110.おじさん、愛でる

(うまくいったようでよかった……)


 ジサンはほっと胸を撫でおろす。


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 ■残刀

 種別:スキル

 威力:1500

 消費MP:200

 インターバル:-(戦闘中一度だけ使用可能)


 移動しながらの高速斬り。とにかく速い。


【効果】

 同時に使用された敵の魔法、スキルを跳ね返す追加効果。


【その他】

 自身のHP3/4以下では使用できない。

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(強力ではあるが、なかなかに博打ばくち要素のあるスキルだ……)


 まず最大の特徴である反射性能は相手の魔法、スキルの性質に依らず跳ね返すということだ。今回のリバドのHPが微量だが回復したことから不利な効果であっても無差別反射であることが推察される。一般的には敵攻撃は味方陣営へ負荷を掛ける効果であることが多いが、どちらにしても初見の相手ではくじびき要素が強い。

 また、戦闘中、一度きりの制限があるが、自身のHPが3/4以下では使用できないため、肝心な時に発動できない可能性もある。

 だが、リスク以上にその効果は強力であるのは間違いない。


 フィールドは消滅し、元のビワコの湖畔に戻ってくる。


(……お疲れ。少し休んでろ)

 ジサンは奮闘したフェアリー・スライムをボックスに戻す。

 シゲサトも同じようにドラドを休ませる。


「私は負けてしまったようですね」


 リバドは呟くように言う。

 呟けるということはぼったくりシェルフの情報通りに事が運んだということだ。

 リバドは消失せずに済んだのだ。


 戦闘前からの変化として、リバドの表示名は再び無くなっている。どうやら現在はモンスターとしてアクティベートしていないようだ。


「ナイスファイトでしたね! 魔帝:リバドさん!」


 シゲサトが屈託のない笑顔で、健闘を讃えるように語りかける。


「っ……! ……はい……有難うございました」


 リバドは真摯に応える。



 ◇



 戦闘を終えたリバドは、これからどうするのか? という問いに対し、どこか旅にでも出ますか……と言い残し、フラフラと去って行った。

 ジサンは内心、その姿は流石のリアル・ファンタジーでもなかなか不審者だぞ……と軽く心配しつつも、その後ろ姿を見送る。


(職務質問には気をつけろ……達者でな……)


「オーナー! これ……報酬の“仙女の釣竿”です!」


 魔帝:リバドの討伐報酬は“仙女の釣竿×4”である。

 今回、MVPであったシゲサトが四本の報酬のうち、三本をジサンに寄越す。


「えっ? こんなに?」


 一本はジサン、もう一本はサラ用として、一本余る。


「オーナーが受け取ってください。俺の周りには仙女の釣竿が欲しい人はいなそうなので……あ、そうだ。黄金の釣餌をくれたツキハさんに渡してはどうでしょう?」


「え? そうですね……わかりました。そうします」


「はい!」


 シゲサトはニコリと微笑む。


(よし……)


 ジサンは早速、仙女の釣竿を具現化ポップしてみる。

 現物を拝みたかったのである。


(おー、ピカピカだ……)


 ジサンは愛おしい者にするかのように竿を撫でる。


(お、これはリバドが持っていた釣竿と同じデザインだな。ふむ……リバドの釣竿が仙女の釣竿だったというわけか。ん……? ということは……)


 ジサンが仙女の釣竿を愛でていると、通知がポップする。

 魔帝討伐の通知だ。


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 ◆2043年3月

 魔帝:リバド

 ┗討伐パーティ:ああああ

  ┝シゲサト クラス:ドラグーン

  ┗匿名希望 クラス:アングラ・ナイト

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(……またサラは離脱したのか)


「あれ? サラちゃんは?」


 早速、シゲサトが反応する。


「知らなかったか? 我は極度の恥ずかしがり屋だ。なので、勝利寸前で離脱した。リバドには離脱許可権限があったからな」


「な、なるほど……って、恥ずかしがり屋?」


 サラはいつものゴリ押し理論で堂々と言い訳するが、シゲサトはサラのどこが恥ずかしがり屋なのだろう? と普段の言動との乖離を疑問に思うのであった。


 ジサンも考える。魔王ランクのボス:タケルタケシの報酬として特殊クラス:魔王が解禁されているから、以前よりは不審に思われないだろうが、それにしても大魔王は確かに目立つ。そのことを考えると、少々、複雑な気持ちになる。


(……)


 と同時に、複雑になるのは一緒にリストに掲載されたかったからなのだろうか? と、以前の自身の考え方と多少の変化が起きていることに不思議な感覚になる。戸惑い半分と、残りは温かい何かが混ざり合った感覚だ。


「……ナー」


(……ん?)


 ジサンはサラのことを悶々と考えていると、今度はシゲサトに呼びかけられていたことに気付く。


「オーナー……俺……実はオーナーに謝らないといけないことが……」


(……)


「って、あれ? メッセージだ。何だろ」


 シゲサトが何かを言いかけたその時、シゲサトの元に一通のメッセージが届く。


「えっ? アンちゃんから?」


(眼鏡の子か……)


「み、見てもいいですか?」


 シゲサトは少し焦ったような表情でジサンに許可を取る。


「どうぞ」



[アン:さとたすけておねがい]

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