第19話 赤信号、みんなで渡れば怖くない理論。

「SNS担当大臣になってほしいのは分かりました。でも、来年には生徒数が1.5倍は絶対に無理です」


「わかっている。それでも良いから生徒会に入ってくれ」


「考えておきます」


「いや、今決めてくれ。時間がないんだ」


頭を抱える俺。

ある意味、彼女を取るか、学校をとるかの究極の選択だと思っている。


一応、美鶴ちゃんに相談しておいた方がいいよね、、、?


すかさず、Tmitterを開く。

そして、DMを開き、メッセージを打ち込んだ。


『生徒会に入れって言われてるんだけど、配信の裏方とかもあるしダメだよね?』


10秒後には返信が返ってきた。


『別に入っていいよ。配信時間を夜にすれば解決するでしょ?あと、和也くんと一緒にいる時間増やしたいから、私も生徒会入る』


『え?いや、それは無理だと思うけど』


そう、今まで予想外のことを起こしてきた美鶴。

俺も正直無理だとは思っていない。


「俺、生徒会入ります」


「お、じゃあ今日からよろしくな」


「よろしく、和也」


俺は荷物をまとめて、教室に帰ろうとする。

一時間目の授業ギリギリだったので、俺は少し足を早めた。



★☆★☆★☆★



「朝から騒がしかったな」


「生徒会入れとか言われるの初めてだよ」


「まぁ、大体の奴はそうだな」


現在は昼休み、場所は中庭。

昼食は教室で食べるのが基本とされているが、正直そんなルールはなく、暗黙の了解でそんなルールになっているだけだった。


しかし、空気を読めない俺たち二人は昼休みになると、堂々と教室を出ていく。

クラスメイトの視線が最初は気になるが、慣れれば正直どうってことない。


【赤信号、みんなで渡れば怖くない理論】で成立している、俺たちのルーティーンであった。


「結局生徒会入るのかよ」


「入るよ」


「マジか、和也。生徒会は激務で有名な場所だぞ?好き好んで入るやつなんて、そうそう居ない。自分から入りに行くやつなんて、正直ドMか何かだと俺は思ってるぐらいだ」


「そこまで言う、、、?」


激務だと言うことは聞いていたが、今それを思い出して後悔した。


でも、SNS担当大臣だから、、、多分、、、大丈夫、、、!


どこからか湧き出る謎の自信と期待に身を委ねきっている、俺なのであった。


美鶴ちゃんの配信のことも考えて、早めに帰るように心がけよう!


我ながら良い心がけだ、と感じだ。

今まで人生で、人の事なんて考えたことがなかった俺が、人のことを考えるとか、前例がない話だった。


まずは基本の『キ』だと思う行動を心がけるようにしよう。

一歩一歩、着実に。


「そういえば、この前の握手会行ったの?」


「あぁ、もちろん。グッズも全部ゲットして帰ってきたからな」


「流石」


「まぁな、そんなに褒めても何も出てこないぞ?」


「キモ」


「照れる」


「キモ」


誰もいない中庭で、陰キャ男子高校生二人が何キモいことを話しているという、だいぶカオスな状況が生み出されていた。


「流石、北条君達。あの視線の中をくぐり抜けてまで外で食べてる」


「あぁ、会長。俺、生徒会入ったのでよろしくお願いしますね」


「それはもう聞いてるから、よろしく。まぁ、私は大反対なんだけどね」


「なんで、そんなこと言うんですか」


「何故って、自分の行動を客観視したら、すぐにわかるじゃない。学校にきたら、まず初めにスマホをいじる。ゲームのログインボーナスを学校で回収する。授業中には教科書の裏で、折り紙してるって聞いてるわよ。普通に考えて、生徒会のメンバーとして、なっていないというか、情けない」


「そんなに言わなくても良いじゃないですか。隼人くんも、授業中に内職してるって聞きますよ」


「何してるのよ」


「音ゲーのAP埋めです」


「そこまできたら、もう尊敬に値するわね」


自分でもわかる、なんて馬鹿げた話をしているのだと。

ちなみに、隼人くんがAP埋めをしているのは俺自身の目で見たので間違いない。

教科書の後ろでスマホを堂々と出して、めちゃくちゃ真剣にプレイしていた。


「じゃあ、放課後生徒会室で」


「分かりました」


俺の生徒会ライフが幕を開けたのであった。

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