19.おじさん、有名人に会う

「つ、ツキハ!? て、てめぇ! こんなところで何してやがる!?」


「それはこっちのセリフなんだけど……お兄さん達、何してるのかなー?」


「っっっ」


 男達は言葉に詰まる。


「もし、恰好悪いことしてるんだったら、流石に止めなきゃいけないけど……」


 そう言って、ツキハは腰の剣に手を掛ける。


「ぐっ……」


「やります?」


「ちっ……! 覚えてろよ!!」


 男達は悪い人らしい典型的な捨て台詞を残して、去っていく。


「やなこった!」


 ツキハは去っていく男達の背中に向けて、”いー”の仕草をする。



 ◇



「おじさん達、大丈夫でしたか?」


「あ、おかげ様で……」


 ツキハは男達を追い返すとジサン達に声を掛けてきた。


「最近はあんな奴らも出てきたんですね。敵はAIのはずなのに……」


 ツキハは少し悲しそうに言う。


(…………)


 ジサンは少しハッとする。敵はAIなどと考えたこともなかったからだ。


 ジサンの人生は明らかにこの世界になってからの方が充実していた。


 AIはそのきっかけをつくってくれたモノ。少なくともジサンにとって敵ではなかった。


「えーと、危険そうですし、少し同行しましょうか?」


 ツキハが申し出る。


「あ、いえ……大丈夫です」


「いや、流石に女の子もいるようですし、同行させてください」


「え……? でも……」


「お願いします!」


「あ、はい……」


 ジサンは押し切られてしまう。


 サラはジサンの陰に隠れ、ぶりっ子モードに突入しているようだ。



 ◇



「でも、本当、ああいう奴らが出てきてるとは知らなかったですよ」


 東エリアへ向かう道すがら、ツキハがそんなことを言う。


「え? そうなんですか?」


「え? おじさんは知ってたんですか?」


「え、まぁ……掲示板で噂になってましたし……」


「えっ!? マジですか?」


「あ、はい……」


「…………」


 ツキハは少し考えるような顔をする。


「じ、実は私、掲示板は見てなくて、初日とかは見てたんですけど……ちょっと気分が悪くなって……」


(確かに、この人は精神衛生上、見ない方がいいかもしれない。有名人って大変だな……)


 しかし、だとしたら、この人は、何でここにいたんだろう……とジサンは思う。


「……お姉ちゃんはどうしてここにいたんですかー?」


 サラがジサンの心中を代弁するかのようにツキハに尋ねる。


「えっ……!? えーと……ぱ、パトロールかな?」


(……ん?)


 ツキハはなぜか気まずそう……というか、少し恥ずかしそうにしている。


 襲撃があると知らないのにパトロールはちょっと変だろ……とジサンは思う。


 一人で秘密の特訓をしてたなんて言えない……


 ツキハは少し素直になれないところがある性格であった。


 ウエノクリーチャーパークは”自身で戦う相手を選べる”、”そこらのダンジョンより強い敵に戦える”という点で、レベル上げするのには適していた。


「そ、それはそうと、そのフヨフヨ浮いてるのは、もしかしてモンスターですか?」


「そうですが……」


「おじさん、もしかしてテイマーですか?」


「えぇ……」


「へぇー、珍しいですね」


「そうなんですかね……」


「そうですよ。それにしてもかわいいですね! その子!」


「きゅうううううん」


 フェアリー・スライムはまんざらでもなさそうであった。



 ◇



「って、おじさん、どこ行くんですか? そっちは出口じゃないですけど」



「え……? ゾウですが……」


「ゾウ!? ゾウってレベル50の?」


「え? そうですが……」


「お、おじさん……失礼ですが、ゾウってこのパークで一番、強いってご存知ですか?」


「あ、そうだったんですか……」


 ジサンは知らなかった。ルィからはただ、ゴリラ⇒キリン⇒ゾウの順番で倒すとしか聞いていなかったからだ。


「レベル50っていうと、強さ的には中位の魔公爵くらいありますけど……」


「あ、それは知ってます……」


「えっ? それに一人で挑むんですか?」


「い、いや……二人と一体ですが……」


「あっ……失礼……」


 ツキハはサラとフェアリー・スライムをカウントしなかったことを詫びる。


「……」


「し、失礼でしたが、やっぱり危険だと思います……」


「危険は承知です」


 レベル的には安全圏ではあるが、ゲームとはいつ何が起こるかわからない。


 そういう意味では常に危険ではあるとジサンは考えていた。


「それでは……」


 ジサンはツキハが暗にやめた方がいいと言っているのは何となくわかったが、今更、引き下がるわけにもいかなかった。


「わ、わかりました! 行ってもいいです。私にそれを止める権利なんてありませんし」


(…………)


「だ、だけど、せめて私も行かせてください!」


(……え?)


「それはちょ……」


「お願いします! ここで行かせて、もしものことがあったら、私、悔やんでも悔やみきれません」


(……)


 強き者とは惹かれあうものなのか……


 ジサンが組んだ初めての真正の人間のパーティメンバーは超有名プレイヤー月丸隊の勇者:ツキハであった。

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