127.勇者さん、福引マラソン
「さぁ、引くわよ……」
ガラガラガラ……
少々、シュールな演出の後、結果が表示される。
そして試行回数、23回目にして、ついに魔王報酬が出現する。
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【福引結果】
①魔装 筋肉鎧 攻撃力が大きく上昇する装備品
②魔具 改名石 プレイヤー名を変更できる
③魔装 ゲルル 状態異常無効の装備
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「持ってるんだよぉおおおお!!」
ツキハは頭を抱えながら叫ぶ。
魔装:ゲルルは月丸隊がジサンと共に、最強千を報酬とする魔王:エスタ討伐を目指した際に、ナゴヤに立ち寄り、討伐した魔王:カンテンの報酬であり、ツキハがすでに所有している魔装であった。
「ま、まぁ……魔王報酬が出ることが証明されただけでもよかったじゃねえか……」
そんなことを言うユウタも内心、少なくはないショックを受けていたが、何とか前向きに
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■魔具:福引券Q
【効果】
使用するとランダムで選ばれた3つのアイテムから1つを選択し、入手できる。三日以内に使用しないと消滅する。
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かつてジサンがカスカベ外郭地下ダンジョンの95階層ボスを倒した時に入手したのは”福引券R”であり、福引券Qはそのワンランク下のアイテムである。
当時、ジサンはこの福引券Rを使用した際、”回生の御守り”という魔王:ガハニの討伐報酬を引き当てたのだが、ジサンは他に当った”アクアリウム”を即決したのであった。
このように福引券を使用すると低確率で魔王報酬が出るという情報が掲示板にも寄せられていた。
そして、月丸隊は、このアザブ10商店街ダンジョンで”福引券Q”を繰り返し入手できることを突き止めたのである。
通常、ボス討伐クエストは一度、攻略すると消滅してしまうのだが、AIの心温まる親切心により、一部の特殊なボスは何度でも挑戦することができるようになっていた。
なお、提示版に入手報告があった魔王報酬は
魔具:テンナビ 同ランクの任意のクラスに変更できる
魔具:転移陣 一度だけ任意の駅にワープできる
の二つであった。
ここにジサンが引いた”回生の御守り”、月丸隊が引いた”ゲルル”が加わる。
初代第一魔王:ロデラの報酬であった時を遡行できる”時遡玉”、
初代第二魔王:ラファンダルの報酬であった人を蘇生させる”生命の雫”、
そして”最強千”といった明らかな上級アイテムは現状、再入手情報は一切なかった。
仮に入手したとしてもそのプレイヤーが掲示板に書き込むとは限らないのも事実ではあったが、実際にそういった特別なアイテムはそう簡単には再入手できない設計となっていた。
これらのアイテムの再入手手段として、一つ、有力な方法と考えられているのは大魔王:モドリスの報酬である魔具:複写石の入手である。
複写石はその名の通り、任意の魔具を複製するという効果があり、これならばどんな魔具も理論上、再入手することが可能と考えられていた。
しかし、”時遡玉”を入手したウォーター・キャット及び”生命の雫”を入手した月丸隊は共にすでにこのアイテムを使用してしまっているため、この手段は該当しない。
何はともあれ、掲示板の情報は、デマだったのではないかという疑惑が月丸隊の頭の片隅に生じ始めていた頃であったため、この時点で、魔装:ゲルルが引かれたことは、ユウタの言う通り、”魔王報酬が出ることが証明された”だけでもよかったのかもしれない。
しかし、この証明がなければ、ここらで”デマだった”と結論付けて、引き返すことができたかもしれない。
「魔王報酬出たんだからもうすぐ出るっしょ!」
ツキハもポジティブにそんなことを言う。
一体どこにそんな根拠があるのか不明である希望的観測により、かつて一世を風靡したソーシャルネットワークゲームにおける、通称、ガチャにより、一体どれだけのプレイヤーが私財を投げ打ったか、彼らは噂でしか知らなかったのだ。
◇
「グェっグェっグェっ……この魔公爵:ハハパスに挑むとはお前ら、とんだ愚か者だな……」
「「「……」」」
「グェっグェっグェっ……ビビッて声も出ねえか……」
「「「……」」」
魔公爵:ハハパスは魔公爵にしては珍しく単調ではあるが、言葉を発するボスであった。
容姿はオークに近く、体長は3メートルほどあり、恰幅の良い巨体だ。なぜか赤い
しかし、彼らはこの会話をすでに180回ほど聞いているため、何の感情も抱かなかくなっていた。
23回目が奇跡であったのかもしれない。彼らはそんなことを思い始める。
なぜなら、あれ以来、一度も魔王報酬は出ていない。
◇
魔公爵:ハハパスへの挑戦が300回に近づく頃、ウォーター・キャットからチユに対して、魔帝:カガ攻略のための支援要請が来る。
「行かなきゃっ!」
メッセージを受け取った際、キャラに似合わず、何かの使命感を背負ったような発言をしたチユは嬉々としてウォーター・キャットの支援に向かうのであった。
もうチユは帰ってこないかもしれない。(戦死的な意味ではなく)
当時、そう覚悟したと月丸隊、聖騎士のユウタさんは
この頃、マラソンによる消耗、及び、ウォーター・キャットのミテイに指名されなかったことにより、感情を失いつつあったツキハに一通の通知が舞い降りる。
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◆2043年3月
魔王:メフィルジル
┗討伐パーティ:ああああ
┗匿名希望 クラス:アングラ・ナイト
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「え……? ジサンさん、魔王をソロ討伐?」
「す、すげえな、あのおっさん……」
チユに置いて行かれたツキハとユウタはその通知を見て、久しぶりにまともな会話をする。
「わ、私達も負けてられないね……! 行こう! 二人でも大丈夫だよ!」
「お、おう……」
知り合いの偉業に、感情を取り戻した二名は299回目のハハパスの討伐に挑む。
◇
ガラガラガラ……
少々、シュールな演出の後、結果が表示される。
「…………」
ツキハはポップメニューを見つめる。
「ダメか……次行くぞ……次で300か……」
「…………」
「……いくら見ても結果は変わらないぞ……?」
「…………ユウタ」
「ん……?」
「…………これ」
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【福引結果】
①魔装 筋肉鎧 攻撃力が大きく上昇する装備品
②魔具 テラリウム 巨大ケース。中型以下の陸生モンスターを飼育できる
③魔具 テンナビ 同ランクの任意のクラスに変更できる
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チユが月丸隊に戻ってきたのは、この時の成果であるのかどうかは定かでない。
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