第十五話 包 囲 殲 滅 陣 だ!!
ヴィオラに連れられてレオンとラスターの二人は魔王城内の作戦室へやってきた。
「ヴィオラ特務少尉、入ります。」
──こいつシレッといい階級もらってやがんな……。そんなに人材不足なのか?魔王軍は、とレオンは思った。
ヴィオラがコンコンとノックをして作戦室のドアを開けると中にはゾーネンシュリームと、知らない顔が数名いた。中に入るヴィオラに続いてレオン達もドアをくぐった。
「ラスター・ディリゲント上等兵、入りまァす。」
ラスターが敬礼をして挨拶をしたので、レオンもそれに倣って同じようにする。
「レオンハルト・ノットガイル……何だ……?とにかく入ります!」
挨拶の後、ヴィオラにちょいちょいと招かれて彼ら三人は下座の方の席に並んで座った。
「うむ、よく来た。それでは軍議を始めようか。……おい。」
ゾーネンシュリームが側に控える部下に合図を出すと、その部下は作戦室のドデカい机に作戦図を広げた。
「今回の議題は西部戦線に関してだ。」
西部戦線。帝国が接収したドワーフと呼ばれる鍛冶と武器製造を得意とする魔族たちを働かせている鉱山と一体となった兵器工場であるムルキベル大工廠があり、それを巡る戦いが繰り広げられている場所だ。帝国にとって重要な場所である西部戦線は一層守りが硬いだろう。
ちなみにレオン達が来たアースグリム砦のある所は南部戦線である。
「一ヶ月前に開始したムルキベル大工廠へのドワーフ奪還作戦の進捗は正直芳しくない……というか劣勢、いや失敗に終わったと言っていい。」
ゾーネンシュリームは苦虫を噛み潰したような顔をする。
「これ以上作戦を続けるのは不可能と判断する。……よって、撤退命令を出した。今回私達が行うのは撤退してくる者たちの回収及び帝国軍の追撃阻止部隊の支援だ。」
「撤退戦の支援……ですか。」
ヴィオラがこめかみをトントン叩きながら呟く。
「そうだ。殿が追撃を食い止めるのを支援しつつ後退させ、ムルキベルと我が国のほぼ中間にあるアヴノバ森林渓谷にて回収する。質問はあるか?」
「残存兵力は如何ほどでしょう?」
「半壊と聞いているから凡そ八千と言ったところかな。撤退戦の過程でもう少し減るだろうが。」
「ではこちらが出せる総数は?」
「五千だ。……私の軍勢は南部にも睨みを効かせなくてはならんからな。これが限界だ。」
「ふむ……敵の規模はどのくらいになるとお考えですか?」
「敵も最重要拠点を守らなければならない身だ。追撃に割く人員は少ないものと見られる。……ま、それでも一万はいるだろうな。」
「成る程……ありがとうございます。」
ゾーネンシュリームから状況を聞くと、ヴィオラは何やらブツブツ呟きながら考え込みはじめた。
「回収地点がここで……いやここの地形を上手く使えれば……?」
少人数の指揮ならともかく、レオンは戦略戦術のことは全くわからないので、彼女の思考を邪魔しないように静かに会議に聞き耳を立てていた。
すると会議の喧騒が一際大きな声で引き裂かれた。
「そもそもなぁんで撤退なんだァ?まだ兵は残ってる上にこっちから増援加えりゃまだ戦れるじゃねぇか、なぁ!?」
その声は一人の
「ブラダスク、我が魔王軍は長く劣勢であることを忘れたか?私としても暴れ足りないとは思うが、ここで徒に兵を減らすのは良くない。大局を見ろ。」
「大局だぁ!?んなもん知らねぇよ!戦士っつうのはどんなクソッタレな戦場でもそこで戦って死ぬのが本望だろうよ!違うか?なぁ!?」
「そうでもあるが!」
二人が言い争いを始め、会議が中断状態となる。居心地の悪さを感じたレオンは隣のラスターに話しかけた。
「なあ……あのでっかい鬼の人って偉いの?」
「めちゃ偉い。“
「うわぁ。」
「でもまぁ?見ての通り脳筋でなぁ?同じ戦闘狂でも頭使えるゾーネンシュリーム様とは水と油って感じ、だな。」
「なるほどねぇ……どこも大変なんだなぁ……。」
レオンとラスターが世間話をしている間にも、トップ二人の言い争いは続く。そんな巻き込まれたら死すらあり得る二人の言い争いに挙手をもって割り込んだ者がいた。
「閣下、意見具申よろしいでしょうか。」
ヴィオラである。
「何だぁテメェは!?人間如きが俺に口出そうってのかよ?なぁ!?」
「ブラダスク……!彼女はカーラ様が認めた我が軍の一員だぞ!その侮辱は意味がわかって言っているのだろうな?」
キレ散らかすブラダスクの怒声を意にも介さず、ヴィオラはにこりと笑って言葉を続けた。
「ブラダスク閣下の意見ですが、私も部分的に賛成ですの。」
「おん……?」
ブラダスクは意表を突かれたような表情を浮かべる。
「ヴィオラ……聞いていたとは思うが、出せる戦力では敵の殲滅など正気の沙汰ではない。……まさかとは思うが、私達が魔族だから使い潰してもかまわんと思っているのではないだろうな?」
厳しい視線を向けるゾーネンシュリーム。いくら魔王のお墨付きとはいえ、まだ信頼関係が出来上がっているとは言えない間柄である。無理もないことだった。
「いやですわ、あくまで“部分的に”賛成と言ったのです。真正面から数的不利を覆そうだなんて思ってもみませんことよ。ほぼ不可能ですもの。」
微笑みを絶やさぬまま、ヴィオラは続ける。
「で・す・が、適切な条件と適切な運用を行えば数的不利なぞ簡単に覆ることもありましてよ。……倍以上なら兎も角、2000人程度の差なら十分可能ですわ。」
「ほお〜?人間のくせに面白えこと言うじゃねぇか?なぁ?いいぜ言ってみろ。俺が許す。……いいよなぁ?マリナァ?」
「名前で呼ぶな馴れ馴れしい。……まぁ聞くだけ聞こう。」
「ありがとうございます。……では僭越ながら。」
ヴィオラを先頭に三人が机上の作戦図を囲む。その他の会議の参加者も、その様子を固唾を呑んで見守っている。
「まず……前提としてゾーネンシュリーム閣下の撤退作戦は概ね変更無しで遂行させねばなりません。なのでアヴノバ森林までの撤退と、その支援はその通りに行います。」
「ふむ、続けろ。」
「ですが……この撤退を
「おい、どういうことだよ。なぁ?」
「完全に敵を振り切って撤退するのではなく、撤退を装い敵をこちらの有利な地点まで誘導するのです。……場所は、ここがよろしいかと。」
ヴィオラは作戦図に筆記具で書き込みを入れる。その場所は森の入口にあたる場所で、森林渓谷と呼ばれる所以か、そこは盆地のように窪んでいた。
「ここまで誘導できたらしめたものです。退路の両翼に配置した本隊が強襲、及び撤退してきた兵を反転させ敵を包囲し撃滅します。」
「それいいなァ!一方的に嬲り殺すのは気持ちいいから好きだぜ!!なぁ!?」
「理論上は可能だろうが……そう簡単に上手くいくものか?」
「
ヴィオラは悪魔の様な笑みを浮かべて言った。
「私……趣味は嫌がらせなんですの。」
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