会いたい

七瀬モカᕱ⑅ᕱ

会えるまで

 懐かしい夢をみた。それは、私が小学生だった。校庭の端の平均台の上に腰掛けて、ぼんやりとジャングルジムに登っている友達を眺める。


 しばらく眺めていると、斜め後ろから声をかけられる。


『遊ばないの?』


『....』


『あっ、びっくりしたよね。ごめん....。おはよう』



 そう言って、その子は優しく微笑んだ。私は少し顔を上げて、その子の顔を見る。その子の顔は、クレヨンで雑に塗られたようにモヤモヤとしている。私は声も出せずに、モヤのかかった顔を見つめ続ける。しばらく見つめていると、視界が急に歪んでくる。

 私は酔いそうになるのを堪えながら、ふとこれが夢だったことを思い出す。


 ・・・そうすると夢が終わる。


「.....」


 目を開けると、そこは自分の部屋。時計の針は、午前3時半をさしている。


「またか......」


 エアコンの切れた蒸し暑い部屋の中で、私は考える。私があの子に対して持っている気持ちは、幼さから来る【like】なのか。それとも、恋愛的な意味の【Love】なのか。


「好き.........か」


 呟くように口に出してみても、答えは分かるはずもなくて。私はただ、片思いを歌う歌詞に自分を気持ちを重ねることしかできないでいる。


 そして私は、一番口にしてはいけないことを言ってしまう。


「ばーか」


 最後に会ってからもう何年も経っていて、何度も何度も忘れようとした。同じクラスの友達と恋バナをしてみたり、同級生の男の子を好きになりかけたりもしたけれど.....やっぱりどこかで『あの子の方が....』となってしまう自分がいる。


「好きだよ.....っ....好きなんだよ......っ」


 今だって、少し考えるだけで涙が溢れてしまうくらいなのに。もう何年も会っていないのに、たまに私の夢にやって来てこんなにも私を苦しくさせてしまうあの子は、本当にずるいと思う。


 夢だけじゃなくて、現実でも会いたくなってしまう。そしてまた、苦しくなる。あの子を好きになってから、今までずっとくりかえしてきた。


「忘れさせてよ.....っ、もうやだ......痛いよ」


 大人になってしまえば、子供の頃のよく分からない【好き】なんて忘れてしまうか、笑い話にでもなると思っていた。だけど、そうじゃなくて。


「会いたい......なんで会えないの....っ?」


 むしろ大人に近くなるにつれて、痛みが増していった。あの子が今どこで、何をしているのか。それさえも分からない。少しでも分かれば、すぐに手紙でも出したいのに。


 部屋にカチカチと響く時計の針の音が、あの子と再会するまでのカウントダウンならいいのに。と、子供っぽいことを考えてしまう。


 あの子と会って、たくさん今までのことを話して.....また昔のように頭をなでてほしい。好きは伝えられなくても、ほんの短い時間でもいいから。


 もう一度だけ、会いたい。

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会いたい 七瀬モカᕱ⑅ᕱ @CloveR072

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