3章 対称証明
第13話 7月15日(木)
早朝の学園。
僕は緊張を落ち着かせるように深く深呼吸した。
まだどの教室も冷房をつけていない。しかし朝はまだ気温が低く、涼しい空気が肺を冷やす。
目の前には音楽室。
目的は小野だ。
小野には昨日の件で礼を言いたかった。
昨日、森林公園で半グレモドキに囲まれたとき、神崎団長と小野率いる応援団が助けに入ってくれた。我妻が呼んでいたのだと後から聞いた。
あのとき不良に囲まれ、辞世の句を詠まなければならない状態だったから、彼らは僕にとっては救世主他ならない。
幸いなことに、あの突発的な抗争は、すぐに警察が駆け付けて収まったらしい。
入院中の不良から虫などの生物の販売の情報が警察に漏れていた、と我妻から聞いた。その関係で目をつけられていたのだろう。
親玉含めた不良たち、半グレモドキは現在警察に厄介になっている。
一方、小野含めた応援団は厳重注意のみで、今日も学校に通って来れている。
不良側に大した怪我がなかったこと、加えて形としては小学生を含む女子を助けたことが応援団への処分が軽くなる決め手となった。
とはいえ、あのとき僕らはそそくさと逃げてしまったのだから、僕はきちんとお礼がいいたかった。
本来ならば最初は神崎団長だろうが、小野のほうが早くに登校しているはず。
応援団と吹奏楽部は、部活の応援などで頻繁にミーティングを行っている。
今朝も我妻の情報では、小野は音楽室でミーティング中だ。
取り合えず小野に声をかけようと、僕は音楽室の前に立った。
「あれ?」
鈴の転がるような声が僕を呼び止める。
「中田くん?」
「は、ははは、花宮、さんっ」
振り向いた先、にこにことたたずんでいた花宮さんに、僕は緊張してカクカクと生まれたての小鹿のように動けけなくなる。
「どうしたの?」
花宮さんは、こてん、とこくびをかしげた。
かわいい。
「お、小野くんに、用があって」
「そうなんだ。珍しいね」
「は、花宮さんは、練習前の調整ですか?」
「うん」
言葉を紡ぐ唇の動きに僕は見とれた。
「さすがだ……」
「ふふっ、なにがさすがなの?」
「あ、いや、その、まじめな花宮さんらしいなって」
「中田くんも、律儀だね」
花宮さんはドアに手をかける。
そのとき、中でドカッゴトッと音がした。
「ん?」
不審に思い室内に入ろうとしたとき。バンッとドアが開いた。
「へっ」
加納さん?
「わっ」
飛び出してきた加納さんは僕らを押し退け駆けていってしまった。
「なん」
「キャアァァァッ」
鋭い悲鳴を上げたのは、花宮さん。
僕は目を見開くしかできなかった。
楽器が散乱する音楽室。
目の前に倒れていた小野。
そのケツにはリコーダーが刺さっていた。
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