【1000PV突破!】クズと悪女の逆襲劇(ヴェンデッタ)!〜追放された勇者の孫は勃起の力で悪女と魔王軍に寝返って異種族娼館を建てたいようです〜

犬吠崎独歩

第一章

第一話 勇者の孫、追放される。


「もう限界だ……レオン、君にはこのパーティーから出て行ってもらう。」


 ミズガルズ帝国は辺境都市オズワルドのとある酒場の一角、レオンハルト・ノットガイルの目の前に座る流麗な長い金髪に端麗な風貌の男──レオンの所属するパーティーのリーダー、ハインリヒはその美しい顔を少しばかり歪ませてそう言った。


(あー……ついに来ちゃったかー……)


 心当たりがあり過ぎて困る──とレオンは思った。


「先代勇者様の孫である君には確かに助けられた部分もある…モンスターや地形の知識、基礎的な戦闘技術…僕たちが強くなれたのは間違いなく君のおかげだ…そこに関しては。」


「よせやい……照れるじゃんか……」


「だが!そこを鑑みても君の素行は目に余るんだよ!」


 ハインリヒがドンとテーブルを叩いて怒鳴る。


「集合時間に遅れる! 朝まで飲み歩いて二日酔いでろくに戦わない! 女性への性的嫌がらせ! 挙げ句の果てには僕らパーティーの資金で娼館へ行こうとした!擁護できる部分が無いじゃないか!!」


「いや全く同感だ……。あ、いやでもお前の幼馴染には手ェ出してな……」


 パーティーメンバーにはハインリヒの同じ村の出身の幼馴染がいるのだが、明らかに彼にお熱な様だったのでレオンは彼に悪いと思って彼女にだけはセクハラ行為をしなかったのである。


 家でプー太郎をやっていた所を拾ってもらった恩があるから──


「アイツのことは今どうでもいいだろう!!」


 語気と拳圧を強めてハインリヒがテーブルを再度叩く。

満杯に注がれたエールがその衝撃を受けて少し零れた。


 駄目でした。


「ハイ……。」


「とにかく、君は追放だ!! 明日までに荷物をまとめて出ていってもらう! これは手切れ金だ! 受け取れ!」


 怒気に気圧されるレオンに、ハインリヒは無造作に金貨の入った袋を投げて寄越す。


 その袋の中身を数えてレオンは内心微妙な顔をしていた。


(ひいふうみい……うーん、4娼館ってとこか……。)


「どうしてだ…出会った頃はこんなんじゃなかっただろう…?」


 ハインリヒはまだレオンへの情が残っているのか、悲痛な表情を浮かべて言う。


 そんな彼を見ていると、レオンは少しばかり心が痛んだ。そうだ、彼等と共に冒険を始めたばかりのレオンは希望に満ち溢れていた。しかし、現状はあまりにその時の気持ちとはかけ離れたモノだった。


「……変わらないモノなんて無いってコトさ……。」


 レオンはキメ顔でそう言った。


「……僕は宿に帰る。荷物をまとめておけよ。」


「あぁ。……それじゃあな、死ぬなよ。」


「……言われるまでもない。」


 レオンは去っていく背中をキメ顔のまま見送り、残ったエールを一気に飲み干す。なんだか酒を飲む気分ではなくなってしまった──とレオンは思った。


 手切れ金から金貨を一枚取り出し会計を終え、店の外へ出る。


「フッ……今日は夜風にでも当たるかな……。」


 レオンは再びキメ顔で街の外れへと歩き出した。


 

 街の外れにある高台にレオンはやって来ていた。街を一望できる眺めの良いこの場所は、考え事をするにはちょうどよかったのだ。


「……やっべぇー……明日からどうやって生きていこう……。」


 レオンは頭を抱えた。キメ顔は既に消え失せていた。


(だってアイツがシリアスな空気出すんだもん……。乗ってあげるのが大人じゃん?)


 ──と誰に言うわけでもなく独り言ちる。


 ……それはともかく、状況はひっ迫していた。


 金はもらったが、4回娼館に行けば消えてしまうようなあぶく銭だ。……娼館に行かなければいいのでは?というのは最もだが、彼にとっては大切なことであった。


「家に帰るか……?」


 ダメだ。──と頭を振って自らの考えを否定する。父親から大成するまで帰って来るなと言われている……。もし今帰ったら殺されかねないだろう。


(だって勇者の孫が素行不良で追放されて何も成せずに帰って来ちゃいました!なんて無理だもんこんなの。

……いやおじいちゃんはもっと酷かったらしいけど。)


「ハァ……。」


 取り留めのない考えをいくら巡らしてもしょうがない。


 ……とりあえずソロで生きていくだけの金を稼いでいこう。うん、それがいい。そして娼館のある街でまったり過ごしながら一生を終えようと彼は思い至る。


 行動の指針はできた。次はどこに骨を埋めるかを決めねばならない。


「俺でもソロでやれるぐらいモンスターが弱くて…娼館があって……ギルドの受付嬢が可愛い街……。」


 懐から帝国全土の地図といつか情報屋から手に入れた『ミズガルズ帝国娼館図鑑』、『ギルド受付嬢ランキング』を取り出して広げる。


「ここは……受付嬢はめちゃ可愛いけど娼館が無い上にモンスターが強すぎるからダメ……ここは娼館あるけど受付嬢がそうでもない……ううん……。」


 うんうん唸りながら候補を上げては潰していく。


 そうして悩むこと小一時間、ついにレオンは見つけた。彼の人生の理想郷エルドラドを。


「ここだ……!」


 レオンの指は地図の一点を指す。


 ヴィオレット伯爵領キルヒアイスの街、そこは帝都に近くモンスターの脅威がほぼ無い駆け出しの冒険者が集う街。娼館もある、帝都が近い為帝都の娼館にも行ける。そして、一番の決め手はギルドの受付嬢だった。


「受付嬢巨乳ランキング一位のフライアちゃんがいる街……! 決めた。俺はここに骨を埋めるぞォ!!」


 オッパイは偉大である。


 オッパイを眺めるだけで幸せになれる。


 よしんばオッパイを揉めたならもっと幸せになれる。オッパイとはそういうものなのだ。


 ……ともかく思い立ったら行動だ、と立ち上がる。


 宿に帰って荷造りをしよう、とレオンは期待とその他諸々を膨らませて宿へと急いだ。



「ただいまー……。」


 レオンは宿の部屋のドアをゆっくり開きながら呟いた。


 先に帰ったハインリヒは既に寝息を立てている。彼を起こさないように、物音を最小限にしてレオンは荷造りを始めた。そのくらいの気づかいは彼にもできた。


「これと……これと……。」


 必要なものを魔導収納袋へ放り込んで行く。これは所謂魔法の袋で、容量の許す限りどんな物も収納できる冒険者の必需品である。レオンの持つそれは勇者だった祖父のお下がりでひどく年季が入っていたが最大まで強化されており、彼の荷物程度なら問題なく収納できた。


「……とりあえずこんなもんかな。」


 私物を一通り袋に収めたレオンはざっと周りを見回す。後には宿の備え付けのベッドが残るのみである。


 一仕事終えて、レオンは少しため息をついてベッドに腰掛ける。向かいのベッドにはハインリヒがすやすやと寝息を立てていた。


「コイツは寝顔まで美男子だねぇ……腹立つ……。」


 レオンはハインリヒの寝顔を眺めつつ、彼らとパーティーとして冒険した日々を思い出していた。


 ──色々なことがあった。


 1年前ハインリヒに連れられて家を出たこと、パーティーで初めて依頼をこなした日のこと、初めて娼館に行ったこと、娼館で初めてモンスター…もといハズレ嬢と相対したこと、お堅いハインリヒを娼館に連れて行こうとして本気で殴られたこと……。


(あれ?もしかして俺娼館のことしか覚えてないな?)


 レオンは訝しんだ。


 無理もない。最初のうちはともかく、彼はほとんど冒険者として活躍してはいなかったからだ。


 というのもハインリヒが高潔すぎたのも理由の一つにある。彼はモンスターに対しても正々堂々正面から……というのが信条であり、レオンの考えた効率的かつ安全な作戦は


「卑怯だ!」


 ……というリーダーの鶴の一声によって全て却下されてきたからだ。


 そう考えると、娼館4回程のこの手切れ金は不適当なのでは?とレオンは思った。


 人間としての彼についてはともかく、レオンとしては彼なりにパーティーの役に立とうとしてきた。つもりだ。


それを自らの信条を押し通して不意にしてきたのは誰だ?


 ──眼前で寝ているこの美男子である。


「……許せよハインリヒ。お前にゃ恨みは……無いわけじゃないけど……。これは必要なことなんだ。うん。」


 またも忍び足で、今度は隠密のスキルを発動して完全に物音と気配を消してハインリヒのスペースに忍び寄る。

 そこから彼の魔導収納袋を見つけると、無造作に手を突っ込んで中を探った。──できるだけ高く売れるか、使えそうなものを頂こうとレオンは袋を物色する。


「ん……?」


 ポーション等の小物が跋扈する中で、一際サイズの大きいものが手に触れる感触がした。


 これは大物の予感とばかりに袋から取り出すと、それは蠍の意匠が施された直剣だった。窓から差す月明かりがその刀身を照らし、剣というには不気味に光る。それは妖しいというか、艶めかしいというか、そういった悪魔的魅力をがあった。


「こりゃあ……いいな。」


 レオンは片方の口角を上げてほくそ笑んだ。確かこれは先日依頼を受けた古城で、中にいた老人のような風貌の魔族を倒して手に入れたものだった。


 まだ鑑定をしていないので、これがどれほどの価値を持つものかは分からないが……この妖しい魅力を放つこれは一部の好事家には高く売れるかもしれないと思った。

 なんなら、今使っているショートソードよりよっぽど品質が良さそうだ。万一売れなくても俺が使えばいい。


(あ……俺の剣、娼館代足りなくて売っぱらったんだった…。)


 そもそも武器を持ってなかったことを思い出して呆けていると──


「ううん……」


 ハインリヒが寝返りをうちながら声を漏らす。


 その瞬間全身の毛が逆立つ程に、レオンは戦慄した。勇者の孫──と言うには彼はひどく小心者だった。一瞬のうちに千の言い訳を頭の中に捻出しながら、ハインリヒの寝顔を伺う。


「レオン……君という奴はだな……」


「……寝言か」


 ふう、とため息をつく。

 なんとレオンは夢の中にご招待されているらしい。


 ……世の中の婦女子が知ったら袋叩きに合うだろう栄誉だ。

 

 しかしこの美青年、せめて夢の中くらいお前にゾッコンな幼馴染を登場させてやったらどうなのだ、とレオンは思った。


 さて、目的は達した。ならば後はここを発つだけだ。


 本来ならば翌朝パーティーの面々に詫びてから発つのが筋だろうが、迷惑料とはいえパーティーの所有物を盗んだことには変わりないためというのが一つ。 

 そして別れの挨拶をしたところで、暖かい言葉なぞかけて貰えないだろう……というのが理由だ。それほどまでにパーティーでのレオンの位置は低かった。


 ホルスターに盗んだ剣を挿し、レオンは部屋をそっと出ていった。挨拶もなしというのは少しばかり寂しいので、ハインリヒの枕元に別れの言葉を綴った書き置きを置いていった。


 ああ友よ、頼むから死んでくれるなよ。──俺の目覚めが悪くなる。



 宿を後にしたレオンは既にオズワルドの街を出ていた。


 途中門の衛兵にこんな夜中に何処へ行くのか、と聞かれたが故郷の母が危篤とのことなので一刻も早く帰らねばならない…と言ったら快く通してくれた。危篤の母などいないのだが。


 親切な衛兵が言うには、キルヒアイスまでは徒歩で3日ほどだとか。


 帝都へ続く街道を辿っていけば比較的安全に到着することができるだろう……とのことだった。


 足取りは軽かった。


 これから悠々自適な隠居生活が始まるのだ……と思うと顔のニヤつきを止めることができない。


「俺は……自由!」


 夜空に瞬く星たちに祝福されるように、レオンは深夜の街道を歩いてゆくのだった。

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