第21話 7月17日(土)
「小野くんたちはどこに行くと思う?」
「えっと……」
デパートの案内図を前に、僕は戸惑う。
残念ながら僕らは、小野と加納さんを完全に見失ってしまった。
神崎団長をはじめとする応援団たちは、デパート内を上から下へローラー作戦しているらしい。
一方の僕らは、ゲーム感覚で二人の行方を予想する。
だが、我妻でないのだ。僕は二人の趣味趣向(性癖のようなものは知っているが)はあまり知らない。
婦人服、紳士服。スポーツ専門店。あるいは屋上?
可能性はいくらでもある。
ぐるぐると悩む僕の耳元で、花宮さんはささやく。
「当てられたら、いいこと、してあげる」
「うぇ?!」
こそばゆい耳をかばって振り返る僕に、花宮さんはいたずらっぽく笑った。
「早くしないと私が決めちゃうよ」
「ままま、待って、その、ヒント!ヒント使っていい?」
「?いいけど」
僕は慌てながらスマホを取り出す。
プル、ガチャン。
ワンコールもしないうちに相手は陽気に答えた。
『ハァイ、申し申し。こちら我妻梶ですよっと』
「あ、我妻。ちょっといい?」
『いいよ。今ちょうどママの素材の味ドリアで暇してたところなんだ』
「今デパートにいてさ」
『市内の?』
「そう。それで小野くんと加納さんがデパートでどこにいるのか当てなきゃいけないんだ。あ、7階の楽器屋以外でね」
『なにそれ、なぁに面白そうなことしてんだよ』
「我妻の力を貸してくれ。二人はどこにいると思う」
『そうだね~』
「10秒以内で」
『そのまま階段をふたつ下がり、直進したまへ。中田くん。以上だ』
「え、あっ」
ぷつん、と通話は切れてしまった。素材の味ドリアに忙しいのだろうか。
再び案内図をみやる。8階建てのデパート。僕にはあの二人がどこに行くのかとんと見当がつかない。
仕方がない。
「花宮さん、こっち」
「え?!」
僕は花宮さんと共に階段をふたつ下がる。
ふたつ下のフロアは、洋品店が多く入った階だ。どこかの店に、小野たちは入るのだろうか。
僕らは我妻の指示通り、直進する。
「いないねー」
しかし、小野たちの影も、応援団の影もない。
そのまま突き当りのエレベーターホールへとたどり着く。
「そんな」
やはり我妻に頼ったことがいけなかったか。
「残念だったかな?」
花宮さんは笑ってくれた。
彼女の笑顔が見られただけでも僕は……。
ポーン、と音がしてエレベーターが開いた。
「あ!中田くん」
しかし一変、花宮さんは目を見開く。
指す方向に、僕もまた目をむいた。
「お、おまえらっ」
「ふぇっ、あ、なんで」
目の前に、明らかに狼狽する小野くんと加納さん。
ちょうど二人はエレベーターから降りてきた。
我妻の予想は大当たりだった。
「やった、当たったよ!花宮さん!」
よろこぶ僕。しかし、花宮さんはごまかすように笑う。
「あ……」
僕はぞくりと身震いした。
背後の存在に、ぎぎぎ、とぎこちなく振り返る。
「ずいぶんと楽しそうだな。なにが当たって、なにがやったなんだ?中田」
険しい顔の小野が、僕を見下ろしていた。
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