蛇足の補足 むかしむかし、私を捨てた血縁上の父との再会

 休日の昼下がり。

 喫茶店で私と、テーブル越しに相対している男の人を目の前にしても、自分でも、驚くほど何も感じなかった。

 もう少し、自分でも、いろいろと――憤りとかを、感じるのではないかと思っていたのだけれど。


 母と、岡崎さん、今のところは、おじさまと呼ばせてもらっている―――が再会した時に、正直、怒る気力も起こらなかった、と零していたのを思い出す。

 ……あの人も、初めのうちはこんな心境だったのだろうか?


 ただ、この人と私は、母とおじさまのようにはならないだろうし、なりたいとも、思えないのだけど。

 

「……まさか、本当にいらっしゃるとは、思いませんでした。

 とりあえず初めまして、でいいですよね。

 私の名前は……憶えていないのでしょうし。

 尾川おがわ結衣ゆいと申します。

 おそらくはこの場限りの短い付き合いになるとは思いますが、よろしくお願いしますね」


「―――――――?」


 それでも、私は極力事務的に最低限の礼節くらいは保とうとした――が。

 眼前に座っているそれが返してきた言葉に……

 心のなかで、深く、はあああ、と、大きくため息をついてしまう。

 事前に伝え聞かされ、分かってはいたことだけど……本当にどうしようもない人間であるらしい。


 私の……血縁上の、父親は。


「貴方のやった事を考えれば、至極当然の対応ではないか、と思うのですが。

 ……いえ、何と言いますか。

 よく、私の前に顔が出せたものだと、正直驚いています。

 まだ当時高校生だった母を孕ませた挙句、卒業した後も、籍も入れず……

 金だけ絞りとって、赤ん坊だった私共々、捨てて逃げようとした男に今更父親面されましてもね」


 ……どちらかと言えば、自分は気の長い方だと思っていたのだけれど。


「―――――――!」


「……はあ。あの時の事は仕方なかった、ですか。

 それで、これから償っていく心算つもりと……いえ、結構です。

 あの、まさかとは思いますが。私が、何も知らないとでも?」


 どうしよう。この男が宣っている戯言を耳にしていたら……

 なんというか、もう、帰りたくなってきた。


 もう少しは我慢しないといけないのだけど……これが、最初で最後だと、自分に言い聞かせて、耐える。

 心底、うんざりとさせられながらも、おそらくは隠せていたつもりだったのだろう、事実それを告げる。


「……確か、今借金をされているとか。

 金融業の中でも、一際質の悪い……

 大分拙いところに手を出してしまったようですね。

 今の貴方にお金を貸してくれるところが、それくらいしかなかったのでしょうけど」


「――――――――――!?」


 ここで私に拒絶されたら、もう後がないからだろうか。

 私が発した一言に、露骨に顔が引きつり、支離滅裂な弁解の言葉をぶつけてくる。

 一応、血縁上は父……である筈の人間が、必死に言い募る姿を見て感じたのは、怒りを通り越して、見苦しいな、という醒めたものだ。

 当たり前と言えば、当たり前だけど……そもそもが、一緒に過ごした記憶などないのだから、この男に情など感じる筈もない。


「ええと、何故知っているか、ですか。

 いえ、お世話になっている親切な方が、ついでに、ということでいろいろ教えてくださったんです。

 例えば……母の外にも、貴方が昔、あちこちに手を出していた人達の所を回って、お金の無心をしようとしていたとか」


 とはいえ、実際の所、これは上手くはいかなかったようだけど。

 ……誰も彼も、今現在はこの男の所為せいで身を持ち崩していて、そんなものに応える余裕などは無かったようだ、と、聞いている。


 それを教えてくれたのは……友人の、皐月さつきさんの紹介で、母の探し人を見つけてくれた、私立探偵。

 僅かな、手がかりとも言えない情報だけで、居場所だけではなく、生活パターンを含めた詳細な情報を調べ上げて、渡してくれたので……

 おじさまのところにまで、辿り着く事ができた。


 あの時は正直、よくもここまで調べる事ができたものだ、と驚いたのをよく覚えている。


 ただ、皐月さんからは、あまりいい顔はされなかったし、私もついていきますから、とがっちり脇を固められて、おじさまを牽制するような態度を取られたのは、ちょっと困ったけど、それ以上に、嬉しかった。

 ただ、純粋に……私の事を心配してくれているのが、はっきりとわかったから。


 後で聞いた話ではあるけど……おじさまもあれには苦笑いするしかなかったそうだ。


「私の事もそうですが……今更、自分が捨てた相手に縋りつけるものだと思います。

 いえ、貴方の本音でいえば……利用する、くらいものなのでしょうけど」


 かつての母の様に、水商売に身を堕とし、そのままどっぷりとはまり込んで、行方が知れなくった人。

 似た様な経緯で、ホストにハマり込んで、身を持ち崩したまま、今も体を売っている人。

 捨てられた後も、似たような男ばかりにひっかかり続けた挙句……自分の子供を、手にかけてしまった人。

 

 あの人は、流石に言葉を濁してはいたけれど、大体が、ろくでもない事になっていた様で……

 最初に耳にした時は、かなり嫌な気分になったものだ。


 いや、大半は、結局の所……自業自得、なのだろうけど。

 経緯はどうあれ、このろくでもない男に、一時とはいえ身を預ける道を選んだのは、彼女たち自身だ。

 だから安直に、その末路には同情しない。してはいけない。


 女性、というだけで「可哀相」などと肩を持ってしまうのは……きっと、当人の為にも、なりはしないだろうから。


 ……それを思えば、母は恵まれていたのだろう。

 自分の愚かさを顧みる機会を与えてくれた人に出会えて、もう一度、見放すことなく性根を叩き直してくれた両親(私にとっては祖父母だが)がいて。

 もう一度だけ……やり直す機会をくれた、幼馴染おじさまとも、再会できた。


 つくづく―――助けてくれる、手を差し伸べてくれる誰かが居る、というのはありがたい事なのだ、と思う。


 私にしても、母が仕事で家を空ける事が多かったので、祖父母には大分お世話になっているし……

 皐月さん(そろそろ名前で呼んでくれてもいいんですよーとは、言ってくれてはいるけど)のおかげで、学校でも、大分楽しく過ごせている。


「ああ、それとですね。

 貴方が、母と今になってコンタクトを取ろうとして、まるで相手にされずに突っぱねられたとも、聞きましたが。

 ……それで、まだ、中学生の私にまで接触してきたのですか?」


「―――――――――!」


 ……まあ、そんなところではないかと、思っていたけれど。

 どうも、私を手懐けた上で、母から金銭を掠め取ろうと考えていたようだ。

 もはや取り繕う気もないのか、暴言交じりで厚かましい要求をくりかえす目の前のそれに辟易としながら、とどめの一言を告げる。


「どの道、今更何をしたところで意味はないと思いますよ。

 母は……来月、結婚するんです。

 ええ、貴方なんかよりもずっと誠実な方ですよ」


「―――――――――!?」


 結婚それを考え始めたきっかけは、おじさまが転職に成功して、今ほど残業しなくてもすむようになり、ほんの少しだけど収入が上がった事、だったらしい。

 母は収入そこについては、あまり気にはしていなかったようだけど……

 それでも、おじさまの顔に活力が戻り、二人で一緒に過ごせる時間が増えたことは、素直に喜んでいた。


 私の手前、決して口にする事は無かったけれど……

 母が、過去の過ちを、ずっと悔いて、自分を責め続けていたのは知っている。

 そして……若く、最も魅力のあった時間を、おじさまと過ごせなかった事に、初めてを捧げられなかった事に、強い負い目を感じていた事も。


 ……正直に言えば、人生経験の乏しい十代前半の私には……

 裏切りはさておき、最後の下りは……今一ピンと来なかった、のだけど。


『―――男の人にとってはですね。

 過去に自分以外の誰かに体を許していた、若い時間を浪費してたってぇのは、突き付けられると、すっごいきっついものなんですよ、ええ。

 今の結衣ちゃんからは、大げさというか、バカみたいに思えるかも知れませんけど……そーゆーものなんです。

 だから間違っても、その辺は、迂闊に突っついちゃダメですよ?

 冗談抜きで全部ひっくりかえっちゃいますからね』


 ――と、忠告してくれたのは、皐月さんの弁だ。


 ……あまり考えたくない事ではあるけれど。

 目の前の男に、母とそういう時期があった、という事を考えると――少しは、あの時言われた事の意味がわかる気がする。


 例え、それがなければ、自分がこの世に生まれてこなかったのだとしても、嫌なものは嫌なのだ。


 そう言った事を踏まえて考えると、あの忠告はやはり、正しいものだったのだろうけど。

 私と、同い年の筈なのによくもそこまでわかるものだ、と思う。

 ……耳年増、というやつなのだろうか?

  

「……誰と、ですか?貴方にそこまで伝える必要性を感じませんが。

 何をしでかすか、分かったものではありませんしね」


 式は身内だけの、ささやかなもので済ませるつもりで、私や、二人目の事もあるから、あまりお金はかけずに、と言っていた。

 母と、おじさま……いや、そろそろ、父と呼ばせてもらっても、いいのだろうか。


 なんとなしに……私の馬鹿げた提案を、あの人にデコピン一発で諫められた事を、思い出してしまい、額をさする。


『……きっと、君は俺よりもずっと頭がいいんだろうな。

 多分、今の俺だと致命的な所まではいかないだろうとか……全部計算してやってるんだろ?

 まあ、実際間違ってはいないし、効果もないとは言わないよ』


 何処か、ばつが悪そうに……それでも私から目を逸らすことなく。


『だが、それでもだ、そういうのは、ちゃんと好きになった、近い年の真っ当な男の子とやったほうがいい。

 何かの拍子に歯車が狂って、行きつくところまで行ってしまう可能性だって零じゃないんだ。

 なあ、わかってるか。

 ―――そうなったら、きっと地獄だぞ。決して誰も、幸せになんかならない』


 私を、正面から𠮟りつけてくれた……その時に。

 この人が本当の父親だったら、よかったのにな、と思ってしまったのは――まあ、ここだけの話だ。


『なんとなく、だがね。自分でも、どの口で言ってるんだと……

 漠然と、言えた義理じゃない……と感じてはいるんだ。

 だから、迷ったんだが。それでも、多分……言っておかないと駄目だと、思ったんだ』


 また後悔するよりはマシだからね、と記憶の中の、おじさまが苦笑いするその姿と、今現在――目前にいる、これ・・と比較すると、よりそれが際立ってしまう。


 ……いつかは、隠すことなく、あの人へ、それを伝えられる日が、来るといいのだけど。


 ちらり、店内の時計を確認すると……もう、時間を稼がなくても、いいようだ。

 

「……そろそろですか。いえね。

 貴方がお金を借りている方に、予め、ここに呼び出された旨と時間を添えて、伝えてあったんです。

 ですから、そろそろこの辺りに到着する頃合いかと。

 人目がありますから、店内にまでは入ってこないと思いますけどね。

 ……呆けている暇があるなら、今からでも、逃げたほうがいいのでは?」


「――――――!」


 私の言葉に、更に激昂して、人目もはばからず――眼前の男血縁上の父が立ち上がった。


 ……少しばかり、挑発しすぎたらしい。

 この男には、私が憤る価値さえない、と思っていたのは、嘘ではないつもりだったのだけど。

 やはり、心のどこかに積もっていた、この男に対する、負の感情のようなものがあったのだろう。


 結局――私も、子供だった、という事だろう。最後の最後で……ボロが出た。

 自覚できていなかった、それに今更ながら後悔を覚えるが……その僅かな思索の間にも、時間は動いていて。

 

 そいつが、怒りのままに、私の胸ぐらを掴もうとした、次の瞬間。


「―――その辺にしておけ。公衆の面前でなにをやってるんだ、あんたは。

 やらかした事を考えれば、怒れた義理でもあるまいに」


 その手を掴んで止めたのは――先に述べた、私立探偵。

 上質の生地だけど、大分くたびれたスーツを身に着けている、精悍な顔立ちのその人は……門崎かどさき士郎しろうさん。


 流石に、一人でこの男血縁上の父と会うほど、無謀でもない。

 事前に相談した上で、護衛がてら、ついて来てもらえる事となり、後ろの席でずっと待機してくれていたのだけど……


 ただ―――一体、何時、この男血縁上の父に手が届く位置まで移動していたのだろうか?

 まるで、その過程が見えなかった。


「―――――――!?」


 それは、この男血縁上の父も同じだったようだ。

 ……状況が理解できなかったのか、あんぐりと口を開けて、少しの間呆けていたが、直ぐに苦悶の声を上げる。

 かなり強い力で、腕を掴まれているようで、振りほどこうにも振りほどけず、額に脂汗を浮かせて、喚き散らしている。


 門崎さんが腕が立つ人だ、とは皐月さんから聞いてはいたけど……

 どうやらあれは、惚気の類ではなく、掛け値なしの評価だったらしい。


 ぱっ、とこの男血縁上の父の腕を離し、怯えさえ見せているそれに、門崎さんは告げる。

 

「店にも迷惑だしな……警察呼ばれる前に、その娘の言う通り、さっさと逃げたほうがいいんじゃないか?

 もう、他の事を気にしてる余裕なんぞあんたにはないだろう」


 何かを口にしようと、していたようだけど、結局言葉にならず――あの男血縁上の父は、脇目もふらずに、逃げ出した。

 必死に喫茶店から去っていく、その後ろ姿を見て――ああ、終わったな、と胸中で、独り言ちる。


 敢えて口にはしなかったけれど、件の金融業の人には、三十分ほど早めに時間を伝えてある。

 もう喫茶店の付近を、そちらの人員が固めているんじゃないだろうか。


「すみません―――いろいろとお手数をおかけして、申し訳ありませんでした、門崎さん」


 ……改めて、門崎さんに頭を下げる。

 今回の話だけではなく……この人が居なければ、正直どうなっていたかわからない。


「気にしないでいい。どうせ、乗り掛かった舟だ。

 ……君の母にしても、もう仕出かした過ちのツケは、十二分に支払った筈だしな。

 それを、見て見ぬふりをする、と言うのも後味が悪いし―――何より、咲蓮あのバカにも頼まれた。

 あいつに金を貸した連中とも話はつけてあるし、君らの人生にあの男が関わってくることは――もう、ないだろう」


 そうですか、と、ほっと一息つく。

 とりあえずは―――ひと段落、といった所だろうか。


「いやー……所長、こんな美少女捕まえて、バカ呼ばわりは酷いんじゃないですかね、バカ呼ばわりは。

 ほら見てくださいよ、結衣ちゃんだって反応に困ってますよきっと」 


 会話に割って入ってきた……聞き覚えのある、声の主。

 後ろの席から、ひょっこりと顔を覗かせたのは……

 よく見知った金髪碧眼の、同い年のハーフの少女で―――私の、友達。


 皐月さつき咲蓮されんさん。

 門崎さんと一緒に、付いてきてくれていたのは知っていたけれど。


「いや、お前に呆れてるんだろうよ。前の時もそうだっただろ。

 それに、学校だと猫被ってたそうじゃないか。

 いつも、聞きたくもないくっそしょうもない自慢話してるのは何なんだ」


「え、何です?嫉妬ですか、可愛いですねー。

 そんなだからいい年こいて、童貞拗らせるんですよ。

 ねえ、結衣ちゃん」


「……いえ、私にふられましても」

 

 つい、投げやりな言葉で返してしまったのは、まあ……仕方がないと思いたい。

 

 気安い関係、といえば、聞こえはいいけれど……

 言い方は悪くなるが、会話のレベルが一気に下がったというか、何というか。


 特に、皐月さん。

 やっぱり、学校でいる時と違って―――アグレッシブさが五割くらい、増しているような気がする。


 彼女は元々、社交性が高い方だし学校でも良い意味で気安い、有名人。

 それでも、ここまで、はっちゃけてはいなかったような。

 まあ確かに、本人が言った通り、凄く綺麗な事もあって――特に男子からは大変な人気なのだけど。


 でも、自分で、美少女って……うーん。

 

「あの、今更ですけど。お二人ってどういった仲なんですか?

 血縁関係はない、と伺っていましたが……

 もしかして、その、口にするのが、難しいような男女の関係、とか」


 つまり……年齢差を考えると、プラトニック的な?

 何とはなしに、浮かんできた疑問を口にしたのだけれど。

 我ながら、自分で言っていて、これはないな、とも思う。


 実際、露骨にげんなりとした表情で、門崎さんは私の邪推を否定する。


「冗談にしては面白くないな。そんな事実はないよ、一応言っておくけど。

 こいつは中学生だ。普通に犯罪だし……

 何より、咲蓮このバカが余計、調子に乗るから本当に止めてくれ」


「……やっぱり遥さんに思いっきりフラれたの未だに引きずってるんです?

 まだ、学生時代の話だった、って聞いてますけど。

 いい加減、新しい出会いに進みましょうよ。

 ま、事実関係はさておき、こんな美少女とそういう仲になれたのなら、素敵だと思いません?」


 このやりとりも、いつもの事なのか……

 あーはいはい、と投げやり気味に、門崎さんは皐月さんをあしらい、こちらと、先ほどまで着いていたテーブルにあった伝票をとって、私に向き直る。


「さて、そろそろこっちは本業しごとに行かなきゃらなんからな。

 悪いが、お先に失礼させてもらうよ。

 まず、心配は要らんとは思うがね。

 一応帰りは、咲蓮そいつに送ってもらってくれ。

 ……じゃあ、後は、頼んだ」


 はーいごちでーす、と手を振る皐月さんを見て……

 はあ、と呆れ、大仰にため息をついてから、会計を済ませて、店外へと去っていく門崎さんを見送った後に、気付く。


「あ、私の分も、お勘定……」


「こういう時は社会人っぽく格好つけるんですよねえ、あの人。

 普段は割とデリカシーないんですけど……

 狙ってやってるわけじゃないから、性質悪いんですよねえあれ」


 お礼を言いそびれたと、気付いて呟く私に……

 また会えた時でいいんじゃないですか、とむくれて返すのは皐月さん。


「……あの、皐月さん。

 こういう事を聞いていいものか、とも思うんですけど。

 実際の話……門崎さんとは、どういったご関係で?」


「えー、ここで恋バナしちゃいます?

 まあ……どうなんですかね。

 いっつもあんな感じで、全っ然相手にされてない感じですけどー。

 でもなんか放っておけないんですよ、あの人」


 何かと無茶するし、と、不満ありげにぼやく彼女を見ると、やっぱり惚気られているのだろうか。

 

「……ま、ちょっと昔、私もお世話になった事があるっていうか。

 正直にっちもさっちも行かない所を助けてもらったんで、その縁で、ですかね」


「はあ……成程」


 まあ―――色々ある、ということだろうか。

 最低限の線引きは出来ているようだし……あまり、その辺は私が口を挟むべき事ではないのかもしれない。


 あの様子では、なんというか望みは薄いだろうけど。

 一線は超えない程度に頑張って欲しい。


「それじゃ結衣ちゃん。そろそろ帰りましょうか。

 あ、ついでにクレープでも食べてきません?

 確か帰り道の途中に、美味しい店があったと思うんですよねー」


「……そうですね、折角ですから」


 お小遣いは……門崎さんに奢ってもらったこともあるし、大丈夫の筈。

 さて。それじゃあ帰ろうか。

 

 あまり遅くなると、母と祖父母と……未来の、父に心配をかけてしまうだろうけど。


 でもまあ今はとりあえず――クレープの味を楽しみにさせてもらおうと思う。

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ある結末の蛇足 むかしむかし、幼馴染で好きだった女との再会 金平糖二式 @konpeitou2

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