86.おじさん、ご無沙汰
機械兵が出るという西の森への探索が決まったが、その日はすでに夜が近づいており、ジサンらはエルフの集落にて、一泊することとなる。
「おいしい!」
「うむ、悪くない」
シゲサト、サラがそれぞれ、”らしい”反応を示している。
ジサンらはエルフによりディナーを振る舞われていた。
天井が高い豪華な宴会場に招待された三人は円卓にて、次々と運ばれてくる料理に舌鼓を打っていた。
「どうじゃ、エルフの料理は?」
同席し、ちょうど対角に座っていた長老がジトリとした目でジサンに尋ねる。
「う、旨いです……」
ジサンは急な食レポに応えられるほどの頭脳の瞬発力を持ち合わせていない。
それでも折角の好意に対し、やや不十分な回答であるとは自身も感じていた。
「そ、そうですね……これとか……」
もう少し具体性を出さなければ……せめてもの思いで美味しかった料理を示す。
「そうか、口にあったならよかった。それは森に生息する希少なフグトラの肉を使用している」
「ふ、ふぐとら……?」
「ご存知ないか? 最高級の食材であるが」
「そうですね、トラフグなら知ってますが……ですが、確かにすごく美味しいです」
「ふーむ……」
長老は何かを考えているのか目を細める。
もっとも普段からいくらか眠そうに曇らせているため、大きな差分はない。
「
長老は呟くように言う。
「!?」
「姿は人族のそれであるが、知識に偏りがあるようじゃ」
「そ、そうですかね……」
(別の世界の記憶があるとは、変な設定のNPCだな……)
と長老が不思議に思うのと同様に、ジサンもエルフ達のことを不思議に思う。
その後、食事ついでにシゲサトが中心になり、ニホンのことを長老に話した。
長老は興味深げにその話を聴いていた。
エルフ達が知る世界とニホンではモンスターや魔法といった共通点があるものの文化に大きな違いがあるようであった。
◇
「ご馳走さまでした。美味しかったです。有り難うございました!」
シゲサトが爽やかにお礼を告げる。
「うむ、喜んで貰えたのであればよかった。寝室を手配しよう。一人、一部屋でよいじゃろうか?」
「私とマスターは同室で大丈夫です!」
サラがジサンの腕にくっつくようにしながら、すかさず応える。
「え!?」
シゲサトが驚くようにジサンとサラを見る。
(……)
その目はやや疑いの成分を含んだ眼差しであり、シゲサトの目が長老のようにいくらか細くなっている。
ジサンはそれに気づき、若干の罪悪感のようなものを覚える。
「あ、あの一人べ……」
「俺も同室でお願いします!」
(え……?)
ジサンが全員一人部屋にしようと提案しかけたがその反対の事象で上書かれる。
◇
「なぜ主も同じ部屋なのだ! 我とマスターの二人きりの時間を邪魔しおって……!」
「え? もしかしてサラちゃんとオーナーっていつも同室なの?」
「は? 当たり前だろうに」
「え? ううんー……うん」
シゲサトはさも当然のように、サラが回答したため自分が少し変なことを考えていたのだろうかと思い始める。
「まぁさ、別にいいじゃん! 修学旅行みたいで楽しいでしょ?」
「修学旅行……? くだらん……」
「え? サラちゃんって冷めてるタイプ?」
「え……? うーん……」
サラは一瞬だけ微妙な表情を見せる。
冷めていたつもりはないが、あまりいい思い出はないなぁと思うジサンであった。
「ってか、サラちゃんって何歳くらいなの? 流石に俺よりは年下だとは思うけど……」
「あ゛っ? もうすぐ二歳だが?」
「いやいや、そういうのはいいから!」
「そういうのってなんだ!?」
(……本当なんだよなぁ……)
二人が賑やかに話しているのを少々騒がしいなと感じつつも微笑ましく思う程度には心の余裕が出てきたジサンであったが、それを放置し腰かける。
(……メッセージはできるようだな)
そして昼間から試してみようと思っていたことを実行する。
[ジサン:久し振りだ、稼働してるか?]
[ルィ:絶賛営業中やい!]
[ジサン:なら、よかった]
ジサンはホッカイドウでフレンド登録したNPC、シルフとエルフのハーフであるシェルフのルィにメッセージを送っていた。
彼女は金を払うとゲームの情報を何でも教えてくれるのだ。
[ルィ:全く……たまには利用してくれないと退屈過ぎ]
[ジサン:すまんな。そう言えば俺たち以外の利用者はいないのか?]
[ルィ:いないよ! あんな辺境に配置されたせいでほとんどプレイヤーが来ないし、来てもアタイに勝てるプレイヤーなんてそう多くはないんだから!]
[ジサン:そうなのか、それは災難だな]
[ルィ:心が込もってないような……! まぁ、いいよ。今日は何の情報が知りたいんだい?]
[ジサン:エルフについてだ。今、いる場所にエルフと名乗るキャラクターがいるのだが、お前の親戚か?]
[ルィ:エルフねー、残念だけど、それは答えられない情報みたいだね]
[ジサン:金が足りないってことか?]
[ルィ:人を金の亡者みたいに!]
[ジサン:違うのか?]
[ルィ:違うよ!]
[ジサン:そうか。ではまた]
[ルィ:ちょっちょっちょ!]
[ジサン:なんだ?]
[ルィ:せっかく久し振りなのにもう終わりなの!?]
[ジサン:答えられない情報なら仕方ないだろ。今は他に聞きたいこともないし]
[ルィ:まぁ、そうだけどさ……もっと話を広げてよ!]
[ジサン:すまんな、そういうのは苦手分野でな]
[ルィ:知ってる]
(おい……!)
[ルィ:じゃあ、少しだけヒントあげるよ]
(ヒント……?)
[ルィ:アタイって魔神の居場所や超レアアイテムの情報だって金さえあれば答えられるんだよ?]
(どうせ払えるような額じゃないんだろうが……)
[ルィ:そんなアタイが答えられないゲーム内の情報があるんだよねぇー。それがヒントかもしれないよ]
[ジサン:わかった。有り難う]
[ルィ:ふふふ、またのご利用お待ちしております♪]
絶妙なヒントを出したなぁと思うシェルフさんであったが、相手はこんなことを思っていた。
(……よくわからんが、まぁ、正直どうでもいいか)
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