『White Wolf』
𝑹𝒖𝒊
第1話
満月の夜の事だった。
何処か遠くで、狼の遠吠えが聞こえた気がした。
『まさかな…こんな都会で狼の遠吠えが聞こえる訳がない…。きっと犬だよな?』
自分に言い聞かせる。
そろそろ眠りにつこうとベッドに入る。2階だから窓はいつも網戸にしている。
隣の部屋で音が聞こえた。
『風で何か落ちたか。明日でいいか…』
眠りにつきかけた時だった。
明らかに、すぐ側に何かの気配を感じた。
荒い息づかい、獣の臭い…。
寝ぼけていても危険を感じ、目が覚める。
恐る恐る目を開けると…。
そこには、大きくて毛並みのいい白い犬…。
いや、狼がそこにいた。
目が合うと、牙を剥いて唸り声を上げている。
恐怖のあまり動けなくなっていると、ジワリジワリと唸りながら近寄ってくる。
ベッドに狼が飛び乗った瞬間、俺は意識を手放した…。
息づかいと共にザラザラとした何かが頬に触れる。目を開けると…。
白い狼だ…。
俺はまた、気を失いそうになる。
それを遮るように、狼が頬を舐めてくる。
噛み付く気は無さそうなので、恐怖心も落ち着いてきた頃、ふと狼の耳に視線がいった。
耳の内側に花のような模様が2つ。
子供の頃、父が罠にかかっているのを助けた、白い毛の子狼を思い出した。
『お前なのか?』
白い狼は、そうだと言うかのように擦り寄る。
………。
何か言おうとしたところで目が覚めた。
『え?狼…夢?』
家中探しても、狼の姿はなかった。
『やっぱり夢か…。』と思った時、足元に落ちている物に気づく。
広げてみると汚れてボロボロになっているけれど、幼い頃怪我をした子狼を、手当してやった時に巻いてやった俺の名前が書かれたハンカチ。
夜な夜な探し回って、返しに来たのかと思うと温かい気持ちになった。
カッコイイ狼だったな。
元気に育ったんだな。
遠い記憶を思い出した夜だった。
『White Wolf』 𝑹𝒖𝒊 @ruicha_mori
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