第16話 新メンバー加入

「狢の春之進さんとその娘のマミさんです」

「よろしくお願いします」

「お願いしまーす」

 太郎坊が狢の親子を紹介する。

 それを聞いているのは春之進の世話を任された清十郎とマミの世話を任された栄子、そして美澄と美也だ。

 2人は昨日、従業員用の寮に泊まって、雷鳴坊の霊力を分けてもらい獣耳を隠すことができた。今ではごく普通の小太りの中年男性と、栄子より少し年上の少女という感じだ。

「じゃあ、仕事は山盛りじゃけぇの、さっさと行くか。まずは風呂掃除じゃけ」

「はい!」

 そう言って清十郎が春之進を連れて大浴場の方へ連れて行く。

「私たちも行きましょうか?」

「そうですね」

「行こう行こう。マミちゃんこっち。まずは7階からね」

「はーい」

 美也に促されて美澄たちも持ち場に行くことにした。

「美澄さん」

「なに? 太郎さん」

 みんなで7階の部屋のベッドメイキングに行こうとした美澄を、太郎坊が呼び止める。そうしてこっそりと呟いた。

「身体、大丈夫?」

「大丈夫よ、あれくらい」

「だって無理させたから」

「あらあら、新婚さんはお熱いことで」

 太郎坊の言葉を聞いた美也がにまにまと笑う。なにを考えているのか分かって、美澄は慌てて否定した。

「違っ! 昨日夜にも素振りを見せて欲しいって言われて、素振り100回やっただけです!」

「あらあら……坊ちゃんなにしてるんですか」

 一転して呆れ顔の美也に、今度は太郎坊が笑う番だ。

「だって美澄さんの素振り姿素敵なんだもの」

「左様ですか」

「今日のお昼も一緒に食べようね、美澄さん」

「いいけど」

「じゃあ約束」

「うん、約束。それじゃあもう行くね」

「いってらっしゃい」

 太郎坊に見送られながら、4人で7階まで行くためにエレベーターホールに行く。

「マミちゃんはいくつなの?」

 エレベーターを待つ間に、美澄がマミに聞く。妖怪に年齢を聞くのは意味がないことは栄子で十分承知しているが、なんとなく会話の糸口が掴めるかと思って聞いてみた。

「高校卒業したばかりっす」

「妖怪ってみんな何百歳なのかと思ってた」

「生まれたてっすね、アタイは」

「そうなんだ」

 エレベーターが開いて中に入る。

 初めての仕事に緊張しているかと思ったが、マミは笑顔で楽しそうだ。

「アタイ、就職活動も霊力不足で満足にできなくて……こうやって働けるが嬉しいっす」

「じゃあアタシがベッドメイキングのことしっかり教えてあげる!」

「頼みます!」

 精神年齢が近いせいか、栄子とマミはエレベーターが7階に到着するまでに2人は仲良くなっていた。

「はい、じゃあ栄子様のベッドメイキングレッスン! まず古いシーツをはがして、新しいシーツに替えるだけ。もちろん枕カバーもだよ」

「はい!」

 狢というのがそうなのか、マミがそうなのか、手際よく枕カバーをはがして、シーツもはがしていく。

 それに栄子が喜ぶ。

「マミちゃん、上手!」

「ありがとうございます。お母ちゃん死んでからずっと家事やってたんで」

「そうだったんだ」

「だからアタイ、玉の輿に乗ってお父ちゃんを楽させてやりたくて……若奥様! どうやったら玉の輿に乗れますか!?」

「え、私、玉の輿に乗ってるんですか?」

「お、おそらく」

 思わず美也に聞いたら、困ったような顔をしてそう答えれられた。

「だってホテルの若奥様っすよ? 玉の輿じゃないっすか。あんなにイケメンの旦那様いて」

「イケメンはまぁ、そうね」

 確かに太郎坊は端正な顔立ちをしている。イケメンと言われるならそうだろう。

 それには美也も栄子も賛同するのか大きく肯いていた。

「確かに坊ちゃんはイケメンです」

「うんうん」

「どうやってオトしたんすか? あんなイケメンな旦那様」

「え、うーん……狸を竹刀で叩いたから?」

「なんすかそれ」

 ぽかーんとしているマミに栄子と美也があの狸の柴助を竹刀で殴打事件の詳細を語る。

 その間もマミの手は止まらない。

 ベッドメイキングの従業員としてはかなり優秀なのではないだろうかと思いながら、美澄はあの日のことを話す2人の会話を聞いていた。

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