『僕の天使』

𝑹𝒖𝒊

第1話


世の中には、見た事がない物、見えないモノがあるだろう。

形あるものも、いつか消えてなくなる時が来る。


近所に住む幼馴染みの女の子。

幼稚園の頃から仲良しだ。


いつも天使のような優しい笑顔。

大人になった今でも、君の笑顔は眩しいくらいだ。

キラキラしていて、まるで全てを温かく包み込んでくれるかのようだ。


ある日、君が病に倒れた。

連絡を貰ったのは、余命宣告を受けてからの事。


昨日まで、あんなに元気だったのに、どうして!!

体調が悪いとは思っていたらしい。

若い分進行が早く、気づいた時には、どうにもならない程悪化していたと…。


僕は必死に、病気の事を調べた。

どんなに調べても、僕に出来ることは見つからない。


出来る事と言えば、君の負担にならない程度に、楽しい話を聞かせに行くくらいだ。

いつもと同じように病室に行った。

『君に頼まれていた小説を持ってきたよ。』


呼吸を苦しそうにしながら嬉しそうに、か細い声で『ありがとう。』と本を受け取り数ページ読み進める。


本を持つ君の手は、いつの頃からか、細くなってしまって点滴の管も繋がっていて痛々しい。


『この本…面白そうだよ…。最後まで…読み…た…いな…。』


そっと微笑む君の瞳から一筋の涙が零れた。

面白いならなんで泣くのさ…と言いかけたところで、僕は気づいてしまった。

もう…時間なんだと…。

僕の頬にも一筋の涙が零れた。

そして、静かに本が床に落ちた。

心電図の音が病室に響き渡る。


君のか細い声を、聞き逃さないように集中していたせいで、心電図の弱くなっていく音が、理解出来ていなかった。

君は苦しまずに、スっと眠りにつく様に逝ったんだね。

どれくらい時間が経っただろう。


病室の窓から風が吹き込み、揺れるカーテンの隙間から陽射しがキラキラしている。

小さな天使達が見えた気がした。


『そうか…。天使がお迎えに来たなら君が迷子になることはないね。』


医師や看護師が出ていった後も、君の手を握ったままの僕は時間がスローモーションのように感じた。


すぐそばで君が笑った気がした。


『君も天使になったんだね。ずっとずっと僕の天使。安らかに…。そして…いつか、また…。』

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『僕の天使』 𝑹𝒖𝒊 @ruicha_mori

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