第8話


 私には双子の兄さんがいる。 



 兄さんはとても優秀で、私なんかとは大違い。

 イブリースからはよく────



「坊ちゃんとは違い、ブランお嬢様は無能ですね」



────と言われる。

 でも、私はそのことについて文句は言えない。

 だって、それは事実なのだから。


 兄さんは才能に溢れている。

 誰にも習っていないのに魔法が使える。

 どんな学問も、ものの数秒で理解を示す。

 武術も高位悪魔の1人に習って、たった数日で師匠である高位悪魔を武術のみで倒してしまう。


 私なんかとは大違い。


 普通なら嫉妬を抱いたり、妬んだりするのだろう。

 確かに兄さんの性格次第では、そうなっていたかもしれない。

 

 でも………そうはならなかった。

 兄さんは性格も良い。  

 

 兄さんほどではないけど、私は記憶力がいい。兄さんと関わり始めたのは3歳の誕生日に近い日だった。

 あの日から、兄さんは優しく接してくれた。

 常に気にかけてくれた。

 ドラゴンに生贄にされそうになった時も、魔法を本格的に習い始めた当日に魔法でドラゴンを地に伏させていた。


 

 ………だから、気づいてしまった。

 兄さんはこれからずっと、私のこと気にかけてくれる。

 私が死ぬまで……いや、死んだあとも。

 兄さんなら、私が死んだとしても軽く蘇させる気がするから。


 でも……私は考えてしまう。


 このままでいいのか。

 

 このまま、兄さんに守られ続けられる生活していくのか。

 

 

 そして私の回答は………否である。

 私は兄さんの迷惑になりたくない。

 兄さんなら迷惑じゃないよ──と、言ってくれるだろう。

 だけど私は、そんな兄さんの助けになりたい。



 だから私は決めた。

 私が私を認めるまで、兄さんとなるべく関わらない──と。

 兄さんと喋ってしまうと、兄さんと関わってしまうと、つい甘えてしまう。

 それは私の心の弱さだ。

  

 私が兄さんを無視すると、兄さんは悲しい顔をする。

 それがとても心苦しい。

 

 でも私は決めたのだ。

 これは私の覚悟。 


 いつか、兄さんに本当の想いを話して、堂々と貴方兄さんの隣に立てられるように。






◇◆◇◆






 フォルフォートの邪魔にならないように転移したブランは大賢者バベルの塔を外から眺めていた。

 天高く聳え立つ塔は、肉眼では頂点を見ることができない。

 なぜなら大賢者バベルの塔の頂点は、ほとんど宇宙空間であるからだ。 

 塔の全長は約400 km、熱圏だ。

 

 

 ブランが全力で身体強化を使って、なんと塔の頂点が見える程度。

 そして感じる、物凄い魔力。

 ……フォルフォートだ。


 フォルフォートが魔法を使っているのをブランは感じる。

 そして抱く感想は────



 (───やはり兄さんは規格外ね。今の魔法に込められた魔力量だけで、私の全魔力量と同等)



 それが意味することは、フォルフォートにとっては軽く魔法を使った程度が、ブランにとっては全力を出して、やっと辿り着く境地ということ。

 

 ……とてつもない差だ、途方の無い程の差をブランは感じる。

 月とスッポン、天と地、なんて言葉じゃ足りないほどの差。

 

 でも、ブランは諦めない。

 


(いつか、その境地に辿り着いて、貴方兄さんの隣に立ってみせる)

 

 

 ブランがそう覚悟を決めていると、大きな魔力を感じた。

 だが、その魔力を感じた場所が、フォルフォートが戦っている塔の中ではなく、足元から感じたことにブランは違和感を感じた。

 そしてブランの足元には見たこともない魔法陣が展開されていた。

 


「なに、これ?」



 つい、言葉が出てしまう。

 見たこともない魔法陣。

 見たこともない魔法言語。

 危機を感じたブランは転移でその場所から離れようとするが────



「!!……転移が発動しない」



────肝心の【転移テレポート】が発動しない。

 


「まさか、【魔力無効化結界アンチ・マジック・エリア】?」



 【魔力無効化結界アンチ・マジック・エリア】────魔法を無効化する魔法。【魔力無効化結界アンチ・マジック・エリア】は、魔力の動きを阻害する効果がある。

 

 魔力無効化結界アンチ・マジック・エリアから抜け出す方法は2つ。

 

 1つは【魔力無効化結界アンチ・マジック・エリア】の範囲外から結界を破壊してもらうか、範囲外まで自力で抜け出すか。


 2つ目は魔力の動きが阻害される中、自分の魔力操作の技術で無理やり魔力を動かし、魔法を発動させることだ。


 でも、ブランにはそこまでの魔力操作の技術は持っていなく、ここから抜け出そうにも転移も身体強化も発動しないため、時間がかかる。

 その間に足元に展開されている魔法陣が発動してしまうだろう。



 ブランはなんとか藻掻こうとするが、その抵抗虚しく、魔法陣に巻き込まれてる。

 そしてブランは、この場所から…………いや、このから姿を消した。





……

…………

…………………

………………………………


「ウッ……ここは」



 目を覚ましたブランは周りを見渡す。

 ブランは、とりあえず視覚からの情報を得ながら、魔法でも情報を探ろうとする。

 そして目が覚めたブランに近づく1人の足音。

 ブランはその足音に気付き、顔を上げる。

 


「お目覚めですか?」



 そう言って覗いてくるのは、可愛らしい容姿に派手なドレスを着た少女。

 少女の他にも、もう数人はいる。

 冷静な思考になって、もう一度辺りを見渡すと、そこは最近に見た景色と重なる。

 そう、フォルフォートのために用意した王座の間だ。

 ブランは知らない王座の間で寝ていたのだと察する。


 王座に座る老人は、2人の騎士らしき人物を側に起き、王座の隣の椅子には王様の夫人らしき人物が座っていた。


 ブランは試しに【魔力感知センシング】を発動して、相手の魔力量を探る。

 そして、ここにいる全員の人物の魔力感知して抱いた感想は────

 


「──弱い」

「え?」



 目の前で覗き込んでいた少女に聞こえていたのか、変な返事をしているが、ブランにとってはそれどころではなかった。

 


 (あまりにも弱い。この程度の魔力量であれば脅威となり得ない)


 

 周辺には、ブランと同じように眠っていた人達が4人はいる。

 その4人達も、周りに比べたらマシではあるのだが、ブランからすれば、それでも少なすぎる。

 よくこの魔力量で生きてこられてたものだと、逆に感心してしまった程だ。

 

 ブランにとって常識はあの塔だ。

 あの塔ではブランなど、強さでいえば、よくて中の上だった。

 そんなブランは、外の世界は危険だとフォルフォートに教えられていたため、盛大な勘違いをしていたのだ。



「兄さんが危険だと言う外の世界は、私程度の能力では生きていけないのだろう」



───と。


 フォルフォートはただ単純に、ブランほどの美貌の持ち主が外に出れば、男がわんさかと群がるということ危惧したのだが、ブランの思考はフォルフォートの思っていた回答に辿り着いていなかった。


 これは完全にフォルフォートの言葉足らずというミスであるのだが、このミスがブランの今の現状を理解する要因の一つとなる。



(もしかしたら、ここは異世界なのかもしれない。昔、兄さんにラノベなるものを教えてもらう時に話を聞かせてくれた、異世界転移という現象に似ている。もし、ここが私の知る世界とは別なのだとしたら、この程度の魔力量で生きれる世界もあるのかもしれない)



 全くもって検討外れな推理なのだが、今の現状を正しく理解していた。

 


「あのー、どこか痛いところでもあるのでしょうか?」



 流石に無言の時間が長続きしたせいか、ブランは目の前の少女に心配をされてしまう。



「いや、どこにも痛みなどないよ」

「そ、そうですか。よかったです」



 そう言って、胸を撫で下ろす少女。

 それと同時に───



「…頭、イッテー」

「…ん…なんだ?」

「…おはよう……あれ? ここどこ?」

「…眠い」



 ───ブランの周りで寝ていた4人も起きた様子を見せる。

 


「皆、起きたようだな」



 今まで黙り込んでいた王様らしき人物が口を開く。



「此度はお主達を無断でここに呼んだのを謝罪しよう………すまない」



 そう言って、王様らしき人物が頭を下げる。

 その様子を見て、慌てる様子を見せる周りの人達。その慌てている人達を手で制して、静かになったところで、また口を開く。



「まずは自己紹介をしよう。ワシの名前はエドワード・ヴァル・ウィンストン。この国、ウィンストン王国の国王だ」

「…あのー、なぜ僕達をこんな場所に?」



 そう言って質問するのは、先ほどまで寝ていた4人の内の1人。

 眼鏡を掛けて、知的な雰囲気を醸し出している青年だ。

 


「ぶ、無礼な!!」

「よいのだ」



 国王の側に控えていた騎士の1人が、眼鏡を掛けた青年に剣を突き出すが、国王が宥める。


 

「我が王国は……いや、人類は未曾有の危機に瀕している。それも魔王の手によって」



 国王がそう言って、ブランの脳裏に浮かぶのは兄の姿であった。



(誰の許可を得て魔王を名乗っている? 魔王の称号は兄さんにこそ相応しいというのに)


 

 ここで超絶ブラコンを発揮するブランだが、なんとか口に出さすことはなく我慢できた。



「おぉ、これって異世界召喚のテンプレじゃなねぇか!」



 そう言うのは、茶髪で勝気の雰囲気を醸し出している青年。

 


「ですが、僕達には人類を追い詰めるような魔王を倒すほどの力はありません」

「それは心配ない。ここに来る際に、頭の中で世界の言葉が聞こえたはずだ。そしてスキルを授かったことを知らされている」



 その国王の発言に心当たりがあるのか、神妙な顔した4人。

 


(なにそれ?)



 だが、ブランには世界の言葉など聞こえていない。

 だからと言って、ここで世界の言葉を聞こえていないと発言するほど、愚かなことはしないブラン。

 なぜならフォルフォートの話で、余計なことを言って、面倒な事態に転ぶ異世界転移の話を何度も聞かされていたからだ。



「界渡りをした転移者は必ずと言っていいほど、ユニークスキルを授かっている。そのスキルを使って、どうか、人類を魔王の手から救ってはくれないだろうか。我々にはもはや、希望が、お主達しか残されていない」



 そう言って、またもや頭を下げる王様。王として、あるまじき姿である。

 だが、1人の人類として、未来を思い、この世界の住人を救いたいと思う気持ちは、召喚された5人に伝わった。



「……いいぜ、やってやるよ!」

「……うん! 困っているなら救ってあげなきゃね!!」

「僕的には遠慮したいだが、友達がこう言っているからね。協力するよ」



 初めに口を開いたのは、茶髪の勝気な青年。

 その言葉に続くように、他2人も言う。



「………」

「………」



 だが、ブランともう1人、世界を救うことに協力しようとしている子達と同じ制服を着た女の子は、無言を貫いていた。



「其方達も協力してはくれないだろうか。もちろん、断ってくれても構わない。勝手にこちらの世界に呼んだのは我々の責任だ。戦ってくれないとしても、衣食住はこちらで整える」



 無言を貫いてたブランと、もう1人の女の子に気になった王は、そう発言した。

 

 そして肝心のブランは、考えをまとめ、口を開く。



「私は────────」

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