第9話後編 それぞれの想い
かんざしが帰ったあと、私はしばらく呆然としていた。
それからどれほどの時間が経ったか。何かに吸い寄せられるように押入れを開けそこから一つの箱を取り出した。少女趣味なシールやステッカーがベタベタと貼られた簡素な箱。その箱を開けると中には一冊の漫画が入れてあった。私はそれを取り出してページをパラパラとめくった。
やがて、想い出と全く同じ映像が目の前に広がった。目の前の二人は幸せそうに唇を重ねていた。
私はページを閉じた。それは小さい時のような夢物語ではなかった。それは確かに現実の感触を纏っていた。それなのに涙が自然と頬を伝った。
◇
一人の家は静かだ。カラスの鳴き声や子供のはしゃぐ声、外のまとまりのない音の数々が、かえって静けさを強く引き立てていた。
私は寝そべったままでベッドの横に置いた時計を見た。六時ぴったり、そろそろ部活が終わるくらいの時間だった。
何もしないというただそれだけで一日は驚くほど長くゆっくりと過ぎるものになった。先日のかんざしに拒絶された瞬間の映像が何度も脳裏をよぎって、それが私に活動の気力のようなものを奪った。学校に行けば否が応でもかんざしと顔を合わせる。その事実が私の体をベッドの上に縛りつけた。
かんざしとのことがあってから二日間、学校に行けていなかった。
有り体に言うと怖かった。かんざしと顔を合わせることが。この前の拒絶が決定的な断絶になっていたりしたらどうしようと。そんな現実に直面することが怖かった。だから私は逃げていた。かんざしという存在から。
その逃避は以前、かんざしを避けていた時とは性質の違うものだった。前回は自分の気持ちを直視することを恐れるがゆえの逃避だった。しかし、今回の逃避はかんざしの気持ちを直視することを恐れるがゆえの逃避だった。
だから私は学校にも行かず何をするでもなくただ沈んだ気持ちのままにベッドに身体を横たわらせていた。しかし、何もしない空白の時間は容易にかんざしについての思考の侵入を許してしまって、結局かんざしという存在から完全に逃避することができないでいた。それはじわじわと真綿で首を締められるような苦しみだった。根拠のない不安が常に胸にまとわりついて、時間が経つにつれて脳がその不安に対しての根拠のようなものをいくつか見つけ、次第に私の中でそれが真実としか考えられないようになっていた。
実のところかんざしにキスを拒絶された痛みというのは薄れつつあった。いや、薄れたというと語弊がある。その事実は確かに明確な痛みを与え続けてはいるがそれ以上に痛くて辛いある考えが去来してそれ以来私はその考えに囚われ続けていた。いや、もしかしたらそれはかんざしに拒絶されるずっと前から私が抱え続けていた不安なのかもしれない。
かんざしは私のことが好きではないんじゃないか、この事実に直面することが何よりも怖かった。
私は目をぎゅっと瞑った。とりあえず今は意識を失ってしまいたかった。そうやって完全にかんざしを意識の外へと追い出したかった。
まぶたの裏側は暗くてけれど微かな常夜灯のような光がチラついていていた。身体とは単純なもので、その光が揺らめくのに合わせて意識が混濁していって、意識の不幸を不幸と感じれなくなって眠りの兆しのようなものを掴みかけていた。
もうすぐで現実から逃げおおせるその時、ハッキリとした音がその兆しをかき消した。チャイムが鳴った。私は飛び起きた。
何だろう。宅配便かな。いや、でももしかしたら。
「かんざし」
私はそう呟いた。その瞬間私が感じていたのは期待だった。かんざしと会える。その考えが脳を埋め尽くしていた悩みを吹き飛ばして、私は突き動かされるようにベッドから飛び出し階下へと向かった。
階段を降りてすぐのところに取り付けられたインターフォンが外の映像を映し出している。しかし、訪問者はカメラからズレたところに立っていて顔などは見えなかった。ただ紺色の制服に包まれた肩と長い髪の毛は映り込んでいてそれを見て私の胸は高鳴った。私は赤く光る通話のボタンを押した。
「はい。赤熊です」
「とまりちゃんのクラスメイトの石橋です。お見舞いに来ました」
「ほのか。私だよ」
「あっ、お母さんかと思ってた。今大丈夫?」
「うん。すぐそっち行く」
インターフォンの映像が途切れるとともに私は我に帰った。あんなことがあった後でかんざしが来てくれるわけがないじゃないかと。そして自分を哀れんだ。あれだけ悩んでいたのにかんざしに会えるかもしれないというだけで期待で胸をいっぱいにし心を踊らせていた自分はなんて馬鹿なんだろうと。
そんなことを思いながら私は玄関のドアを開けた。玄関の前でほのかちゃんは心配そうな表情を浮かべて立っていた。部活が終わってそのまま来たのか、制服姿で手には鞄と体操袋を持っていた。一昨日会ったはずなのにその姿がやけに懐かしく感じられた。ほのかちゃんは私と目が合うと開口一番に
「とまり、大丈夫?。昨日も今日も、体調不良って聞いたけど」
そう尋ねた。
その声色は優しくて私のことをとても心配してくれていることがわかった。その言葉は私の孤独を撫でた。
「うん。大丈夫。もうこの通り」
そう言って私は力こぶを作ってみせた。いつも通りをなぞるように。そうしながら私は申し訳なさを感じていた。嘘をついて学校を休んで心配をかけてしまったこと。そして訪ねてきたのがかんざしじゃないと気づいた瞬間に落胆してしまったことを。ほのかちゃんだって大事な友達なのに。私のことを心配して家まで来てくれるくらい、私のことを大事に思ってくれているのに。
「そう?ならいいけど本当に心配したんだから。練習の時は元気そうにしていたのにいきなり体調不良なんて。つばめもしおりもみんな心配してたよ。みんなでお見舞い行こうって。けどみんなで押しかけても迷惑かなって。それで私が来たの」
ほのかちゃんの発する言葉の一つ一つが私の心に直接染み込むようだった。私はそれを噛み締めるのに必死で声も出せずほのかちゃんの言葉にただ何度も頷いていた。
「まあ元気になったなら良かったよ。それで明日からは学校来れそう?」
私はいつも通り元気に頷きながら
「うん」
と答えようとした。しかし、思ったような声は出ず首は少しも動かなかった。学校に行ったらかんざしと会う。そしたら決定的な何かを突きつけられてしまうかもしれない。例えばかんざしに避けられたら、素気なく接されたら。かんざしが私のことを好きでないとわかってしまったら。無理やりキスをしようとした私を嫌いになっていたら。
さきほどまでと同じような思考が胸に去来した。それが私をがんじがらめにした。
何も発することができずただただ立ち尽くす私をほのかちゃんは不思議そうな目で見ていた。
「とまり、大丈夫?」
「大丈夫。大丈夫だから」
私はさっきの態度を取り繕うように何度も首を縦に振った。けれどその声は震えていた。ほのかちゃんの優しさに引っ張られるように、溜め込まれた感情が胸の中で渦巻いていた。そして堰を切ったように涙が溢れ出した。それは濁流のように私を飲み込んだ。視界が滲んで絶え間のない涙でいっぱいになった。嗚咽が喉から溢れ鼻水が鼻の下を伝った。
きっと私は酷い顔をしている。そしてそんな私をほのかちゃんがどんな顔で見ているのか、涙に邪魔をされてわからなかった。けれど止めなきゃと思っても涙は一向に留まる気配を見せなかった。私は鼻を啜って制服で涙を拭いた。すると急に開けた視界の隙間からほのかちゃんが飛び込んできた。暖かな体温といつもの制汗剤の匂いが私を包んだ。
「大丈夫。大丈夫だから」
抱きしめられていると気づいたのは少ししてからだった。
「大丈夫。とまりは大丈夫」
ほのかちゃんは何度も繰り返す。ほのかちゃんの声が私の鼓膜を柔らかく包む。それに釣られて再び涙が溢れ出す。嗚咽も鼻水も。
そんな私をほのかちゃんは更に強く抱きしめる。ほのかちゃんの顔がすぐ横にあった。溢れ出したものでその顔を汚してしまいそうで私は涙ながらにほのかちゃんに訴える。
「私の顔こんなんで、ほのかちゃんが汚れちゃう、から離して」
「とまりがこんなに泣いてるのにそんなの関係ないよ。私のことはどうでもいいから。だから、辛かったら泣いていいんだよ」
彼女は耳打ちするようにそう言った。その言葉で私の涙はいよいよ止まらないものになった。人目も憚らず私は泣いた。彼女は私が泣いている間ずっと私を抱きしめていた。そして再び私に耳打ちした。
「何か抱え込んでいるなら話してよ。前みたいに。そしたらまた少しは楽になるかもよ」
お互いにクッションに座って向かい合っていた。
私の部屋にかんざし以外の友達が入るのは初めてだった。小さくない違和感が生じた。けれど私はその違和感をグッと呑み込んだ。弱った心が、今まで必死に保っていた境界線を瓦解させてまでもほのかちゃんの助けを必要としていた。
私はおもむろに語り始めた。今までも、そしてこれからも誰にも話すつもりはなかった自分の想いを。
「私ね。広田さんのことが好きなの」
広田さんという響きは言い慣れなくてどこか他人みたいだった。私はそれが故に正しく今の言葉がほのかちゃんに伝わっているか不安だった。
けれどその心配は杞憂に終わった。ほのかちゃんは一度目を大きく見開いてそれからその事実を噛み締めるように頷いた。
「うん。念のために聞くけど広田さんって同じクラスの広田かんざしさんだよね?」
「そうだよ」
「そっか。うん。前から同じ学校って以外にも何かあるんじゃないかとはなんとなく思ってたんだけど。そっか」
ほのかちゃんは何かを考えるように腕を組んでじっと斜め下を見据えていた。それから話の続きを促すように私の目を見た。私はその視線に応えるように再び話し出した。
「うん。そうなの。それで、ケイゴの告白を断ったのもかんざしのことが気になっていたから。その時はまだ好きとか分かってなかったんだけど、ほのかちゃんと話した時にわかったの。私はかんざしが好きだったんだって」
いつのまにか無意識に私はいつも通りにかんざしのことをかんざしと呼んでいた。そのことに途中で気付いたけれど、そのまま話を続けた。
「それでね、私かんざしに告白したの。私はかんざしのことを恋愛対象として好きだから付き合ってくださいって」
とまりちゃんの目が再び大きく見開かれた。その目はずっと私を捉えていた。私もそれに応えるように視線をほのかちゃんに合わして話し続けていた。そうしていると次第に吸い込まれるような、私とほのかちゃんの境界が溶けるような錯覚に襲われた。
「それでなんて言われたの?」
唾を飲み込むような仕草を見せた後ほのかちゃんは静かな口調でそう尋ねた。
「いいよって言われたの。その時は。私嬉しくて、舞い上がっちゃって。私と同じ感情をかんざしも持ってくれているんだって。今考えたらただいいよって言われただけで好きなんて一言も言われていないのに。それなのに私はかんざしの気持ちが見えていなくて自分の気持ちばかりを押しつけてそれで、キスしようとして拒まれたの。かんざしに。」
ほのかちゃんは再び、腕を組んで斜め下をじっと見据えた。その表情はどこか思い詰めているように見えた。私はそんな彼女を見つめながら最後の力を振り絞って言いたいことを一息で言いにかかった。
「それが日曜日の練習の後の話。それで私は学校を休んでたの。かんざしに会うのが怖くて。かんざしが私のことを私と同じようには好きではないんだってその事実に触れるのが怖くて」
私は最後まで言い切ってそれから黙り込んだ。そうすると沈黙が訪れた。ほのかちゃんはずっと同じ姿勢で何かを考え込んでいた。
どれくらいその沈黙が続いただろう。私は落ち着かなくてほのかちゃんから目線を外してカーペットのシミをじっと見つめていた。話したことで再びかんざしに拒絶された時の場面がフラッシュバックした。その光景に暗澹とした気分になっている時、唐突に沈黙が破られた。
「信じられない」
私は思いがけない強い言葉に思わずほのかちゃんを見た。ほのかちゃんの眼は静かな怒りに染まっていた。私はそんなほのかちゃんの表情を見てやっぱり自分が悪かったのだと後悔の念を強めた。するとほのかちゃんはそんな私の想いと裏腹にさらに言葉を続けた。
「実際に広田さんがどう思っていたのかわからないけれど、その話が本当なら私は広田さんのとまりへの態度はありえないと思う。」
「え?どうして?悪いのは私なのに」
「とまりは悪くないよ。だって付き合ってそれでキスをしたいって思うのは当然のことじゃん。それに百歩譲って広田さんがキスをするのはまだ早いと思ってたとしても、突き飛ばすことないじゃん。それで話し合いもせず逃げるなんて。告白を一回は受け入れといていざその時になったら一方的に拒絶するなんて。折角とまりは勇気を出して好きって言ったのに。好きって言うのがどんなに勇気のいることか広田さんはわかっていないんだ。女の子が女の子に、友達に好きって言うことにどれだけの覚悟が必要か広田さんはわかっていないんだ」
ほのかちゃんは畳み掛けるようにそんなことを言った。こんなに感情を露わにしたほのかちゃんを私は初めて見た。私は唖然として圧倒されて何も言葉を発せないでいた。
一通り言いたいことを言い終えたのか、ほのかちゃんは荒い呼吸を繰り返していた。それから呆気に取られている私の様子に気づいて、取り繕うように自虐するような卑屈な笑みを浮かべた。
「私ね、つばめのことが好きなの」
そして唐突にそう言った。
「この前とまりと話した時に言ったよね、好きな人がいるって。それがつばめなの」
「そうなんだ」
私はあまりの驚きにそうやって相槌を打つので精一杯だった。
「うん。だから私、分かるよ。とまりがどれだけの覚悟で広田さんに告白したか」
ほのかちゃんはそう言って何かを言い淀むように口をつぐんだ。それから少しして、再び口を開いた。
「私ね、この気持ちに気づいた時に決めたの。陸上で、つばめに一度でも勝てたら告白しようって。つばめの隣に胸を張って立てる自分になれたらその時は好きって言おうって。けれどそれは結局のところ逃げなんだ。だって私が一番知っているの。つばめと私の才能の差を。どれだけ頑張っても勝てないって、分かってるからそんな目標を立てた。私はずるいから逃げ続けているの。つばめと私の才能の差を免罪符に自分の気持ちをつばめに伝えることから逃げ続けている。けれど、そんなふうに惨めになっちゃうくらい、私にとって好きっていう気持ちを伝えることは怖いことなの」
真っ直ぐと私を見据えるほのかちゃんの瞳を見ながら思った。私と彼女は同じだと。
ほのかちゃんの言葉は私の中の好きだという気持ちを伝える前の恐怖を鮮明に思い起こした。そしてその恐怖は結局のところ今私が抱えている恐怖と同じ性質のものだと思った。
私は今でも怯えている。好きという気持ちに。かんざしの中に自分と同じような好きな気持ちがあるかどうかわからなくて怯えている。
しかし、ほのかちゃんは不意に視線を外した。視線をカーペットに降ろして再び言葉を続けた。
「だから私はもし、広田さんがとまりの気持ちを軽く扱ったのだとしたら許せないと思う。好きという気持ちの重さは痛いほど良くわかるから」
そう言って口を真一文字に結んでほのかちゃんは黙り込んだ。私は突然に訪れたほのかちゃんの独白をゆっくりと咀嚼していた。それから程なくしてほのかちゃんは下げていた顔をあげこちらを見た。
「とまりごめんね。とまりの話を聞くはずだったのに、私の話ばっかりして」
「ううん。私も自分と同じような人がいて少し気分が楽になった」
「そっか、それなら良かった」
そう言いながらほのかちゃんは笑みを浮かべた。その笑みははいつも通りの快活で明るい笑みだった。ただカーテンの隙間から差し込んだ夕焼けがその笑みに翳りを帯びさせていた。
しばしの沈黙が訪れた。その間にほのかちゃんの口角はゆっくりと沈んでいった。その笑みが完全に消えたと同時にほのかちゃんは再び口を開いた。
「とまりはどうしたいの。広田さんとどうなりたいの?」
ほのかちゃんは静かな口調でそう言った。
私は心の中でその言葉を繰り返した。私はどうしたいのか。かんざしとどうなりたいのか。その問いは何度も内心で繰り返した問いと同じ性質を持ったものでそれに対しての答えもやはり今までと変わり映えがしないものだった。
「わからない。わからないの。かんざしと話をしなきゃいけないってそれはわかってるの。けれど話をしてそれでかんざしが私のことを好きじゃないってそれを知るのは怖くてだからかんざしと会いたくないの。けれど今でも私はかんざしと会いたくて話ができるだけで十分でけれど友達に戻るのはやっぱり嫌でずっと恋人でいたくて。そのどれを私は優先すればいいのか。それがわからないの。」
私は胸の内に溜め込んだ思いの全てを吐き出すように一息にそう言い切った。ほのかちゃんはその独白を聞いてる間ずっと私の目を見つめていた。そして私が口をつぐむとほのかちゃんは沈黙を追い出すように即座に口を開いた。
「私だってわからない。広田さんがとまりのことをどう思ってるかなんて。相手が自分をどう思ってるのかってそういう気持ちの重さは痛いほどわかるから、だから軽い慰めなんて言えない。けれどね、一つだけはっきりしているのは広田さんととまりがどうなっても私は、私たちはとまりの味方だってこと。とまりが一番居たいのは広田さんの隣かもしれないけれど、仮にその場所がなくなってもとまりにはちゃんと居場所があるってこと。とまりは一人じゃないってこと。私が言えるのはそれだけだから。だから、また辛くなったら話してよ。私はいくらでも聴くから。とまりと広田さんのことは私にはどうにもできないけれど、とまりがもしも辛くなったり悲しくなったりした時にそれを一緒に共有するくらいは私でもできるから」
ほのかちゃんは真剣な表情でそう言った。
私はその優しい言葉にまた泣きそうになった。
「ありがとう」
その感情が溢れて言葉が少し震えた。
「また恥ずかしいこと言っちゃった」
そう言ってほのかちゃんは笑った。
それからたわいもない話を少ししてからほのかちゃんは帰っていった。
「まあ結局はとまりのやりたいようにやるのが一番だと思うよ。私も私にできることはやってみるから」
帰り際の玄関先でほのかちゃんはそんな言葉を残した。
私のやりたいように。結局それが何なのか、まだ私は自分の中で答えを出せてはいなかった。ただここ最近ずっと付き纏っていた絶望感のようなものは薄れていた。独りじゃないという実感が悲しみで占められた胸の中で常夜灯のように仄かに光っていた。
◇
次の日も私は学校に行かなかった。ただそれは昨日や一昨日のようなかんざしに会うのが怖いという理由ではなく、私はかんざしに対しての自分の気持ちを整理したかった。学校に行くなら中途半端に逃げるのではなくしっかりとかんざしと向き合いたかった。
だから私は考える。私はかんざしのことをどう思ってるのか。かんざしは私のことをどう思ってるのか。仮にお互いの気持ちが性質を違えるものだったらどうするのか。私はかんざしとどうなりたいのか。
結局考えても考えても答えは出なかった。いくつもの思考が脳の中で散らばったままだった。けれどそんな思考の全てを蹴散らす勢いである感情が芽生えた。
かんざしに会いたい
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