第二十一話 バジリスクタイム 後編
「『
レヴィアの
「ぐ……うッ……! 『
このままでは不味いと危険を察知したヴィオラは自分のダメージを顧みずに自分を掴むレヴィアの腕に爆破魔法を放った。その衝撃で腕の力が緩む。この機を逃さず、ヴィオラは爆風で加速する技──『爆進』を発動しつつレヴィアの身体を思い切り蹴りつけ、なんとか脱出に成功した。
今度はヴィオラが地面を転がる番だった。爆破の衝撃で文字通り吹っ飛んだヴィオラは受身を取りつつもゴロゴロと二、三度転がった後にふらふらと立ち上がる。その額からは爆破を至近距離で発動した代償として血がとくとくと流れていた。
「チィッ……! 悪あがきを……!!」
血を流し視界の悪くなった眼でレヴィアを睨みつける。
一方、渇望拡大を発動させたレヴィアはその肉体を変質させていた。元々長身だった彼女の身体は膨張を始め、ヴィオラが彼女を睨んだ頃には倍以上巨大になっており、その身体を蛇の鱗が所々に現れていた。──特筆すべきは、それにとどまらず下半身が完全に巨大な蛇と化していたことだろう。
「ふむ……ちょっと不味いかもしれんな、これは」
「どういうことです?」
「悪い予感が当たってしまったかもしれん。……いや、しかしただ巨大化しただけかもしれんしまだ……」
ゾーネンシュリームが状況を図りかねていたその時、完全に変化を終えたレヴィアがその緑眼を開き、目線がヴィオラと合う。──その瞬間である。
「熱ッ……は!? 何よコレ!?」
ゾーネンシュリームがヴィオラに与えた即死と石化の護符が、いきなり発火し始めた。
「やはりヤバい!! ヴィオラ! ソイツと眼を合わせるな!! 死ぬぞ!!」
ゾーネンシュリームの叫びに反応したヴィオラは、ハッとしてすぐにおのが眼を閉じ手で覆う。それを確認するとゾーネンシュリームは尻尾でレオンを縛っていた縄を切り裂き解くと、状況を全く飲み込めないレオンに指示を与えた。
「レオン!
「りょ、了解!!」
「私はアイツの視界を塞ぐ!!」
ゾーネンシュリームは地面を蹴る。石造りの観客席が割れ、破片が舞う。疾風のごとき速さで巨大な半人半蛇の
急に高熱のブレスを顔に吐きかけられたレヴィアはうめき声を上げながら顔を覆って苦しむ。
「ヴィオラ! 決闘は中止だ!!」
「中止!? 冗談じゃないですわ!! 私はまだ負けてない!! 死んでない!! 私は──」
「ふんッ!」
ゾーネンシュリームは憤るヴィオラの腹を殴りつけた。
「がッ……!?」
「大人しく言う事を聞いてくれ……今のお前では無駄に死ぬだけだ」
うめき声を上げて今にも崩れ落ちそうなヴィオラにゾーネンシュリームは優しく語りかける。魔王軍幹部、十傑集として、有望な人材をむざむざ死なせる訳にはいかなかった。
フッと糸が切れたようにゾーネンシュリームの身体にヴィオラが倒れ込む。それを抱きとめると、レオンの方を振り返る。
……どうやら淫力が上手く練れていないようだ。無理も無い、こんな状況では性欲のエネルギーたる淫力も湧かないだろう。
「やれやれ……これは骨が折れそうだ、な」
今だ顔を覆っているレヴィアを見遣る。どうにか渇望拡大を解かせて、元の姿に戻さなくては──とゾーネンシュリームが思ったその時である。
……微かな声が聞こえた。
「……ヴィ……ト…………家………第……」
──バカな、まだ意識があるというのか? 加減したとはいえ、ただの人間が私の拳を食らってなお意識を──
ゾーネンシュリームが動揺した隙を突いて、ヴィオラは爆破魔法で加速してレヴィアへと突貫した。
巨大な身体を踏み台にしながら、ヴィオラはレヴィアの背後へ回ると、彼女の首に腕を巻き付け締め上げた。
「ヴィオレット家家訓第一条……!! 舐められたら殺せ……!死んでも殺せ……! あぁクソッ首が太すぎんのよ……!」
「何を……何をしているヴィオラ!! 決闘は中止だと言ったはずだ!!」
「止めないでくださいな……! これは私の矜持の問題ですの……! 私は死んでも負けるわけにはいかないんです……!!」
首を締められて、ヴィオラを振り落とそうと暴れるレヴィアの首にしがみつきながら、ヴィオラは掌に魔力を集め始める。
「『
「
「は……? 自爆……だと?」
ヴィオラの意図に気づいたゾーネンシュリームの焦りを含んだ叫びを耳にしたレオンの集中が途切れる。そして次の瞬間彼の身体は観客席の仕切りを飛び越え、走り出していた。
「ヴィオラァァァ!!」
◇
『
これを開発した彼女は作ったはいいものの使い所が無いわコレ──と自嘲するほど半ば気休め程度に作った魔法であった。
(まさか使うときが来るなんて、ね。)
死を目前にした彼女の内心は先程の激情とは裏腹に穏やかだった。走馬灯のように思考が加速し、世界の速度が停滞する。
(本来の目的を果たす前に死ぬなんて癪だけれど……まぁしょうがないわね、負けるのはもっと嫌だもの。)
──そうだ。と心残りを思い出したヴィオラはふっと顔を観客席の方へ向ける。
そこにはちょうど彼女に向けて走り出していたレオンがいた。ヴィオラの名を叫ぶ彼を見て、心底穏やかな笑みが彼女の顔に浮かぶ。
(……何よ、必死な顔しちゃって。元々利用し合うだけの関係じゃないの。そんな顔しなくても──)
そこでヴィオラはふと気付く。
(いや、違うわね。……そうね、なんだかんだ、アイツといて楽しくはあったわね。帝国にいたときより、楽しかった、楽しかったのよ。)
楽しいだなんて私らしくもない──と自嘲気味に目を伏せて彼女は笑った。
(あ、そういえばアイツと結婚してやるって約束してたわね……約束、守ってやれなかったな。)
いつかした約束──魔王になって、その夫にしてやるとレオンとした約束。方便のつもりだった。だが今はどうして満更でもなく思っている自分がいた。
きっと、叶ったならば、それはとても幸せなことで──
──ヴィオラの視界に、必死になって勃起魔法を発動させようとするレオンの姿が映る。どうにも淫力が練れず発動しないのか、半泣きになりながら何度も何度も術名を叫んでいる。
その姿が、ヴィオラにはとても愛おしく思えた。そして彼女は申し訳なさそうな、困ったような笑顔を浮かべて、普段ならば絶対に言わない謝罪の言葉を述べた。
「──ごめんね。」
そこでヴィオラの意識は途切れた。
◇
「何が……起きた?」
レオンは自らの目を疑った。爆破するその瞬間に目を閉じた後、一瞬の違和感を感じ、目を開くとそこには信じられない光景が広がっていたのである。
ヴィオラの生命をかけた自爆、それは彼女ごとレヴィアとその周囲を消し飛ばした──はずだった。しかし目の前の光景は爆破なんて起きなかったかのようで、ヴィオラは気絶して地面に倒れているし、レヴィアは元の人型に戻っている。
「何が起きたんスか閣下ァ!?」
「私にもわからん!! それよりもヴィオラとレヴィアだ! 生存確認!」
「は、はい!」
ゾーネンシュリームの支持に従いヴィオラに駆け寄り、手首を握って脈を測ってみる。──とくん、とくんと脈を打つ感触がする。
「生きてる!! ……よかったぁ……!」
「こっちも大丈夫そうだ。……しかし何が起こったのだ? 自爆……したのではないのか? ……いや、まさか、こんな事ができるのは──」
「そのまさかじゃ、ワシじゃよ」
突如上空から傲岸不遜な声が聞こえた。ゾーネンシュリームとレオンが声の方へバッと振り返ると、そこには──
「……カーラ様!!」
「おひさ〜☆皆の衆〜!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます