第61話 人の為に尽くせ。目の前の大切な人ぐらい、守ってやれよ。
心のどこかで『このままでいいのか』という、感情が溢れていた。
どうしようもない、この感情をどこか、心の隅に押し寄せている自分がいる。
それが気に食わない。
だけど、自分に逆らえない。
「やめて!!」
『守りたい笑顔がそこにある』なんて、アニメやドラマみたいなことは言わない。
自分がただ、平和に暮らしたいだけ。
誰かに感情移入できる、いや、してもいい身でないことぐらい承知している。
「やめろぉぉ!!!!!」
俺の足が、夏美の顎に直撃。一瞬にして、倒れ込んだ。
そんな、夏美には見向きもせずに、俺は机に括られているロープを噛みちぎろうとした。
「私の物になりなさい!!!!」
起き上がり、俺のことを全力で蹴ってくる。
全身に激痛が走る。
「子供作ってやる!子供作ってやる!」
泣きながらに、そんなことを言って俺の服を脱がそうとする。
そして、俺は下着姿にさせられ、ギリギリのところで耐えている。
どうしようも出来ない美鶴は、呆然と涙を流しているだけだった。
ーーー泣かないで。
俺がそう、人に言える立場ではない。
昔してきたこと、人への言動、そして性格。
全てに難がある俺が、そんなことを言える権利はない。
だけど、、、。
『感謝を求めるな、感謝を求める奴こそ、人間の弱みが顕著に出ているやつだ』
父の言葉だ。
交通事故にあった、最後の瞬間まで、意識が朦朧としながらいっていた。
『俺はもう逝くだろう。だからせめて、お前は人に尽くせ。大切な人だけでもいいから、人に尽くせ。過去の行動は、今の行動でなんとかなるものはなる。気にするな、負け腐るな」
絶対に負けない。
俺の心に火がついた。
全力で抵抗し、その隙にロープを噛みちぎる。
それの繰り返しを続けた。
相手の体力は底なしだ、俺よりも体力を温存できる立場にある。
俺の顔面は傷だらけだった。
鼻血は大量に出ている、体の至る所が傷付いている。
夏美もそうだった。
「ねぇ、、、もうやめようよ、、、幼馴染で、支え合ってきたんでしょ、、、!」
突然、美鶴が叫び出す。
「もう、争ってるところなんて、見たくない、、、!楽しく、明るく生きたいの!」
夏美が何かを感じ取ったかのような、顔をする。
そして、俺も走馬灯のように過去の記憶がフラッシュバックした。
★☆★☆★☆★
俺と夏美の付き合いは長く、3歳の頃からの知り合いだった。
近所の公園で知り合い、そこから仲良くなった。
小学校も同じで、よく中学年までは遊んでいた。
【思春期】と呼ばれる期間に入ってから、関わりが薄くなりはじめ俺たちの関係に亀裂が入った。
その頃から、夏美の行動は怪しくなり始め、学校ではよからぬ噂が後を絶たなかった。
同時期、俺は当時、学校の人たちからも信頼が厚く、学校生活になんら支障をきたすことはなかったのだが、周りからの過度な期待が強まり、だんだんと学校を避け始めた。
『あいつなら、やってくれる』
雑用などを、俺に頼むようになってから、俺は『都合のいいやつ』となり、高校は中高一貫だったが、受験をして、今の篠原に入った。
その時に隣にいて、ついてきてくれたのが、夏美だった。
本当に、なぜ噂が回っているのかもわからないぐらい、普通の女の子って感じだった。
今のようになるなんて、検討すらつかなかった。
「あ、ごめん。今日、用事あるから」
度々断る、友人からの遊びの誘い。
そして、いつしか、学校を遅刻してくる日も多くなった。
彼女の人生は、高校から激変した。
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