異世界食道楽

隷香

第1話 召喚失敗?神も驚く異世界転生

「明日も仕事か~」


 夕飯を食べ終えて部屋へ戻り、私は仕事の内容を思い出しながらダラダラとスマホで漫画を読んでいた。

 漫画は好きだ、私を空想の世界へ連れて行ってくれるから。絵があるからよくイメージ出来る。

 ふと部屋にある本棚に視線を移すと、異世界系の漫画が多い気がする。

 やっぱり異なる世界に行って大冒険をするのは憧れる。特に魔物の肉やポーション等の現実世界にないものが、どんな味がするのかなと考えるのは楽しい。


 ここまで来ると皆も薄々感づいているかもしれないが、あえて言おう。

 私はオタクだ。それもイベントに参加したり、キャラのグッツを沢山集めたりしないタイプの非積極的なオタクだ。

 最近の推しは、魔法使いの弟子兼嫁で赤髪が印象的な女の子と、両腕が義手で代筆を生業とする花の名前の女の子だ。


 推し達に囲まれて癒しを補給した私は明日の仕事に備えて寝ることにした。




「...ぅん...。」


 真夜中、トイレに行きたくなり目が覚めた。寝ぼけた目を擦りながらベットから出てトイレに向かう、電気を付けなくてもある程度見えているのでそこまで怖くない。


 トイレから出て手を洗っていると、足元が不自然に明るくなった。


「...なんだ?」


 不審に思って下を見てみると、魔法陣らしきものが浮かび上がり発光していた。

 徐々に光も強くなってきて、まるで結界を張っているように光が昇っていた。


「...これ身体の半分が魔法陣から出てたらどうなるんだろう?ちゃんと召喚されるのかな?」


 私はすぐに、これが異世界トリップものでよくある召喚用の魔法陣だと察した。

 さらに好奇心を抑えられず、魔法陣から身体を半分出すという奇行に走ってしまった。


 光が最高潮と言っても過言では無いほど強くなってきて、それと同時に私の胸も高鳴ってきた。

 その瞬間。


「っう“ぁ“ぁ”ぁ“ぁ”⁉」


 身体を引き裂かれるような激しい痛みと共に視界が赤く染まり、そこで私の意識は途絶えた。




「.........い」


「......なさい」


「起きなさい」


 誰かが私を呼んでいる気がする。ここはどこだ?さっきまで自宅にいたはずなのに、今は真っ白な空間にいる。

 目の前にはこの空間の主と思われる着物美人さんがいたが、今は取り敢えず無視でいいだろう。

 それよりも、まず考えるべきは今の私の姿だ。身体が半分無いのだ。人間が身体の半分を無くして生きていることが有り得るだろうか?

 いや、いきなり真っ白な空間にいることが有り得るなら身体が半分になって生きていることも有り得るか。


 「有り得ないわよ!!」


 着物美人さんからキレのあるツッコミをされたが、まだ無視でいいだろ。

 察するに、ここは死後の世界かな?

 足元に魔法陣が出て、身体を半分魔法陣から出し、引き裂かれるような激しい痛みと共に意識を失う、そして身体の半分だけでこの空間にいる。まず間違いなく死んでいるだろう。


「そろそろわたしの話を聞いて欲しいのだけれど...。」


 着物美人さんが怒気を纏いながら言ってきた。もう無視は出来ない。美人に話しかけるのはコミュ障オタクには難易度が高いが覚悟を決めるしかない。

 私は1度深呼吸をしてから着物美人さんに話しかけた。


 「あの...、私に何かご用でしょうか?」


 「..................。」


 「あの........。」


 「........じゃないわよ」


 「えっ?」


「御用でしょうか?じゃないわよ!」

「貴方が召喚を受け入れたにも関わらず、意図的に失敗させて死亡したからその後始末と今後について説明しに来たのよ!」


「後始末と今後の説明ですか?」

 まさか、関係者の記憶改竄と転生させてくれるとかかな?


「まぁ、概ねその通りよ」


 もしかして思考を読み取れるのか!


「神様だしね、そのくらい当然できるわよ。それより、話を続けるわ」

「まず、貴方は死にました。死因は、召喚用魔法陣の結界外に意図的にはみ出して身体の半分だけ残ったことによるショック死よ」


「もう半分はどうなったんですか?」


「もう半分はある国の王城に召喚されたわ。今頃は王城中大騒ぎね、何せ勇者を召喚しようとしたら身体が半分の死体が呼ばれたんだから笑」


「(笑)は流石に酷いですね。でも悪いことをしてしまいました」


「心配しなくても大丈夫よ。今からその国に転生してもらうから」


「転生という事は、赤ん坊からスタートですか?チート特典って貰えるんですか?」


「召喚と違って世界を揺るがすほどの俺TUEEEEは無いけどね」

「転生はいきなり強力なスキルや魔法はあげれないけど、神であるわたしと話せる分自由に組み合わせを選べるわよ」

「それに、最初から最強で成長の見込めない力より最初は弱くても自分好みに育てていく力の方が楽しいわよ」


「ふむぅ....」

 オタクとしては俺TUEEEEも憧れるが、私としては自分好みに育てていく方が性に合っている。

 それに、メリットとデメリットを上手く使えば色々と面白いことになりそうな予感がする。


「貴方...さっきから妙に感がいいわね」

「その通りよ。何事にも代償は必要なの、例外はないわ」


「俺TUEEEEでもですか?」


「えぇ、あれは世界を揺るがすほどの力を得る代わりに短命で、心休まる時が無く、世界を救っても次の世界の脅威になるわ」


「マジか......」

 危なかった。確かに釣り合っているようだけど、私にはデメリットしかない。趣味に使える時間が無いじゃないか!


「確かに貴方には合わないかもね」

「ところで、貴方の趣味って何なの?オタ活?あたしの世界に2次元の娯楽は魔術書や小説くらいしか無いわよ」


「それも興味深いですけど、1番の趣味は食べることです。オタ活は2番目ですね。」

「元の世界だと食べるにも色々縛りが厳しいんです。絶滅危惧種や保護指定動物とか食べたら捕まりますしね」


「わたしの世界にある全ての生き物は絶滅の心配は無いわよ、リスポーン概念を採用してるから」

「それに素材は世界の発展に繋がるから討伐を推奨してるしね」


 素晴らしい世界だな。まだ見ぬ生き物のことを思うと好奇心とヨダレが止まらない。


「楽しそうなところ悪いけど、このままだと生まれたと同時に魔に侵されて死ぬわよ」

「異世界もので主人公が強い力を持っていることが多いけど、それは魔に耐性をつけるためでもあるのよ」


「っ!?」

 流石に驚いた、ずっと特別扱いだと思ってたから少しへこむ。


「もちろん特別扱いもしてるわよ。こちらの都合で世界を渡ってもらうんだし、すぐに死なれると困るのよ。だから貴方にはこれから欲しいスキルや魔法を考えてもらうわ」

「では、始めましょうか」


「よろしくお願いします」


「どんな力が欲しいか言ってみて。大抵の事はできるわよ」


「不老不死とか出来ますか?」


「それは無理ね」

「まず、不死は世界の理に反しているからできないわ。神であるわたしでさえ不死では無いもの」

「次に、不老はできるわ。完全な不老ではなくて老いるのが物凄く遅いという事だけどね」


「全盛期を長く保つって事ですか?」


「そうよ」


「なるほど」

 不老をベースにして食べた物の力を吸収して自分のものにするとかもできるかな?


「面白いこと考えるわね、できるわよ」


「転生後の性別を変えることは?今は男なので次は女になってみたいです」


「良いわよ」

 

 ・・・・・・・・・・・

 

「決まりました!」


「聞かせてちょうだい」


「不老で高い再生能力持ち、デメリットは痛覚の倍加と再生に使うエネルギーが沢山必要、繁殖能力の欠如」

「性別は女で辺境伯の次女が良いです。魔物が沢山いると嬉しいです」

「五感は最初からはっきりしていて欲しいです」

「鑑定も欲しいです。ただし私が食べ物と判断した上で口に入れたものに限ります」

「食べた物の姿を再現できるようにして欲しいです。デメリットは再現には魔力が必要で大きな再現程大量の魔力を消費する」

「食べた物の魔力を吸収出来るようにして欲しいです。ただし、吸収した魔力は再現にしか利用出来ない」

「食い溜め出来るようにして欲しいです。デメリットは見た目は変わらないけど体重は増える」

「味覚と嗅覚で相手の強さがわかるようにして欲しいです。強いほど美味しそうに思えるが良いです」

「状態異常への耐性をMAXにして欲しいです。デメリットは自発的な睡眠と酩酊は通して空腹は倍に感じる」

「武器を使える才能が欲しいです。その代わり魔法は自分にのみしか使えない」

「以上です」


「いっぱいあるわね」

「まぁ、スキルや魔法は後からでも取れるから足りないようなら頑張って取得してちょうだい。そういえば、貴方のステータスを調べてなかったわ、1度調べないと魂のデータは書き換えられないのよ」

「というわけで鑑定させてもらうわ」


「良いですよ」

 そんな裏事情があったのか


 名前:龍野 咲

 性別:男

 年齢:21

 職業:菓子工場

 HP:100

 MP:-

 称号:異世界召喚に失敗したもの

   神の友人

   食欲を満たせぬもの


「ステータスはこんな感じよ。世界の管轄が違うからそこまで詳しくはわからなかったけど」


「称号すごいですね」

 異世界召喚に失敗したものと、食欲を満たせぬものは何となくついた理由がわかるけど、神の友人はなんで貰えたんだ?


「神の友人は私と話して一定以上の好感度を稼ぐと貰えるわ。効果は、信仰心が無くてもわたしと会話できるのよ」


「結構便利ですね。他の称号も何か効果があるんですか?」


「あるけど、説明が面倒だから後で確認してみなさい。自分への鑑定は産まれた時だけ自動で出来るようにしてあげる」


「お気遣いありがとうございます。そういえば、神様の名前は何と言うんですか?」


「真名は、教えられないし聞き取れないからオルティナと呼んでちょうだい」


「わかりました、オルティナ様」


「では、そろそろ貴方を転生させるわ。次はあちらの世界で会いましょう」

「貴方の未来に神$@*&%の加護を授けます」

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