警備員がゾロゾロと集まって来ていた。結城は気付かない。


「それにしても正面から堂々と来るところを見ると『少年漫画系』のキャラクターか?それとも復讐に駆られた『青年誌系』なんかの読み切りで死亡エンドを迎えたキャラクターか…いや、違うな…御道皇魔を名指しした時点で出身作品は決まりか?どうだね?」


結城は周囲を囲まれているのに気づき、パーカーのポケットに手を入れ、隠し持っていたナイフに触る。


「いずれにせよ…君は一体どういう理由で、作者の関係者に会おうとしたんだい?」


「………」


「後ろめたい理由があるなら、やめておきなさい。我々もなるべくなら穏便に済ませたい。今なら襲撃未遂で終わる」


「……話していたのは誘導?」


「言ったろう?プロだって。大人しく捕まってくれ」


警備員は結城のパーカーのポケットを指差し、続ける。


「ポケットから手を出しなさい」


「………」


「そして、ゆっくりと手を 上にーーー」



結城の腕が消える。



そう見えるほどの速度で振り上げられた手から放られたナイフが警備員の肩に刺さる。


周囲の警備員達が一斉に警棒を抜く。


結城の背後の警備員が確保の為に中腰でタックルしようとするが躱され、その勢いそのままに、2人の警備員の眼前放り投げられる。同僚の警備員を押し除けようともたつく彼等の頭上を、結城は軽々と飛び越える。


追いかける警備員を身体一つで薙ぎ払い、殴りつけ、叩き落とす。『眼ノ魔』の等身大プレートを背後に投げた時、僅かに結城の苛立ちが増した様に見えた。


戦闘の最中、結城の左肩の『眼』が開く。『眼』から黒い血管が結城の体表を覆い、首元、左目に到達すると、結城の左目は真っ黒に染まる。


結城の身体の動きのが常人のそれを超える。警備員の動きを見切り、前に、前に進んでいく。そして結城は人の壁が薄れた間を縫って、非常通路行きの扉に手をかける。


「あ゛っづ!!」


取っ手が熱を帯び、僅かに表面の金属が溶ける。構わず開いた扉の向こうへ消える結城。


「大当たりか…!!…全警備員に通達!!正面玄関ホールにいるのは『眼の魔』の主人公『結城幸織』!!『結城幸織』だ!近接戦闘じゃ相手にならん!!スタンガンを使って何としても鎮圧しろ!」


結城に初めに声をかけた警備員が語気を強める。インカムを操作して別の警備員に通達する。


「編集者達を避難させる。有毒ガスの漏洩で何とかなるだろう。…結城幸織に御道皇魔の諸々の情報を奪われるな」


インカムを切った警備員は、玄関ホールに倒れる他の警備員の下に急いだ。


****


脚が扉を蹴破る。結城の背後には警備員達が折り重なる様に倒れており、意識がある者からは呻き声が漏れていた。


扉の先は『週刊少年ジャスト』編集部。結城は誰もいなくなった編集部を躊躇いなく進んでいく。そして自身の姿がデカデカと載った表紙がプリントされたポスターを飾る机を見つけた。引き出しの鍵を壊して、中身を漁る。


何袋もの漫画原稿の束の中、目当ての名前を見つける。


御道 皇魔


下に小さく住所が書かれている。結城は唇を噛み締めながらスマホで写真を撮ると、すぐに出口に向かい、倒れている警備員達を跨ぎながらその場を去った。


****


バイクの隣にタバコを吹かしながら男が座っている。なんという事は無い。大学が休みで、特にやる事もなく、バイクを飛ばして何処に行こうと考えているだけの男である。



そして不意に。近くのビルのシャッターが吹っ飛んだのである。



咥えていた煙草を取り落とした男は、吹っ飛んだシャッターがあった入口から、脚から出て来た黒いパーカーの女が、コチラに向かってるのを呆然と見ているしかなかった。


「ごめん。一生借りる」


「お、おン…ふえ?」


鍵は当然挿しっぱなし。

女は男のバイクに跨ると、エンジンをかけ、アクセルを蒸して何処ぞへと走り去ってしまう。


「…………」


男はしばらく、走り去っていった自分のバイクの背後を見続ける事となったのだった。


****


「有毒ガスって具体的には?」「爆発とかしないんですか!?」


付近の専用駐車場に集められた編集者達は口々に警備員達に詰め寄る。


「班長」


喧騒の中、結城に相対していた警備員が後輩の警備員に呼び止められる。


「止められなかったんですね」


「流石は元・主人公か。訓練を受けた警備員達でも鎮圧出来なかった」


「測定された最終的な体内事象子濃度は1.32Fnm(フェノム)…一般的な特殊能力を持った他界存在の数値です。昨晩逃げたやつでしょうか?」


「目撃された変質後の身長と体格も一致する。恐らくそうだろう…」


編集者達の群衆をチラリと見てから、警備班長は話を続けた。


「中央監視センターへの連絡は済ませてある…後は外回り班の仕事だ」


****


「(ザザッ) 中央から外54、45、67、107。中央から外54、45,67、107応答願います。どうぞ。」


車内に無線機からノイズ混じりの声が響く。少し遅い昼飯を取っていた女性エージェントは口内のサンドイッチを飲み込みながら受信ボタンを取る。


「外54です。どうぞ~」


「現在集英社J誌編集部にて人型存在によるG事案(テロ行為)発生。対象は既に現場から宍粟前方面に逃走。現在展開中の外は至急対応に当たられたし。どうぞ」


「外54了解」


女性エージェントは車のエンジンをかけながら、助手席でアイマスクをして横になる相棒の脇腹を小突いて起こす。


「みゃぁう!?」


「仕事だぞシェナ」


「びっくりしちゃうでしょオリー!!」


「はいはい。武器の確認よろしく」


「もー…」


少し不満そうにしながら、金髪でやや小柄の体躯を後部座席に移動させて、シェナと呼ばれた女性エージェントはスタン銃などの武器の簡易メンテナンスに入った。

車を運転するオリーと呼ばれた女性エージェントは黒髪を後ろに束ね、高めの身長に引き締まった筋肉がついているのが服の上からでも分かる。


『なお現地警察が現場を出禁にしている。別に派遣している外88が現着し事後処理を担当ーー』


無線からは状況、指示がリアルタイムで流れている。それを聞きながらオリーはハンドルを右に回した。


そして車の前席の間のスペースに、小型の電子端末が揺れる。トップ画面に彼女達の身分証が明記されている。


『オリビア・スレイブバーン 監視部門 外回りチーム』

『シェナ・クラウベルク 監視部門 外回りチーム』


****


時刻は20時37分。日は落ちて、夕刻からの雨が降り続いている。広盛荘のトタン屋根が不規則なリズムの雨音を奏でている。


部屋の中の方が、そのリズムは増しに聞こえた。御道皇魔の自室の机には描きかけのネーム、書き溜めたネタ帳等が広げられていた。御道皇魔は窓際に敷かれた布団で睡眠を取っていた。



不意に、雨音が大きな破壊音と共に大きくなる。


御道は眉間に皺を寄せながら、仰向けから窓側に寝返りを打つ。


濡れた足音が室内に入る。御道はもう一度寝返りを打ち、もう一度仰向けになった。


天井を向いていた御道の顔に影が入る。窓からの月光が遮られる。


御道の目が覚めて、目を開ける。



包丁。

自分に向けられた、刃物。

殺意。


自分を見下ろす顔。

憎悪の顔。

パーカーに僅かに隠れているが、月光でそれだけは分かった。



「……え? な 誰、だ?」


初めに、困惑。

そして、疑問。

第三者から見ると甚だ間抜けな対応である。だが、御道はそれでも生命の危機よりも自分の疑問が先行したのだった。


襲撃者は歯軋りをしながら武器を振り上げる。そして御道の鼻先少しで止まる。御道が襲撃者の手首を掴んだのだ。御道は自分が危機的状態にある事を、現実味の無い現実を認めるのを寝起きの頭で、ようやく何とか理解した。


力は拮抗せず、少しずつ刃先が御道に近づいてくる。御道は掴んだ手を不意に緩める。頭をそのままズラす。枕に刺さった包丁に気を取られた襲撃者の脇腹を、御道は足で蹴りつける。


「う゛っ!?」


襲撃者は布団から転げて、部屋の真ん中に倒れる。


「ハァッ…ハッ…」


御道はそのまま起き上がり、机の上のスマホを取る。襲撃者を迂回して部屋を出ようとする。


「あッ!」


しかし脚を掴まれ、持っていたスマホを玄関まで放ってしまう。


御道を組みつけた襲撃者はそのまま御道に馬乗りになり、頭を庇う御道に何度も、何度も殴りつける。


「ンぐうう゛ぅう!!?」


自らを庇う事しかできない御道。襲撃者は痺れを切らして手首を掴む。そして襲撃者の手首から黒い血管が走る。


御道の手首が熱を帯び、火傷を負っていく。


「あ゛っづァ!!?」


「…………ッ!!」


抵抗が弱まった御道の腕を払い除け、襲撃者は御道の首に手をかける。ギリギリと音を立てながら、御道の首が閉まっていく。


「カッ…!!くっ……!」


御道は目の前の襲撃犯の顔を見た。抵抗の際にパーカーのフードが取れ、近眼の御道の目にも、先程よりも、よく見えた。


女性だった。少なくとも彼にはそう見えた。

そして、初めて会った気がしないとも思ったーーー。



カオン…と。


空き缶が落ちる様な音が響いた。

襲撃犯が視線向けた先。

コロコロ転がるのは空き缶では無い。


ーーースタングレネードだ。


目を潰す閃光。耳を裂く甲高い音。

同時に受けた襲撃犯。直後。


バリバリバリバリ!!!


自分の身体に何かが撃ち込まれ、電撃を浴びた。なす術なく倒れ込み、痙攣する襲撃犯は意識を手放していた。


「クリア」


部屋に侵入した黒服の女性…オリビアは、倒れ込んでいる襲撃犯を、蹲る御道から引き離し手早く手錠をかける。


「作者は無事ー?」


「生きてるけどショック状態。当然でしょ?」


「なら大丈夫だ。処置よろしく」


「はいはい」


御道は呻きながら立ち上がらされる。耳鳴りをしながら、自分の部屋に入って来た闖入者が2人増えた事を目視した。


よろめきながら、御道はいつの間にか停まっていた車の後部座席に乗せられる。付き添っていた金髪の女性も隣に座っている。


「彼女は…君達は一体…??」


「動かないでくださーい」


意識がはっきりしかけていた御道の口に何かが覆われる。何回か呼吸を繰り返した御道は、再び意識が朦朧として、そのまま車の扉にもたれかかる。


(なに…何が……???)


「記憶置換剤、残量よし」


御道の首筋に『記憶置換剤』と書かれた小型注射器が刺された。


プシッ…


小さな噴出音が聞こえる共に、御道の疑問と意識はそこで途絶えた。

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