3 秘密

 村に子供が減った時も、私はなんの変化もなく暮らした。ただ、子供を亡くして悲しむ女性に、「あんたなんか化け物よ!」と水をかけられた。私は呆然と立ち尽くすしかなかった。

 おばあちゃんは、

「気にすることないよ」

と言って、違う話題を話したがった。何か隠されている。そう私は感じた。

 ある日、こっそり、おばあちゃんの部屋に入った。おばあちゃんは近所の集まりに参加して、私はお留守番だったからだ。しばらく帰ってこないと知っているのに、変にドキドキしてしまう。

私はあの白い紙を探そうとした。気がつくとポケットに入っていた、あの紙だ。

 ふと、壁に黒いものが這っているのに気がついて、私は目を見開いて固まった。

 それはクモだった。私はクモがとても嫌いだった。同じ虫のはずなのに……でもクモは8本足だ。昆虫とは違う。

「——!」

私は叫ぶことすらできないまま、部屋から逃げ出した。しばらくして、またそっと入っていく。クモはどこかに行っていた。私は余計、どこに行ったか不安になって、落ち着かなくなった。

棚に飾っている本を開くと、その後ろにあの時の紙が、黄ばんだ姿ではさまれていたのを見つけた。私は一度後ろを振り返ると、それを開いた。文字はかすれていた。そして、読めなかった。こっそりと元の位置に戻す。

おばあちゃんは何を隠しているのだろう。もどかしさと罪悪感にかき乱されながら、何食わぬ顔でまた生活した。

 それからしばらく経った日、井戸に行って水汲みをしていると、見知らぬ女性が立っていた。白い帽子と白いダッフルコートを着た、気品がある女性だ。どこかで出会ったことがあるような気持ちに襲われたけれども、思い出せなかった。

「道端で摘んできたの。あなたによく似合うと思うわ」

当たり障りのない挨拶の代わりに、青い花を一輪くれた。私はその美しさに見とれて、キスをするように香りを楽しんだ。

「もし耐えられないと思ったら、そのチョーカーを外しなさい」

女性は紫のチョーカーに視線を落とす。私は驚いた。

「まだ外したことがないんでしょう?」

「どうして知っているのですか」

相手は、「知っているから」と答えた。答えになっていないと、私はもどかしく思った。

「外すと……どうなりますか」

「あら、紙に書いておいたはずだけど」

「紙?」

「ポケットに入れておいたでしょ?」

さも当たり前のように言った。あの紙だ、と私はすぐに思った。いつの間にかポケットに入っていた、文字の綴られた紙。あの紙を書いたのは、この女性だったのか。

「あなたはどなたですか」

秘密を知る彼女の瞳が、鏡のように私を見つめていた。

女性は一度も笑わず、気取った表現で、こう言った。

「聞かない方がいいかもしれないわよ。秘密は秘密。誰も知らないから、微笑みつづけられることもある。あなたの秘密を抱えている人がいるのなら、魔法の解けるその日まで、私も黙ってあげる」

旅の女性はきびすを返す。

「あ……待ってください」

私は呼び止めたが、彼女は去っていった。ゆっくりと歩く後ろ姿が印象的だった。彼女は何者なのだろうか。もしかしたら、魔女なのかもしれない。

 私は追いかけず、立ち止まったままだった。触れるのが怖かったのかもしれない。これ以上、自分の秘密に踏み込むのが、怖かったのかもしれない。

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